2.森を歩いて見つけ出す
「なんや時々、茶色くて硬いのも混ざっとるんよな」
腹二分目にも満たない量を食べたところで、後ろ髪を引かれながら手を止める。
その際に気になったのは、茶色の花だ。
黄色い花は新鮮なとうもろこしそっくりな味がするのに、茶色い花は硬くて文字通り歯が立たないものだった。
なにせ勢いよく噛みついたら、歯が割れたかと思うほど痛かったのに、花の方には傷一つついてないほどだ。
「……あ、もしかせんでも爆裂種?」
解説出ろ~と念じながら、茶色い花を見れば、【ベルコーン草ハード種】と出てくる。
火を通せば食用可とだけ書かれていたが、それ以上のことは分からない。
「よし。今は諦めや」
気にはなるが、火を通す手段がそもそもないのだ。実験のしようもない。
「お腹はまだまだ減っとるけど、元気は出たしな。もうちょい森を歩いてみよか」
栄養以外の何かも全身を巡っている感覚がある。
それのおかげで、身体に元気が戻ってきたようだ。
「危ない動物とかに遭うんは恐い。そやけど、言うてる場合でもあらへんもんな」
敢えて思考を口に出しながら、イーティアは立ち上がる。
森の中を歩きながら思考と記憶を整理していく。
前世の記憶のかげで、自分の置かれている状況が克明に理解できてしまった。
口減らしとして捨てられてしまった以上は、今から村に戻ったところでどうにもならないだろう。
何より――
「そもそもご飯の量がケチくさいんよ。わたしやなくとも、食べ盛りの子供ならもっと食べへんとどうしようもあらへんやろ」
敢えて声を出しているのは、申し訳程度の熊避け感覚だ。
うさぎなどの小動物なども逃げていくかもしれないが、そもそも狩る為の能力を持たないのだから、逃げられても問題はない。
「三食合わせても大人に必要な栄養が一食分くらいしか取れへん献立よな、あれ」
村に戻ったところで食べられる量はたかが知れている。
何より、イーティアの記憶とマイの記憶を照らし合わせて考えられることとしては――
「あの村では、明確に一人あたりの食事量が定められてるっぽいし。それ以上を欲しがる子は悪食の大食漢扱いや。大して美味しくもない上に、量も食べられへん村なんて、もう用はないんよ」
大人も子供も、食事をまるで作業のように取っていた。
食べなければ死ぬから食べる――ただそれだけのようだ。
「村の風習――ともちゃうな。なんというか常識って感じや」
つまり、この世界にとって食事は楽しいことでもなければ、美味しいものでもないのだろう。
「冗談やない」
明確に、しっかりと、はっきりと、口にする。
「前世も、最後はロクに食事が出来へんようになって死んでもうたんや。
料理するのも食べ歩くのも好きやったわたしには、そんなん我慢できへんかった。せやけど、病気で倒れてからは何もできへんかった。だから――」
それは決意表明であり、意思表明であり、もしかしたらこの世界の常識に対する反逆の意志たるものかもしれない。
「美味しいもんを食べられへんなんてのは、それを我慢するなんてのは、絶対にイヤやッ!」
拳を握りしめながら、力強く己の意志を吐きだす。
なにせ、村の近くにベルコーン草というこんな美味しいものがあったのに、食卓に一度も上がったことがなかったのだ。
それどころか、食卓にあがる料理というのは、ほぼ固定だったといっても差し支えがない。
「味もチェーン店の味かっちゅうくらいに、ほぼ一律やったしな」
いくらでも創意工夫や、アレンジの余地のある料理だった。
なんなら、塩などの調味料で、もう少し味を調えたくもあった。
けれど、誰もそれをやらないし、やろうとする意志すら見受けられなかったのだ。
「ま、村の掟だか世間の常識だか知らへんけど、村を――人里を追放された身や。好き勝手やらせてもらうだけやね」
質素倹約大いに結構。けれどそんなものはやりたいヤツが勝手にやっていればいい。
ふんす――とやる気を出したところで、前世のクワの実を思わせる木の実を見つけた。
一生懸命背伸びしてみたものの、この身長では一番低い枝にある実も採れそうにない。
「ん~……ぬぬぬぬ、むぅ……。
木の実はあれど、この身体やと木登りも難しそうやなぁ……」
ほっぺたを膨らませながらも、イーティアは嘆息とともに木の実を諦めた。
鑑定してみれば【ジュワークワの実】という名前だと判明する。
どうやら、そのままでも食べられるようだ。
しかし手が届かないので諦めて、イーティアは周囲を見回す。
すると、木々の隙間から、ひときわ目立つ大きな木が見えた。
立派なだけでなく、妙な煌めきと、神聖さ……そして、不思議と目が離せない何かを感じる。
それが妙に気になって、草木をかき分けながら、その木を目指すことにした。
木までは意外と遠かった。
木々や草木をかき分けながら進んでいるので、余計にそう感じたのかもしれない。
その間にも、植物に対して鑑定を使って可食の確認をし、口にして栄養補給を行いながら進んでいく。
やがて視界が開けると、大きな谷のような場所に出た。
周囲は相変わらず森に囲まれているのだが、この谷周辺だけは開けている。
「谷っちゅうよりも大地の傷跡って感じや」
両サイド共に断崖の断面がでこぼこしてる感じがなく、平らで綺麗だからなおさらそう感じるのだろう。
裂け目の両端は森の中にあるようでここからは目視できない。
そもそも、ここだけ小さく空間が空いているだけで、左右も谷の向こうも木々の溢れた森だ。
案外、ここは地図にも載っていない可能性がある。
そんな場所の少し小高くなったところに、かわった雰囲気の木があった。
イーティアが気になった木はあれだろう。
「なんや、妙に気になったんよなぁ……木だけに?」
我ながら面白くないことを口にしているな――なんて思いながら、とてとてと歩いて、その木に近づいていく。
「……グミの木?」
その木にはグミが実っていた。
いわゆる森の果実である茱萸ではなく、駄菓子屋さんとかコンビニとかに置いてあるほうのグミ菓子だ。
ブドウの形をしたフルーツグミ。まさにそれが、この木には実っている。
しかも、たわわに実っているからか、枝が垂れてイーティアでも簡単に採れそうだ。
「なんや、この木……」
異世界ファンタジーだからってこれはアリなのだろうか――と、イーティアの前世が首を傾げるが、今はそれはどうでも良かった。
「【グミドラシルの木/グレープ味】。高度な文明を誇っていた先史文明時代の遺伝子操作技術によって生み出された世にも珍しいグミ菓子の成る木。聖樹の遺伝子が組み込まれている為、僅かな水と栄養さえあれば枯れず腐らずその姿を維持し続け、実をつけ続ける――か」
たかがグミ菓子。されどグミ菓子。
この場、この時、この瞬間において、この木は恵みの樹だ。
「先史文明人と、今なお実をつけ続け取るこの木に感謝を込めて――」
イーティアは両手を合わせて感謝の祈りを深々と捧げた。
「――いただきます」
準備が出来次第、次話を投稿します٩( 'ω' )و




