第4章:木製のクローゼットと血の誓約
#R15 #サイコスリラー #ヤンデレ #執着 #共依存 #マウンテン・スリラー #因果応報
標高二千五百メートルの嵐は、飢えた怪物の咆哮のように鳴り響いていた。僕のウルトラライトテントの壁は強風に煽られて激しく羽ばたき、耳を弄するような騒音を立てている。内部の気温は氷点下まで急降下したが、僕の体温は熱を帯びていた。
目の前では、朱里がスリーピングパッドの上に力なく横たわっている。折れた足には粗末な添木を当てておいた――彼女の「罪」を思い出させるため、あえて絶え間ない激痛を感じるように、不完全なままにしてある。彼女の顔は死人のように蒼白で、薄暗いテントの天井を虚ろな目で見つめていた。
「痛い……江戸さん……寒い……」彼女が微かに喘ぐ。
「しっ……。全部、君が聞き分けのない子だからだよ、お前」僕は冷たい汗の滲む彼女の額を撫でながら囁いた。「この状況は、秋田県にあった昔の家を思い出させるね。覚えているだろう? あの木製の大きなクローゼットの中に隠れていた時のことを」
僕は目を閉じ、二〇〇四年の記憶に意識を委ねた。
【回想 ― 二十年前】
父が痩せ細った小さな少女を家に連れてきた時、僕は五歳だった。朱里。事故で亡くなった父の親友の娘だ。最初の日から、僕は彼女が特別だと分かっていた。美しく、脆く、そして何より重要なのは、彼女には頼れる人間が誰もいないということだ。
僕たちの母親は冷酷な女だった。僕たちが騒ぐと、大きな木製クローゼットの中に閉じ込めるのが常だった。狭く暗い空間の中で、僕は朱里の恐怖の匂いを嗅ぐことができた。それは、ひどく酔いしれるような匂いだ。
「泣かないで、朱里。泣いたら、またお母さんに打たれるよ」僕は彼女を強く抱きしめながら囁いた。
「江戸兄ちゃん、怖いよ……」
その時、僕は気づいたのだ。暗いクローゼットの中には、外の世界など存在しない。母も、父も、ルールもない。そこにあるのは、保護者としての僕と、所有物としての彼女だけだ。僕はわざと母のお気に入りの花瓶を割り、使用人に罪をなすりつけて、二人でクローゼットに閉じ込められるように仕向けたこともあった。あの狭い空間で朱里と二人きりになれるのなら、拷問のような罰さえ厭わなかった。
ある日、僕は庭で翼の折れたスズメを見つけた。それを朱里に見せるためにクローゼットへ持ち込んだ。
「見て、朱里。綺麗だろう? この子はもう飛べないんだ。ずっとここで僕たちと一緒に暮らすんだよ」僕は微笑んで言った。
朱里がその鳥を逃がそうとした時、僕は彼女の目の前でスズメの首を握りつぶして殺した。僕は彼女に知ってほしかったのだ。僕が愛するものは、どこへも行ってはならない。もし飛ぼうとするのなら、僕の手の中で壊してしまったほうがマシだ。
【現在】
僕は目を開けた。朱里は、夫の仮面の裏に潜む怪物を見たかのような、戦慄に満ちた眼差しで僕を見つめていた。
「あなた……あの花瓶をわざと割ったの? あの鳥も……」彼女の声が激しく震える。「あなたは子供の頃から狂っていたのね、江戸さん」
僕は低く笑った。その笑い声は外の嵐の轟音にかき消される。僕は彼女の弱り切った体にのしかかるように這い寄り、その唇のすぐ傍で囁いた。
「狂気じゃない、朱里。それは献身というものだよ。ブレーキが故障するあの『事故』で両親に消えてもらったのも、もう二度と僕たちを引き離す者がいないようにするためだ。僕が君の唯一の世界になれるよう、僕たちは孤児になる必要があったんだよ」
朱里は悲鳴を上げようとしたが、僕は即座に乱暴で執拗な口づけでその唇を塞いだ。彼女の涙の塩分が、割れた唇から流れる鉄の味と混ざり合う。
「佐藤なんて、ただの小さなノイズに過ぎない」唇を離した後、僕は言った。ジャケットのポケットから一つの物体を取り出す。画面の割れた佐藤のスマートフォンだ。「返信はしておいたよ。君はこの山で僕と一緒にいて最高に幸せだから、もう二度と連絡しないでくれ、とね……永遠に」
僕は彼の連絡先をすべて消去した。
「さあ、このテントが僕たちの新しい木製クローゼットだ、朱里。そして今度は、誰もお前のために扉を開けてはくれないんだよ」




