3.気がついた時には叫んでた
「うん。間違いなくグレープグミの味や」
弾力はあるけど柔らかく、果実を思わせるようなジューシーな風味。
甘くて美味しい。
木に実っているのに味がお菓子というのもおかしな話ではあるのだが。
(アカン、また面白くもないダジャレを考えてしもうた気がする……)
これを繰り返していると自分に交じる関西方面の血が許さない気がする。もっとも転生してしまってるのでこの身体に関西地方の血なんてまったく流れていないけれど。
きっと魂に染みついたモノだということにしておこう。
それはさておきだ。
「甘いもん食べると元気になるって本当なんやなぁ……」
ひとつ食べただけで活力がみなぎってくるのが分かる。
二つ目を手にとり、何となくグミの詳細を知りたいと念じて見る。
すると、詳細の書かれた文字が現れた。
「グミドラシルの実、グレープ味。
フレッシュなグレープ味のグミ。グミドラシルの木には、聖樹の遺伝子が組み込まれている為、木の実であるこれにも聖なるチカラが宿っている。具体的には活力を回復させる液状薬品に近い効能であり、一粒食べれば中級ポーション並に傷と体力が回復する」
それを読み上げて、イーティアは一つうなずく。
「なるほど。甘味だけの作用やのうて、単純にこのグミにもそういう効能があるんやな」
とはいえ、お腹が減っているのでポーションではなく食料として口にさせてもらおう――と、二つ目を口に放り込んだ。
「前世やと、歯ごたえグニグニなタフでハードなグミが好きやったけど、こうやってしみじみ味わうんやったら柔らかい方がええね……」
同時に、ハードグミでなくてよかった――とも思う。
噛むだけで体力を使いそうなハードグミは、今の身体には負担が大きそうなのだ。
グニグニ噛んでいるうちに体力がなくなって、飲み込む前に倒れる自分を想像してしまった。そんな妄想を振り払うように頭を振って、二つ目を飲み込んだ。
すると草木に引っかけたり転んですりむいた傷なども、綺麗に消えていく。
「ふわ……」
同時にあくびが出た。
体力と活力が回復するといっても、疲労そのものが完全に消えるワケではない。
(あー……栄養が巡って、安心感を覚えたからな……身体が本格的な休息を求めだしとるんかな……)
抗えないほどの猛烈な眠気だ。
考えてみたら、捨てられてからこっちまともな睡眠を取っていない。
「ダメや、耐えられ……へん……」
こんな場所で堂々と寝てしまったら、肉食動物たちからの格好の餌食だ。
「せめて、影に……」
グミドラシルの木に沿って歩き、崖側へ移動する。
意味があるかどうかは分からないが、せめてもの抵抗だ。
ここならば――谷の向こう側からならいざ知らず、こちらの森からは簡単に姿は確認できないはずである。
「グミドラシル……ちょう根っこかりるよ?」
ちょうど良い高さの根っこがある。
硬くはあるが、不思議と頭を乗せると心地よさを感じる。
「限界や、おやすみ……」
誰にともなくそう口にすると、イーティアは眠りへと落ちていった。
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グミドラシルの木は、おのれの本能が何かを訴えているのを感じていた。
自分の根元で寝る人間の子供。
この身に宿る聖樹の本能が、この子は守らなければならないと言っている。
時に勇者を、時に魔王を、世界を維持する為に導きを与えたという聖なる樹の本能と本分が、少女に手を貸せと叫んでいるかのようだった。
だから――グミドラシルの木は、子供へ向けて葉を散らす。
掛け布団としての意味はもちろん、ちょっとしたカモフラージュとして。
それから、木の根を少しだけ柔らかく、寝心地良くする。
意味があるかは分からない。
けれど、本物の聖樹ではなく、そのチカラの一部を宿しているだけの木であるグミドラシルに出来ることなど、この程度なのだ。
人間の子供よ。どうか健やかに。
聖樹のまがい物であるグミドラシルが、僅かに抱く聖樹の誇りを持って、あなたの道行きを祈ります――
あ。協力できそうなことがあれば協力しますので。
今は出来なくても、出来ることを増やしていきますので。
そんな決意表明も、祈りと共に――
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イーティアが目を覚ますと、日はすっかり落ちていた。
「……お布団? いや、葉っぱや」
そして、自分の上に青々とした葉っぱがいっぱい乗っていた。おかげで温かい。
しかし、分の上にだけこんなに葉っぱが落ちてくるようなのは自然としてはありえない。
「……もしかして、グミドラシルの木がなんかした?」
思わず口にするも、そんなワケないか――と、苦笑する。
けれど次の瞬間、まるでイーティアの言葉を肯定するように、グミドラシルの木が柔らかく揺れた。
風を感じはする。
けれど、こんな風に揺れるほどの風ではない。
ならばどうして――
「ほんまに、グミドラシルは意志があるんかな?」
聖樹の遺伝子を組み込まれているそうだし、そういうこともあるかもしれない。
なんであれ、グミを分けて貰ったし、根っこを貸してもらったのだ。
「ありがとな」
幹を撫でながら、笑顔で告げる。
お礼を言うだけの理由はある。
すると枝が揺れて、イーティアの顔の上にグレープグミが一つ落ちてきた。
「おおきにな」
ありがたく受け取って、グミドラシルに笑顔を向けると、イーティアはそれを口に入れた。
甘くて美味しいそれをかみ砕いて飲み込むと、葉っぱの布団をかき分けながら起き上がる。
「喉渇いたなぁ。どこかで水分補給したいところやけど……」
すでに夜の帳は落ちている。
今から森の中に入るのは危険だろう。
「ん?」
どうしたものかと周囲を見回していると、何やら妙な灯りを感じた。
「……誰かおる?」
グミドラシルの影から、灯りのする方をみれば誰かが焚き火をしているようだった。
「……お、お肉の焼ける匂いもする……」
だが、あそこにいるのが親切な人ではない可能性もある。
組み伏せられてしまえば、簡単に殺されてしまうだろうし、何なら谷底へ放り投げられてデッドエンドという危険性はありうるのだ。
「……飲み物とか欲しいんやけど……」
さてどうしたものか。
悩んでいると、お肉の焼ける匂いに、焦げが混ざり始める。
「シャルナ。これで本当にあっているのか。かなり黒くなってきているが」
男性の声がする。
「さぁ? 昔の人は動物や餓獣のお肉を火で焼いて食べてたっていうし、黒焦げにすればいいのかなって」
女性の声がする。
「まぁ確かに以前真っ黒に焼け焦げた豚型の餓獣が良い香りをさせていたからな。焦げを取り除いた内側は色が白く変わっていたから、興味本位で口にしてみたらウマかった記憶はある」
「でしょでしょ。だからたぶんこれで合ってるのよ!」
二人のやりとりに、イーティアは思わず声を漏らす。
「あかん……」
オークチック村の母親が料理をしている姿を思い出せば、この世界の人たちは定められた料理を定められた手順通りにしか料理ができないと思われる。
そういう意味では、あの二人組はそこから逸脱しようとしている存在だろう。
だが――料理の仕方に関する勘違いが酷い。そんな焼き方、お肉がもったいなさすぎる。
それは余りにも、あまりにもお肉に失礼だ。
イーティアからすれば食料調達は難しいのだ。それを思うとお肉の塊を黒焦げにしようとしている二人がにもの申したい。
「そ、そ、そ……そないにもったいない焼き方ッ、したらあかんてぇぇぇ――……ッ!!」
気がつくと、イーティアは悲痛な叫びを上げながら、焚き火を囲む二人の元へと駆けだしていた。
準備が出来次第、次話を投稿します٩( 'ω' )و




