5.
翌朝。
「デュナン公爵家、ね。まぁ妥当な線か。」
ディディエ殿下は思案顔で述べた。
裏庭での邂逅について、改めて殿下に報告した。ただし、俺自身への問いかけについては伝えていない。何と言えばいいのかわからなかったからだ。
「主、というのは現当主様のことでしょうか。王家を信用していない、と言っていました。」
「まぁそうだろうね。ルナマリア様の一件は、普通に考えれば怒るだろう。」
とそこへ現れたのは、フェビアン殿下。ディディエ殿下の兄上だ。
「昨日の子なんだけど、あれ誰?もしかして、ルナマリア様が産んだっていう人?」
「の娘です。私達の従妹にあたります。ルナと名乗っていました。
彼女にはディアナの代役を頼んでいます。ちなみに本人は、自分の出自を知りません。それから、兄上は自分をディアナだと思っている、と思っています。
というか、昨日すごく喋りかけてましたよね?誰かわからない人に話しかけてたんですか……」
「かわいかったからね!」
ディディエ殿下は、フェビアン殿下の前では改まった口調で話す。どうも兄を立てているようだ。
「いくら従妹だからって、彼女に手を付けるのはやめてくださいね。彼女の存在を表に出すのは面倒の元ですし、遊びで手出しすれば、今度こそデュナン公爵家が反乱を起こします。」
その言葉で、ルナ様がデュナン公爵家の庇護下にあることを悟ったらしい。フェビアン殿下は、やっぱりまだ恨まれてるのか~、とかなんとかブツブツ呟いていた。
「まぁ従妹なら、家族の触れ合いくらいしてもいいだろ。今のうちに思う存分愛でておこう。」
殿下はこちらをちらっと見た後去っていった。
ルナ様は、暇をもて余しているのかヨハンナ殿とよく菓子を食べつつ喋っており、俺やディディエ殿下を見かけると誘ってくれる。
「ノヴァ……さんは、元々王都の人なんですか?」
「敬語は不要です。さんも要りません。俺は元々、王都の隣村出身です。王都には12歳で出てきました。」
「そんなに小さい頃に?なんでですか?」
「敬語は不要です。12歳から士官学校に入学できるので。騎士になれば授業料免除ですし。」
「がっこう?」
ルナ様は学校を知らないらしい。ヨハンナ殿が説明する。
「学校とは、子供や若い方が集まって、先生と呼ばれる知識人から教わって勉強する場所です。普通授業料と呼ばれる代金を払いますが、士官学校は騎士の養成が目的なので、国から補助が出ます。なので、ヘルツォーク様のように騎士になれば授業料は免除されます。」
確かに、普通学校など王都か余程栄えた街にしか無い。俺はたまたま王都の隣村に生まれたから機会があっただけだ。
ルナ様は、しばらく無言で考え事をしていたようだ。やがて口を開いた。
「ノヴァ、貴重な話をありがとう。あと私のことも、他の人がいない時は呼び捨てでいいからね。」
ルナ様は読み書き計算ができるが、普通の村人では滅多に無いことだ。恐らく祖母君か両親が教えたのだろう。紅糸紬村でも、他の村民は読み書きなど無理だと思う。学校というものに興味を示していたのは、生まれ育った村の事を考えていたのだろうか。
彼女は村に帰る気でいるのか。
ルナ様が段々親しくしてくれるようになってきた。ノヴァ、と呼んでくれるようになったし、許可も貰ったので、俺もルナ、と呼んでいる。心の中でだが。
ダンスの練習にも付き合った。密着して踊るので、ルナの柔らかい抱き心地を堪能させていただいた。役得だ。そして何度踊っても照れくさそうにする様子が初々しい。
などと邪念一杯なのが伝わったのか、ヨハンナ殿がダンスの後に大抵吹雪のような冷たい目でこちらを見てくる。反省の意味も込めて、甘んじて受けるようにしている。




