13.お城の厨房を調べたよ
「このお鍋は使えそうやなぁ」
お城の厨房を物色していると、洗えば問題なく使えそうな鍋が見つかった。
「あとは、このお椀やスプーンも使えそうや」
お皿とお椀、カトラリーなども洗えば使えそうなモノがある。
1000年前の遺跡とはいうが、技術力が高かったせいか、異常なほどに物持ちが良いようだ。
あるいは、この遺跡――というか町そのものが、モノの保存性を高める機能を有していたのか。
事実はなんであれ、有用なモノはありがたく利用させてもらうだけである。
「というかギアはともかく、お掃除すれば厨房としても使えそうね」
「そうだな。用途の分からないギアもいくつかあるが……だいたいは燃料切れで使えないだけのようだ。喰晶石の類いで補充してやれば、使える可能性がある」
掃除やメンテナンスをすれば、かなり使えそうだ。
「喰晶石ってなんです?」
「ん? あー……そっか。田舎の方だと遺失技術品どころか、遺物再現品もないもんね」
「ちなみに、リ・ギアはギアを今の技術で再現したモノだな。再現度はかなり低いが、便利であるコトにはかわりない」
厨房を物色しながらも説明してくれる二人に「ふむふむ」とうなずきながら、先を促す。
「そしてギアやリ・ギアを動かすエネルギー源が喰晶石なワケ。
その喰晶石は、かつて喰魔王がこの世界に蔓延させたエネルギー『喰気』が結晶化したモノよ」
「喰気って、お二人が走るときに使ってたヤツです? なんか、オーラっぽいの纏ってましたけど」
「ああ。それで合ってる。かつては動植物だけが適応していたらしいが、現代では人間も喰気に適応している。なので喰気を利用して、身体能力を強化したり、火を起こしたりといった使い方ができるようになってるんだ」
ようするに魔法を使う魔力みたいなモノか――と、イーティアは納得する。シャルナが水を出したりしているのはそれだろう。
前世の知識のおかげで、比較的すんなり理解できた。
「喰気ってどうすると結晶になるんです?」
「基本的には餓獣の体内で精製されてる感じね」
「体内?」
「そ」
シャルナが一つうなずいてから続ける。
「そもそも餓獣っていうのは、喰気を大量に蓄えて異形化した動植物のコトよ。
まぁこの時代の動植物の多くは、人間も含めて体内に喰気を蓄えてはいるし、この1000年間に変化してそれが通常の生態系に組み込まれちゃったりとかもあるんだけど、そういうのはさておいて――そんな中でも、体内の喰気を人間と同じように利用できる動植物を餓獣って言うワケ」
「その餓獣が一定以上の量を蓄えてる場合、死んだ時に体内で喰晶石するんだ」
それを聞いて、イーティアはふと思ったことを訊ねた。
「というコトは、や。同じ種類の餓獣でも喰晶石が取れたり取れなかったりするんです?」
「さすがイーティアちゃん。その通りよ。しかも取れる餓獣ってのは、だいたい他の個体よりも強かったりするからねぇ……だから喰晶石そのものが結構、高級品なワケよ」
シャルナの説明を聞いて、先ほど解体したウサギの中からは見つからなかった理由に納得する。
だが、そうなるともう一つの問題が発生するのではないだろうか?
その疑問を二人に尋ねてみる。
「それやと、ここでギアを見つけても使えなかったりします?」
イーティアが一番気になるところだ。
喰晶石の入手手段が少ない以上は、ギアを見つけても燃料の補給ができない可能性が高いと思えるのだが。
だが、デリストは少し思案してから首を振った。
「本来であればうなずいていただろう。
だが、ここは魔の森とも言われている場所にある遺跡だからな。そもそもこの森にいる餓獣は通常個体よりも強いと言われているくらいだ」
「そっか。そう考えるとこの近辺にいる個体は喰晶石を取れる可能性が高いワケよね。町に住み着いてる子たちはともかく、外の子たちからなら採取しやすかも」
「そうなんです?」
二人の話を聞いていると、この森はわりと危険だということになる。
「なんか、私はふつうにサバイバルして生き延びちゃいましたけど」
「イーティアちゃんの場合、運が良かったのもあるけど、鑑定能力がかなり役だったんじゃないかしら?」
「そうなんかなぁ……? 自分ではようわからんのですけど」
鑑定能力で食べられるモノは探したけれど、動物や餓獣を避けるのに使った覚えはない。
そう考えると、確かに不思議だ。
どうして自分は、野生の動物や餓獣に襲われずにグミドラシルのところまで辿り着けたのだろうか。
「まぁ考えていても仕方がない話だ。イーティア、鍋以外に使えそうなモノはあったか?」
考えて手を止めていたイーティアへ、デリストが声を掛けてくる。
「掃除すればこの厨房もそのまま使えそうやけど、今すぐには無理そうですねぇ」
「ギアっぽいのもあるけど、どれも動きそうにないわねぇ……」
「なら、鍋だけか……ん?」
仕方ないか――と口にしながら周囲を見回していたデリストの目が眇まった。
「どうしたのデリスト?」
「少し気になるモノがあるんだが……瓦礫に埋まっているようだ」
「手伝う?」
「いや、俺だけでいい。悪いが二人は夕飯の準備をしておいてくれ」
「りょーかい」
「手持ちで使える素材があれば、イーティアの好きに使わせていいぞ」
そう言って、厨房の奥の方へと向かっていく。
デリストの背中にシャルナは手を振ってから、イーティアの肩を叩いた。
「じゃあ、イーティアちゃん。外へ行こうか」
「ええんです?」
「いいのいいの。本人が一人で良いって言ってるしね」
「まぁお二人がそれでええなら、ええんかな」
そうしてイーティアとシャルナは肉の元へと戻っていく。
「それでイーティアちゃん。お肉どうするの?」
「せやなぁ……」
シャルナが鍋を水の魔法で洗いながら、イーティアに訊ねる。
イーティアは少し悩みながら、肉に対して改めて鑑定を使ってみた。
【ハネミミウサギの肉。
イーティア・ベルタが解体したハネミミウサギから切り出した肉。もっとも最適な形で処理されている。
クセはなく柔らかく、適度な脂を持っていて美味。主食がベルコーン草なのもあり、ほんのりとベルコーンの花を思わせる甘みを感じる。
煮て良し、焼いて良し。肉としてどのような使い方も可能。
そのまま焼いても美味しいが、野菜と一緒に炒めたり、シチューにしたりするのがオススメ】
【ハネミミウサギのホルモン。
イーティア・ベルタが解体したハネミミウサギの各種内臓。
手早く適切に処理がされている為、鮮度がバツグンの状態。
またどれも綺麗に適切な方法で洗ってある為、現状では茹でこぼしは不要。
肉にはない独特の風味はあるが、旨味も脂も肉より強い。
煮て良し、焼いて良し。ホルモンとしてどのような使い方も可能だが、じっくり煮込むとベルコーンの花を思わせる香りと風味を持ちながらも、しっかりとした肉の野味を感じる独特のダシが取れるので煮込みがオススメ】
(この鑑定能力……オススメの調理法まで教えてくれるんか……)
そんなことを思いつつも、肉の使い道を脳内で考えていく。
(ホルモンはスープにしたいな……となると、肉はシチューやない方がええか。オススメしてくれる鑑定には悪いけど、焼きやな。
塩はあるけどそれやけだと物足りひんし……あ、せや。あれも使わせてもらおか!)
料理の完成形と、必要な素材や手順を思い浮かべると、イーティアは「よし!」と気合いを入れる。
それと同時に、ようやくちゃんと料理できるチャンスに、イーティアは高まるテンションを隠しきれずに笑い出す。
「ふっふっふっふ……待っとれよウサギ肉ちゃん!
わたしがめっちゃ美味しく調理したるからな~!」
「イーティアちゃん顔、顔。なんかすごい邪悪に蕩けた妖艶顔してるんだけど? だいぶあぶない顔してるから気をつけて?」
魔王とか悪役というより、悪女かサキュバスじみてない? とシャルナは思わずツッコミを入れるのだった。




