12.美味しくお肉をたべたいね
イーティアがビルの外で少しの間を待っていると、デリストが鳥の羽のような形の耳を掴んで、三匹ほどのウサギを持ってきた。
解説にあった通り、ウサギにしてはかなり大きくて、まん丸でフサフサだ。
毛がコーンポタージュのような色合いしているし、死んで目を閉じている姿でもかなり可愛い。
「仲間意識が強いらしいからな。気づかれないようにで、三匹ほどだ」
「二階に結構いっぱいいたしね。バレて一斉に怒られたら流石にマズイかな~って」
「三匹でも十分ですよ~! じゃあこれを拠点に持って帰って……」
イーティアがそう口にした時、恐らくは出かけていたのだろうミミハネウサギが一匹、どこからともなく滑空してきて、こちらの目の前に着地した。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
三人と一匹が無言で見つめ合う。
果たして、ウサギの目にこちらがどう映っただろうか。
僅かな間、沈黙がそこに流れて――やがて、最初に正気に戻ったウサギが声を上げた。
「ピ……ピッキィィィィィィ――……!!」
「ウサギってそんな鳴き声なん!?」
「言ってる場合か!」
「ちょッ! 二階の窓! ウサちゃんが大量に……!!」
「窓際で光る赤い目! 大量にあるんはちょう恐いなぁッ!?」
「イーティアちゃん、ちょっと失礼するわねッ!!」
「ほわァーッ!?」
言うやいなやシャルナはイーティアを横抱きに持ち上げる。
「デリストッ、逃げるわよッ!!」
「言われるまでもないッ!!」
二人が声を掛け合った直後、二階の割れた窓からウサギたちが一斉に身を乗り出してきた。
囲まれるわけにはいかないと二人も勢いよく走り出す。
羽のような耳で滑空してきながら、ハネミミウサギたちが追ってくる。
その雰囲気は明らかに怒りを孕んでいた。
力強く地面を蹴って飛び上がり、着地する。
そんなドン、ド、ドン、ド……という音が津波のように追いかけてくる。
「空飛んでる子も跳びはねてる子も、みんな速いわねッ!?」
「無駄口叩いている暇があるなら走れッ!」
「分かってるわよッ! イーティアちゃんッ、口閉じといてね! 舌噛むからッ!」
軽口を叩き合いながらも二人は、この世界に満ちているチカラ――喰気と、己の体内に宿る喰気を利用し、身体能力を向上させると、スピードをあげて駆け抜けていく。
「めっちゃ速いなー! って痛ァ!? 舌噛んだ!?」
「だから口を閉じなさいって!」
「そろそろ振り切れそうだッ、もうひと踏ん張りするぞッ!!」
そうして、なんとか拠点にしているラブホもとい城まで戻ってきた。
ハネミミウサギたちも途中で諦めたようで追ってくる気配はない。
追いかけてこないのを確認した上で、門を越え、城の玄関前まで移動した。
そこでシャルナはイーティアを地面に下ろし、デリストは持っていたハネミミウサギを下に置いて、ぜーはーと肩で息をする。
「ハァ……一匹一匹は大したコトないけど、あの数はやばいわよねぇ……」
「ああ。先の三匹を静かに仕留めたのは正解だったな」
「バレたのが外で良かったわぁ……中であれの対応は無理よ無理」
「同感だ。外でも真正面からやり合わずに済んだのは僥倖だぞ」
二人とも地面に腰を下ろして呼吸を整え出すのを横目に、イーティアは地面に置かれたミミハネウサギを見た。
「シャルナさん、またナイフを借してもらってええ?」
「もちろん」
イーティアはナイフを貸してもらいつつ、ウサギを見る。
前世では興味があって本などを読んで知識はあるものの、実際やるのは初めてだ。
(なんやコツとかポンと分かったりせぇへんかなぁ……)
そう思っていると、鑑定能力が勝手に起動して、何やら鑑定以外の情報が表示された。
(……この案内通りに作業しろってコトやよな? なんて親切な能力や……)
だが、ありがたい。
「よっしゃ、やったるか!」
そうしてイーティアは鑑定の案内通りに作業をして血を抜き、それからハネミミウサギを解体していく。
その作業は知識で知ってはいたものの、実際にやってみるとかかなり大変だった。
単純に作業そのものが大変なのもあるのだが、生き物の解体というのは、馴れていないとそれだけでグロテスクさへの恐怖や、気持ち悪さなどが生じてしまう。
イーティアも最初は感じてしまったのだが、それ以上に美味しいモノを食べたい。このウサギ肉の味に興味がある。
そんな熱情が、解体の大変さやグロテスクさを上回り、自らの手を進めていく。
それに食料にするべく殺したのだ。ならば正しく食さねば、その命を無為に奪ったことになる。
なまじ、ちゃんとした形のウサギを解体しているからこそ――失敗は命の冒涜になるように感じてしまう。
だからこそイーティアは真剣に、真面目に、失敗するものかと手を動かす。
毛皮などを剥ぎ、内臓を取り出し、肉の塊のような姿になってくると、逆にグロテスクさを感じなくなり、むしろ美味しそうに見えてきた。
「ねぇねぇイーティアちゃん。毛皮を残すのは分かるけど、内臓も残すの?」
「ちゃんと処理してあげれば食べられるみたいやしな。捨てるのももったいないやろ?」
「もったいない……もったいない、かぁ」
イーティアの答えに、何か感じ入るものがあったのか、シャルナはもったいないという言葉を噛みしめるように繰り返す。
それを不思議に思うイーティアだったが、デリストはその反応の意味が分かるようだ。
「横で見ている限りの範囲ながら思うのだが……俺たちは贅沢をしてはいけないという言葉によって、かえって贅沢なコトをしてたような気になるな」
「ほんとよね。このウサギを解体するところは初めて見るワケだけど、家畜のモウピッグだって似たような手順で解体されるワケでしょ」
「そうだな。役目を終えて硬く筋張ったモウピッグは、バラされて食料になる。
だが食べて良い量が決められている以上、何らかの理由で普段より多い供給があった場合は、捨てられるワケだ」
「そう。まだ食べられる場所があるのに捨てられる。内臓まで食べようとするイーティアちゃんを見てると、それってものすごくもったいないコトのように思えてきちゃうわ」
「そうだな。考えようによっては、食べれるのに捨てるという贅沢をしているとも言えるかもしれんワケだしな」
二人の会話を横で聞きながら、イーティアはよい兆候だな……などと思ったりする。
モウピッグとやらがどんな生き物かは分からないのだが、それでも家畜として育てられ、年老いると食肉とされることから、牛や豚に近い生き物なのだろう。
(モウピッグ……実はタンやホルモンも美味しい家畜やったりせぇへんかな?)
牛や豚に近い生き物であるならば、十分にありえる。
想像するだけでお腹が減ってくるが、とりあえずは目の前のウサギに集中だ。
(このウサギの内臓は新鮮なヤツなら軽く洗う程度で臭みやクセが取れるっぽいな。胃だけは一度開いて、中を綺麗にした方が良いんやね……)
自分に備わったこの鑑定能力――と呼ぶにはちょっと色々教えてくれすぎるが――は一体何なんだろうか。
覚醒した直後に比べると、随分と得られる情報が増えている。
おかげで色々と助かっているものの、自分の能力ながらちょっと怪しさもあるので、余裕が出来たらちゃんと能力の把握をするべきな気もする。
(まぁ、今は便利に使わせてもらおか)
ひと通りの作業を終えると、イーティアは立ち上がって軽く伸びをした。
「ずっとしゃがんだまま作業するって、案外辛いんやなぁ……」
「お疲れさま。今度は何をするの?」
「これをお料理するワケやけど……とりあえず、や。
お城の方に……なんや、お料理に使えるギアとか残ってへんかの確認したいですね。
ギアやなくとも、洗えば使えそうなお鍋とか食器とかあれば嬉しいんですけど」
言いながら、解体する前に探すべきだったかもしれない。
そう思っていると、デリストも似たようなことを思ったようだ。
「先に言ってくれていれば、君が解体作業中に探してきていたのだが」
「あ。それもそうですね。すみません。解体に集中しすぎとりました」
「いや謝る必要はない」
「そうそう。あたしたちもイーティアちゃんに頼りっぱなしだしね~」
デリストとシャルナの優しい笑顔に甘えるように、イーティアは「ありがとうです」とうなずく。
「食堂らしき場所が一階にあった。とりあえずそこを覗いてみるとしようか」
「了解です」
「いっそこの厨房が使えるとラクなんだろうけどね~」
「確かに」
「お肉は上にかぶせ物をして、一旦はこのままの方がええですかね?」
「それで問題がないようならいいのではないか?」
「その辺りはたぶん、あたしたちよりイーティアちゃんの方が詳しいわよ」
持ち運ぶには少し量が多いし、食堂跡に置いておく場所がなかったなら持ち運ぶのも無駄な労力になる。
僅かに逡巡するも、イーティアはとりあえずは上に布をかぶせておくことにした。
「中を確認したら、すぐ戻ってきた方がええかもです。
何もなかったら何もなかったで、火を熾して焼きますんで」
「わかったわ。ふふ、焼くだけになったとしても十分楽しみね」
「ああ。昨日焼いてもらったのも美味しかったからな」
「がんばりますんで、期待しててくださいね」
そうして三人は、談笑しながら食堂を目指して、城の中に入っていくのだった。




