8.一晩経ったら渡れたよ
「それでデリストさん、都市遺跡の……遺喰樹都キュイジューヌでしたっけ? それって、どこにあります?」
「ああ。このキャンプ地の辺りのはずなんだ。だが、なかなか見つからなくてな」
「元々あたしとデリストはその遺跡を探してたの」
「なるほどー」
うなずいてから、イーティアは首を傾げた。
「飽食時代とか美食時代のギアはお金にならへんとちゃいます?」
「全てがお金にならないワケじゃないわよ? あたしたちはある程度ギアの見分けはつくから、お金になりそうなのだけでも持ち帰ろうかなって」
今度は、本当になるほどとなった。
その時代に使われていた、今の時代では再現できない道具となれば調理器具などが多いのではないだろうか。
確かに料理をしないこの時代には無用の長物であるギアは多そうだが、調理関連でも――例えば自動食洗機のようなものであれば、別の使い道などもあるだろう。
そういう調理用だけど調理以外にも使えるギアというのが、比較的値段がつくものだろう想像はつく。
前世でも、食器洗い乾燥機でフィギュアやプラモデルの塗装を乾かしている人がいたのだし。
「しかし、場所が分からへんいうんはなぁ……」
そう思っていると、デリストは思案するように訊ねてくる。
「例えば、あの木はキミを味方しているようだが。何かヒントを貰えたりはしないか?」
「確かにグミドラシルは、なんや意志がありそうな木ではありますね」
言われてみればそうだ。
そもそもグミドラシルは古い時代に遺伝子操作で作られた木だと鑑定にも出ていた。
イーティアは二人とともにグミドラシルの元へと向かう。
「また実を貰うよ~。
お二人もどうぞ。そのまま食べられるんで、一つもいで食べてください。
ケガや体力回復の効果がある実ですんで」
「ほう?」
「それは素敵ね」
二人の前で、グミをもいで食べてみる。
それを見た二人も同じようにグミを口にした。
「あら、甘くて美味しいじゃない。いいわねこれ!」
「味は悪くないが、食感が好みじゃないな……だがケガと体力が癒されていくのは実感する。かなりありがたいな」
二人の悪くない反応に笑いながら、イーティアはグミドラシルの木の幹に手を当てた。
「なぁなぁ。グミドラシルは、大昔この辺りにあった都市の場所とか知らへん?」
まるでイーティアに答えるように、グミドラシルの枝が揺れ、葉がざわめく。
すると、葉っぱや枝が落ち、ついでにどこからともなく、先ほどの串のようなモノも発射され、何かを示していく。
「地面の葉っぱや枝……道かしら?」
「ちょう、追いかけてみます?」
「すでに暗くなっているから、二人とも気をつけろ」
グミドラシルの導は崖の方へと続いていき、崖に向かって矢印を作っている。
「これは……」
「グミドラシル。これって崖の向こうってコトか?」
肯定するようにグミドラシルが揺れる。
「この崖ってどこか狭くなってる場所あります?」
「なくはない。だがこの谷は目のような形をしているからな。眦にあたる場所にまでいけば渡る手段がなくもないが……」
「でも遠いのよねぇ……。ちょうどここって真ん中の一番広いあたりだし」
どういう手段をとるにしろ、日が暮れてしまっている今は身動きも取れないだろう。
「まぁ暗くなってきてるし、また明日考えましょうか」
「せやね」
「異論はない」
そうして、イーティアは二人のテントにお邪魔して、一夜を明かすのだった。
翌朝――
「二人とも起きてくれ」
「グラストさん?」
「どしたの、グラスト?」
慌てた様子のグラストに起こされた二人は、目を擦りながらも身体を起こして、彼についていく。
すると、昨晩グミドラシルが作った導の先に、橋が出来ていた。
その橋は反対側の崖まで繋がっている。
「……橋が出来とるように見えるんやけど……わたし、まだ寝ぼけとるんやな……」
「そうねぇ……イーティアちゃんは久しぶりにゆっくり寝れたんでしょう……そういう日もあるわよー」
「二人とも起きろ。夢でも寝ぼけた目の見る幻でもない。紛れもない現実だ」
言われなくとも分かってはいる。
現実逃避していても仕方がないと、イーティアとシャルナは大きく伸びをして目を覚ます。
それから、イーティアは橋の近くまで行って、腰を落とすと橋に触れた。
「……これって……もしかせんでも、グミドラシルの根っことちゃう?」
「え?」
「は?」
シャルナとデリストが驚く背後で、グミドラシルがその通りですとばかりに枝を揺らす。
「どうします?」
「どうもこうも行くしかないんじゃない?」
「そうだな。何か腹に入れたらすぐに動こう」
三人はそう結論を出すとテントに戻った。
イーティアは二人から携帯食を分けて貰う。
雑穀を棒状に焼き固めたようなモノで、堅いは堅いがかみ砕けないほどではない。
バリバリゴリゴリと音を立てながら噛んでいると、この世界の食事にしては強めの塩味を感じる。
さらに噛めば噛むほど穀物の香ばしさと甘みが滲んできて、それと塩気が混ざりあう風味はわりと美味しかった。口は疲れるけれど。
「これってギアハンターさん用の携帯食なんです?」
「ハンター用というより、旅人用だな。俺たちに限らず、途中で補給機会の少ない旅をする場合の携帯食だ」
「ふふ。意外と悪くないなって顔してるわね」
「実際、人気はある。旅人でもないのに通常の食事の代わりにこれを食べるという者もいるくらいだしな。俺たちも結構な量を用意してるくらいだ」
確かに一般的な食事の味気なさを思うと、こちらの方が特別感がある気もする。
「これ、一緒にミルクとかスープがあると、もっと美味しく食べれそうやな思ってました」
「何かと一緒に食べる、か。考えもしなかったコトだ」
「基本的に水とお酒以外、食事と一緒に出すコトないものね。酒場とかいくと多少はなくもないけど」
「ジュース……果実水とかもあらへんです?」
「お酒より高くつくし、なにより貴族の飲み物よ、それ」
「なるほど?」
ジュースが貴族の飲み物という感覚にピンと来ない。
だが、料理が定められたレシピ以外認められていないことを思えば、水やお酒に比べると口にする機会の少ないモノになりそうなのは確かにそうだろう。
「食べたなら行くとするか」
「なんだかイーティアちゃんといっしょだからか、食べ慣れたモノも美味しく感じたわ」
「なんや、シャルナさんはお上手ですな~」
「そうなの。見習っていいわよ」
「見習い過ぎるとアホになるからほどほどにしておけよ、イーティア」
「ちょっとデリストひどくない!?」
「あははははは」
お喋りしながら、笑いながらキャンプを片付けて、出発の準備を整えた。
「デリスト。グミドラシルが問題なさそうだったら、グミの実を少し分けて貰った方がいいんじゃない?」
「そうだな。食料としてもそうだし、傷と疲労が癒やせるのは大きい」
「せやったら、私がお願いしてみるよ」
お願いしたら、イーティアの両手に山盛り乗せてくれた。
「……なんやいっぱいもらったんやけど」
「この袋に入れてちょうだい」
シャルナが口を広げた袋のなかへと、グミを入れる。
「一つでヘタな傷用ポーションよりも効きが良いグミがこれだけあるのは助かるな」
「そうねぇ……でもこれ変なヤツに目を付けられたら乱獲されそうだけど、大丈夫?」
心配そうなシャルナに、グミドラシルは大丈夫だ――とばかりに枝や蔦を動かしだした。
すると、グミがなっている枝や蔦は全部、天辺の方にいき、葉っぱの中に隠れてしまう。
「気に入った相手にだけ分けてくれるってコトね。なら安心かしら」
「そうかもな」
デリストからしてみると、この意志をもった不思議な木がなんなのか気になるところなのだが、シャルナもイーティアも気にしてなさそうだ。
ならば自分が必要以上に気にしても仕方が無いのかもしれない――と、無理矢理に自分を納得させた。そうしないと精神的によろしくなさそう……という思いもあったりする。
「さて、出発するわよ」
準備を終えた一行は、根っこの橋に足を掛けた。
底の見えない谷に掛かった手すりのない橋は、少しばかり恐かったものの、安定感があり揺れることが一切なかったので、無事に渡り切れる。
「ん? こっち側にもグミドラシルの木はあったんやね。こっちは実はオレンジや」
それに気づいて木を見ていると、オレンジのグミドラシルは嬉しそうに枝を揺らした。
同時に、橋になっていた根っこがほどけて、消えていく。
どうやらこのオレンジのグミドラシルと、さっきまでいたグレープのグミドラシルの根っこが絡まり合って出来ていたらしい。
「オレンジのグミ。ちょう分けてもらえる?」
訊ねれば、こちらのグミドラシルも嬉しそうに蔦をおろしてきた。
そこからグミをもらいつつ、鑑定をする。
「グミドラシルの実、オレンジ味。
フレッシュなオレンジ味のグミ。グミドラシルの木には、聖樹の遺伝子が組み込まれている為、木の実であるこれにも聖なるチカラが宿っている。具体的には精神を落ち着かせ、減少したり乱れたりしている気力を回復させるポーションに近い効能を持つ。一粒食べれば下級のマインドポーション並に精神と気力が回復する……か」
鑑定結果を読み上げると、デリストとシャルナはギョッとした顔をして、オレンジのグミドラシルの木を見上げた。
「イーティアはそういうのが分かるのか?」
「え? あ、はい。これがわたしの能力です。まぁ万能ではあらへんのですけど」
「オレンジちゃん。あなたはグレープちゃん以上に、人間へ簡単にグミを分けちゃダメよ。
乱獲されるどころか、枯れるまで採取されたあと、切り倒される可能性が高いから」
「下級のマインドポーションとはいえ、その値段は傷を癒すヒールポーションの中級と同格かそれ以上だ。そんな効能のある木の実が簡単に採取されるとなれば、切り倒されて持ち帰ろうとする者もあとを絶たないだろう」
グミドラシルの木には意志がある。
それを前提して忠告すれば、オレンジのグミドラシルは感謝するように枝を揺らした。
「効力を気にせんのやったら、ふつうに美味しいオレンジ味のグミなんやけどなぁ……」
「どっちにしろだ。この味を覚えたら、咎食扱いされかねん」
「そうでなくとも治療と称してみんなこぞって食べにくるかもしれないわよん」
「難儀な時代やなぁ……」
しみじみとうめきながら、イーティアは二つ目のオレンジグミを口に放り込むのだった。
オレンジのグミドラシルさん。ごちそうさまでした。




