4.気づけば肉を焼いていた
「その焼き方はあかんやろッ!!」
「誰だ? どこから?」
「え? 子供? なんで?」
戸惑う男性と女性のことを無視して、イーティアは肉へと向かっていく。
雑にカットされた塊肉。それを、どこからか調達した枝で作った太くて長めの串を強引に刺して、そのまま焚き火の中に放り込んでいる。
直火どころの話ではない。
これでは表面がすぐ黒くなり焦げ臭くなるのも請け合いだ。
「こんなん直火で焼くにもほどがあるッ!」
言うや否やイーティアは焚き火から肉を救出する。
今の身体で持ち上げるには重たい塊だ。だが、焦げた部分以外を見るにかなり肉質が良さそうで、ますますこんなもったいない焼き方をしていることが許せない。
だからこそ腕力も体力もない身体で、全身全霊を持って肉を持ち上げる。肉をダメにするなどイーティアのプライドが許さない。
「お兄さんその座っとる岩からどき」
「いや、何だ急に?」
かなりのイケメンなのに顰めっ面なのがもったいないお兄さんが、目を眇めてイーティアを見る。
だが、今のイーティアはその程度では止まらない。
「ええから退きぃッ!」
「あ、ああ……」
イーティアが発する謎の迫力負けして、お兄さんは岩から退いた。
「なんか水とかあらへん? この岩を一度洗いたいんやけど」
「できるわよー」
そう言って、おっぱいの大きい美人のお姉さんが水を生み出すと、岩にかけた。
「これでいい?」
「バッチリや」
お姉さんにサムズアップしたイーティアは、手に持っていた肉をその岩の上に置く。
ようやく置けたのでひと心地つきたいところだが、ついている場合ではないので次の行動に移る。
「なんや刃物とかある? 包丁とか」
「このナイフでいいかしらん?」
「ちょう小さいけど、まぁええやろ」
お姉さんからナイフを受け取ると、イーティアは焦げた部分を削り落とし、肉を一口サイズに切り分けていった。
「ええか。塊肉を焼くときは、直接火がぶつからないくらいのところで弱火でゆっくりじっくりが基本や。
そうでないんやったら、燃えない紙や、大きな葉っぱに包んでから焚き火の中に入れる!
せやけど、大きいとそれだけ火が通るまで時間がかかる。そういう時は、こうやってまず一口大に切り分けるんがええ」
そう説明しながら、イーティアはさくさくと肉を切り分けていく。
何の肉だか分からないものの、良い赤身肉だ。
「……なぜナイフを貸した?」
「なんか美味しいモノにありつけそうだし、面白そうだったから」
お肉を切っている横で二人がなにやら言っているが、イーティアの耳には入らない。
「これを刺すような細い串とか持っとる?」
「んー、そういうのは無いわね」
「そうか。どうしようかな」
最悪は、さっき使われていた太い枝を裂いて串にしようか――そう思っていた矢先、グミドラシルが大きくざわめきだした。
「なになに? 急な突風?」
「いや、あの木以外は動いてないぞ」
お姉さんとお兄さんは、スイッチが切り替わったように周囲を警戒する。
その直後――
シュパパパパパパパっと音を立てて、イーティアの近くに細い竹串のようなものが無数に突き刺さった。
「攻撃かッ、シャルナ警戒しろッ!!」
「嘘でしょッ!? あの木ッ、人を襲うのッ!?」
二人が最大限に警戒――どころか完全に臨戦態勢になる。
イーティアは自分の側に刺さった竹串――竹ではなさそうだけど、竹串にしか見えないので暫定的にそう呼ぶ――をじーっと観察すると、小さく息を吐いた。
それから、グミドラシルの木に向き直ると、大きな声を挙げながら手を振った。
「グミドラシル~! おおきにな~! この串、ええ感じやで!」
「は?」
「え?」
ポカンとする二人を余所に、グミドラシルはどういたしましてと、枝葉をざわつかせる。
イーティアは竹串を回収すると、お姉さんへと笑いかけた。
「ほな、お姉さん、申し訳あらへんのやけど、もう一回水を出してもろてええ?
串の先が泥だらけやし、一回洗わんといけへんからな!」
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「あっけにとられて、思わず言うコトを聞いちゃったワケなんだけど」
「ああ。この子のといい、あの木といい……何なんだ?」
お兄さんの当然の疑問に、答える者――いや答えられる者はいない。
「……というか、お前もどうして最初から彼女の言うコトを聞いた?」
「え? さっきも言ったけど、なんかお料理に詳しそうだったし。美味しいお肉に会えるならそれもありかなって」
「……そうか」
お姉さんの返答に、お兄さんはこれ以上は何を言っても無駄そうだと判断して、小さく嘆息する。
「あ、お二人とも。聞きたいんやけど、お塩とかあるん?」
「あるわよ~」
イーティアに聞かれて、お姉さんは明るく返事をすると、荷物から塩を取りだした。
それを受け取ると、イーティアは軽く手に出して味見をしてから、竹串に刺したお肉にそれを振りかけていく。
「え? そんなに掛けちゃうの?」
「言うほど掛けとらんけどな」
そう答えつつも、この世界では薄味がメインだったことを思い出す。
自分が村で食べていた料理を思えば、お姉さんのこの反応も仕方ないだろう。
「そやけど、塩が利きすぎてるのが苦手言うのもあるもんな。
これは私の分にして、もうちょっと少なめなのも焼こか」
そうして、残りのお肉は控えめに塩を掛けて、焚き火を囲うように刺していく。
「お肉もそうやけど、お魚もな……こうやって直火に当てすぎないように火を通していくのが、美味しく焼くコツや」
「なるほど~」
興味深そうに観察してくるお姉さんを横目に、イーティアは肉の様子を確認しながら、その向きを変えていく。
「向きを変えてまんべんなく火を通すのね」
「そやで。生でイケるお肉も無いわけやないのやけどな。基本的に生肉はお腹を壊す原因になりやすいんよ。
お腹が耐えられないタイプの生肉を食べてまうとな、長いコトお手洗いのお友達になってもうたり、最悪は七魔の門の門番さんにご挨拶するハメになったりするから気をつけてな」
イーティアがそう口にすると、近くで黙って聞いていたお兄さんが低い声を漏らす。明らかに怒った声だ。
「シャルナ」
「いやん。怒らないでデリスト。ささいな失敗じゃない」
「二人揃って宿屋から一週間出れなくなったのはささいとは言えんと思うが?」
「でもほら、最悪は七魔の門へご挨拶らしいし、お互いそれはなかったから、ね?」
「無かったのは結果論だろうが」
ちなみに、七魔の門とはこの世界におけるあの世の入り口のことだ。
門番に挨拶するとは、死にかける――あるいは中に入れてもらう為のご挨拶のことである。
まぁようするに、二人は生肉をすでに口にしていて、大当たりしていたのだろう。
「まぁまぁ、ケンカはそのへんにしとき。
串焼き肉が焼き上がったんや。続きは食べてからでな?」
そう言って、イーティアは焚き火の周囲に刺していた串焼きを抜くと、それを二人に向かって差し出す。
差し出された串焼きを見た二人は、強烈な誘惑の魔法にかかったかのような感覚に襲われ、焼き上がった肉から目が離せなくなっていた。
準備が出来次第、次話も投稿します٩( 'ω' )و




