03
ピンポーン。
中洲座とファミレスで会った二日後。インターホンが鳴った。
立っていたのは、ブレザーを着た女子高生。顔は俯いていて見えない。
「これは、私が実際に体験したお話です」
その日、私は制服も着替えず、学校から映画館に来ていました。
推しのアイドルが主演の映画で、普段、映画は観ないけど、これは観てみようと思ったのだ。
チケットを受付で買い、シアターに入る。
私が座るのは最前席。推しの顔が一番大きく見えそうだからだ。
シアターの中は薄暗くて、私は仄かに光るスクリーンを頼りに、自分の席に向かった。
まだ時間じゃないからか、CMが流れている。
知らない映画ばっか。こうやって流れていてもピンと来ない。
ジェイソンのようなマスクを被った男が人を追いかけている。逃げている人達は、人種も性別もてんでばらばらだ。
まるで無作為に集められた人達が、ただひたすら逃げ惑うだけ。
これは駄作でしょ。なんて評論家気取りで、席に着いた。
ジェイソンの映像が終わると、身体を曲げて後ろを覗く。今日は学校が早く終わってまだ昼前だ。加えて平日だからか、公演初日だというのに人がほとんどいない。いくつかの影がスクリーンをぼうと見つめていた。
私が視線を前に戻すと、ノイズと共に別の映像に切り替わる。それはただの住宅街を映していた。
ナレーションもBGMもない。映像の中心を制服姿の女子高生が歩いている。それを遠巻きに映しているだけ。
まるでビデオカメラで撮ったようなエフェクト。ドキュメンタリーなのか、女子高生の歩く音だけがシアターを響かせる。
冷房が強い訳でもないのに、無性に鳥肌が立つ。
曲がり角を何度か曲がり、映像も、それについて行く。
冷たい汗が背中をなぞる。
映画の中で歩いているその後ろ姿に見覚えがある。
全身から血が抜けて、足先が消えて無くなってひまったみたいにふわふわと感覚が無くなる。
知ってる町並み、知ってる制服。あの女子高生は、私だ。
映画館に辿り着いた。私の今いる映画館だ。私の通った経路をなぞるようにシアターへ入る。
スクリーンはホワイトノイズが映し出されて、けれどそれを私が気にした様子はない。
カメラは私の真後ろの席に座った。
今の私に振り返る勇気は持てなかった。指先ひとつ動かすことすら怖くて、針金でぐるぐる巻きにされたみたいに、私はただ、黙ってスクリーンを見ていた。
……そもそも、これは本当に私なのだろうか。
常識的に考えて、そんな短時間で映像を映画館で流せる訳がない。
私の動向を知っているのは不気味だが、この近くにある高校は、私の通っているものだけ。もしかしたらそういうサプライズなのかもしれない。
カメラは常に背中を撮っている。つまり、私だという確証はないのだ。
このあと、本当に私はであれば、振り返る。あの時背後には誰も居なかった。もしスクリーンの私が同様に振り返ったならその顔を拝んでやろう。
ノイズの音だけがジーッと私の耳を反響する。それが向こう見ずな現実逃避だと気付かないまま、私はごくりと唾を飲み込み、その時を待つ。
スクリーンの私が振り返る。その顔は私と瓜二つ。
私と私の目が合う。すると、私は、私には似ても似つかない歪んだ笑みを浮かべた。
「ご清聴、ありがとうございました」




