11.とりま食料見つけたい
城型ホテルはかなりしっかりとした作りだった。
外だけでなく、内部も崩れた箇所はあれどかなりしっかりと残っていた。掃除などは必要そうだが、雨風をしのげる場所としては十分すぎる。
三人で城の中を調べてみようと動き出す。
そのついでに、オレンジ味のグミドラシルの枝は入り口の近くの花壇だったと思われる場所に挿しておいた。
ここに辿り着いた時点で不要になったとは思うのだが、その辺に捨てるのも何か違う気がしたのだ。
地面に挿したところで意味があるかは分からないので、自己満足に近いが。
ともあれ、お城の中だ。
イーティアは前世もラブホを利用したことがない。
その為、どこまで前世のそれと近いのかの区別はつかなかった。
ただ、やはり前世の技術に近いモノで構成されているのは間違いないようだ。イーティアとしても鑑定がなくとも見れば何となくどういう意図のモノなのかは分かる。
エレベーターなどを再稼働させるのは難しそうなので、とりあえず三人は入り口から近いところをそれぞれの部屋にすることにした。
部屋に入ると、大きなベッドや、あれやこれやが形そのまま残っている。
もっとも、部屋の持つ色々な機能はダメそうだ。
部屋にはお風呂らしきものもあったが、こちらもダメそうだった。
ただ、ベッドはしっかりとしてたので、ちゃんと布団を用意すればこのまま使えそうではある。
それを確認したところで、三人はそれぞれに荷物を置いてロビーに戻ってきた。
「一応、携帯食料があるから最低限の食事はどうにかなるワケだけど」
「とはいえ、や。二人には美味しいモノを食べさせる約束しとりますしね。食材の調達は色々考えたいところです」
拠点はできた。
ここを中心に、この遺喰樹都キュイジューヌを探索し、使えそうなギアなどを探して回るのが基本となりそうである。
「ここって野生の動物とかは入って来いへんのですかねぇ?」
「ゼロではないだろう。階段は隠されてはいたが、封じられていたワケではなかったしな」
「なるほどー……他の出入り口とかもあるでしょうし、入ってしまえば外敵は少なそうですしねー」
「お空は見えてるし、周囲を囲む崖の上に柵とかもなさそうだしね。崖をふつう降りてこれる子もいれば、ドジな子が崖から落ちてきたり――みたいなのはあるんじゃないかいら? あとは鳥とか」
意外となんとかなりそうだ。
「それにこれだけ森の植物が町を浸蝕しているんだ。実りの類いもあるだろう」
「だったら、本格的な探索は明日以降ってコトにして――これから、少し食料になりそうなモノを探す……で、どうかしら?」
「異論はない。イーティアはどうだ?」
「わたしはそういう話はようわからんところはありますんで、お二人がそれでええなら従いますよー?」
「よし。ならばこの城から余り離れない範囲を少し散策するとするか。いいな?」
「おー!」
「おー!」
シャルナとイーティアは同時に声をあげて、手を挙げる。
「まったく。本当にシャルナが二人になったようだな」
憮然とした顔をするデリストだったが、声の調子は優しい。文句は口だけで、内心は何も文句はないのだろう。
「そういえば、ここって宿なのよね。名前とかあるのかしら?」
歩きながらそう訊ねてくるシャルナに、イーティが答える。
「ラブ・クピトいうみたいです」
「ふむ。聞かない言葉だが……1000年前でのみ使われてた言葉かもしれんな」
デリストの反応にイーティアは少し答えを窮するが、一応ちゃんと解説することにした。
「恋愛の天使とか、恋の先導者とか、愛の射止める者とかそういう意味みたいですよ?」
クピト――ようするにキューピットのことだ。となると、むしろストレートすぎるホテル名とも言える。
「あらやだ。なんだか素敵な言葉じゃない!」
両手を合わせて目を輝かせるシャルナに反して、デリストの反応はイマイチだ。
「なぜわざわざそんな名前に……婚前の恋人同士が主要な客だったのか?」
「いいじゃないそれ! そう考えると、部屋のベッドが二人で寝ても余裕ありそうな大きさだった理由も分かるわね! 贅沢なご飯を味わったあとの夜は是非とも私を味わって的な?」
「シャルナ。子供の前だぞ」
「おっと! そうだった! イーティアちゃん、今の冗談は忘れてちょうだいね?」
「なんやようわからんけどりょーかいです」
シャルナの言葉にコクコクとうなずきつつ――
(伏せてたはずが、答えに辿り着いてしもうたな……)
――などと思ったりして。
そんなやりとりをしながら歩いていると、元々は雑居ビルだろう細長い建物の前にさしかかる。
ビルの上半分はすっかり無くなっているが、下半分はまだ健在のようだ。
とはいえ、他の建物同様に、苔や植物に飲み込まれ緑色になっている。
その建物の前で、デリストが足を止めた。
「どうしたのデリスト?」
「食料になるかは分からんが、ここに何かいるな……」
「お城からだいぶ近いわね……住んでるやつ次第では、私たちの安全そのものが危ないかもしれないって話?」
「ああ」
少し真面目な顔をした二人はイーティアを見た。
「君の鑑定能力は、どこまで分かるんだ?」
「上でオレンジのグミドラシル鑑定した感じの内容がメインですよ?」
「ふむ。ならば、この建物は鑑定できるか? あるいは中の様子ないし、中に潜む生き物も鑑定可能なら助かるんだが」
「了解です。ならちょう試してみますね」
「頼む」
デリストに頼みを聞いたイーティアは、雑居ビル跡を見ながら、鑑定でろ~と念じる。
「スーシア第三ビル。その廃墟。かつては六階建ての雑居ビルであり、四階から六階には地方料理が食べられる居酒屋が入っていた……が、今では四階までしかない。
三階には各店舗の事務室と管理人室、警備室などがあった。
下の階にはペットショップが入っており、一階は犬や猫など。二階では虫類を筆頭にウサギやネズミなどの珍しい生き物を取り扱っていた。
廃棄された直後は食料が多く存在する場所として野生の生き物たちが取り合っていたが今はその影もない。現在は食料はなくなったものの、二階は居心地が良いのか様々な動物や餓獣たちが入れ替わり立ち替わりナワバリにしている」
そして、出てきた鑑定結果を読み上げるとデリストとシャルナは驚きつつも、困ったような顔をしている。
「面白い情報は得られたけど、有用というほどではなかったわね」
「ペットショップというのはなんだ? 犬や猫は分かるが……取り扱うという意味がわからん。肉を売っている場所という感じの説明でもなかったが」
「まぁ気になるところはあとでイーティアちゃんに聞きましょ」
首を傾げるデリストに、シャルナは笑いかけてから、イーティアへと向く。
「それより、イーティアちゃん。もうちょっと踏み込んで、今は中で何がナワバリを作ってるか調べられそうかしら?」
「うーん……ちょう待ってくださいね……」
もう一度、鑑定結果でろ~と念じてみる。
その念の中に、中に住んでる生き物について知りたいという意志を混ぜてみた。
すると、先ほどビルだけを鑑定していた時とは異なる情報が現れたので、それを読み上げる。
「ミミハネウサギ。同類たちとナワバリを共有しつつ、それぞれ独立した個人活動を行うウサギ型の餓獣。通常のウサギよりも大型で、名前の通り耳が鳥の羽のような形をしていて愛らしい姿をしている。その耳を用いて軽い浮遊や滑空を行える。草食ながら好戦的。一方で相手のナワバリを尊重する為、余所のナワバリへは不必要に踏み込まない。鋭く硬い前歯や、高い筋力を誇る後ろ足によるキックなどは強烈。基本的には個々で動くが、ナワバリや同胞を守るためならば、団結するコトもある。一般的なウサギ同様に肉は食べられる」
良い感じの結果が出たと思う。
そんなことを考えながら、デリストとシャルナに向き直ると、二人は難しい顔をしていた。
「ふむ。集団に囲まれると厄介そうだが、おびき出して何匹が捕まえる分には良さげだな」
「そうね。余所のナワバリを襲わないなら、城へ入ってくるコトは滅多になさそうだし」
それから二人は二言三言の言葉を交わしたあとで武器を抜いた。
デリストは装飾のないシンプルな片手剣を、シャルナは杖のようにもボウガンのようにも見える不思議な武器を。
「イーティアちゃん。ちょーっと行ってくるから、良い子でここに居てくれる?」
「何か注文があれば聞くぞ?」
スーシア第三ビルを見上げながら言ってくる二人。
それを聞きながら、イーティアは大真面目に答えた。
「せやったら……できるかぎり傷は少なめで、殺したモノは可能な限りすぐにわたしのところに届けてくると嬉しいな。
お肉を食べるなら、新鮮なうちにちゃんと処置をせんと、すぐに臭いが強くなりますんで」
その答えに、シャルナとデリストは顔を見合わせて笑う。
「クライアントの意向は理解したわね? できる?」
「できるかどうかは問題じゃないな。何はどうあれ、シャルナはやるのだろう?」
「もちろん」
「ならば愚問だな。付き合うだけだ。いつものようにな」
「おーけー。じゃあよろしくね。いつものように」
それじゃあ行ってくる――と、二人はそう口にして、気負った様子もなくスーシア第三ビルへと踏み込んでいくのだった。




