02
翌朝、俺は中洲座に指定されたファミレスに来ていた。
ソファ席から紫の服に身を包んだ中洲座がこちらを手招く。丸眼鏡を掛けた胡散臭い男だ。
呪物コレクターなるものをやっているらしく、俺はあの薄気味悪い一軒家に住み、何か起きたら報告する代わりに、金を貰うという契約だ。電話で昨夜のことを話すと、早速ファミレスで会う約束を取り付けてきた。
「それでは、昨夜のことをお聞きしても?」
「あぁ」
俺は昨夜起きたことを話す。
「なるほど、実話怪談ですか」
「実話怪談?」
「語り手が実際に遭遇した怪談話のことですよ」
中洲座はニヤリと目を細めると、自慢げに話し始めた。
「基本的にあの世のものは生きているものに直接干渉できないんですが、先ほどのお話の様に、あちらはどうにかこうにかこちら側との接点を持とうと色々と手を変え品を変え干渉して来るんですね」
「つまり?」
「目を合わせたり、会話したり、接点を持つとロクなことがない」
「ハっ今更か?」
既に俺はとインターホン越しに対面しているってのに。
「まぁ、そのルールさえ守れば基本大丈夫ですから——それで、何か見つかったとか」
「あぁ、言われた通り持ってきたぞ」
俺は鞄から携帯電話を取り出した。ガラケーフォンとか、パカパカフォンと呼ばれる一昔前の携帯だ。画面は割れており、充電が切れているのか、電源は入らなかった。
昨夜、あの女が話し終えると、インターホンの画面にノイズが走って、あの女は消えた。そしてインターホンの前にはこの携帯が落ちていた。
「これは……話の中に登場した携帯電話でしょうか?」
「さぁな」
「ゼロから始まる電話番号に、話の内容からすると、この携帯はあの世と繋がる? いや、あの世というより——」
鼻息荒く捲し立てる中洲座に俺は顔を顰める。
「結局、あれはお前の言う、あの世の存在なのか?」
「それを調べるための調査ですので」
「まぁ金が貰えるならなんだって良いが」
「そうしたら約束通り、追加で十万円の合わせて二十万円のお渡しですね」
「……これで二十万か。悪くない」
「では、約束通り手渡し現金で」
渡された封筒の中の万札を数える。
インターホンには必ず出る。その際何が起きたのか中洲座にすぐに連絡すること。それが俺と中洲座の間で交わした契約だ。
今朝電話した際、携帯が落ちていたことを話すと、報酬を弾むからと持って来るように言われたのだ。
「また、何かありましたら是非」
「はいよ」
「くれぐれも、インターホンに出るのを忘れず、目を合わせず、声を掛けぬよう」
俺は手で返事をして、その場を後にした。
幽霊なんてものは信じていない。だが、あれは少なくとも普通の人間じゃないのはたしかだ。
どうも危ない予感が常に俺の心の奥で震えている。
だが、これまで何度も危ない橋を渡ってきた。それに比べれば夜にインターホンに出るだけであとは自由。理解不能な部分は無限にあるが、それを込みでなんとも簡単な仕事だ。手放すのは惜しい。
テレビを付け、ソファに寛いだタイミングで固定電話が鳴る。ここの番号を知っているのは一人だけ。俺は緩慢な動きでソファを離れ、受話器を取ろうとして、その番号を見て手を止めた。




