第15章:高地の血の巡礼
#R15 #サイコスリラー #ヤンデレ #執着 #共依存 #マウンテン・スリラー #因果応報
それは繰り返される悪夢のようだった。だが今回、僕はその筋書きを書く演出家ではない。
頭蓋骨を割るような激痛と共に、僕は目を覚ました。自らの血の生臭さが嗅覚を埋め尽くしている。手を動かそうとして、両手首がプルジックコードで固く縛られていることに気づいた。あの時、僕がテントの中で朱里を拘束するのに使った、あのロープだ。
「起きろ、江戸さん。登山口に着いたぞ」海斗の声は冷たく、感情が欠落していた。
僕は顔を上げた。僕たちは北アルプスの麓、雪に覆われた森の縁にいた。暗く、冷たく、そして静まり返っている。海斗は僕の前に立ち、屋敷から略奪した僕の登山用ジャケットを着ていた。その傍らで、朱里は海斗が引く小さな雪そりの上に座っていた。彼女は僕を見つめていたが、そこにあるのは愛ではなく、ただ捨て去るべきゴミを見るような眼差しだった。
「立て」海斗が僕の首にかかったロープをぐいと引いて命じた。
「頼む……足が……動かないんだ……」僕は呻いた。
昨夜の屋敷での死闘で、僕の膝は砕けていた。立とうとするたびに、骨と骨が鋭い硝子の破片と擦れ合うような衝撃が走る。だが、海斗は容赦しなかった。彼は僕を茨の茂みの中へと引きずり、僕の顔は傷つき、高価なジャケットは無残に切り裂かれた。
「かつて貴方は言ったわよね、山は血を結びつけるための純粋な場所だって」朱里がそりの上から語りかけた。彼女の膝の上には、海斗のピッケルが置かれている。「さあ、その言葉を証明してよ、江戸兄ちゃん。登って。犬神家に対するあなたの『愛』がどれほどのものか、見せてちょうだい」
何時間もの間、僕は凍てついた小道を這いずり、よろめきながら歩かされた。その姿は無惨だった。鼻水と涙が頬で凍りついている。支配と力を誇示し続けてきたこの僕、犬神江戸が、自ら壊した妹の足元で子供のように泣き言を漏らしている。
「もういい……疲れた……ここで死なせてくれ……」僕は雪の中に倒れ込み、喘いだ。薄い空気が肺を締め付け始める。
海斗が僕の前に跪いた。彼はザックから水筒を取り出したが、僕に飲ませる代わりに、その冷たい水を僕の頭に浴びせかけた。「まだ諦めるな。大キレットにはまだ着いていない。あそこからの景色を、もう一度拝ませてやる」
「なぜ……なぜこんなことをする?!」僕は残された力を振り絞って叫んだ。
「君は痛みを愛しているんだろう?」朱里が淡々と応えた。彼女はそりから降り、トレッキングポールを支えに僕へ歩み寄った。そして、僕の肩の傷口を靴の先で踏みつけた。「あのテントで私に言ったわよね、痛みこそが絆なんだって。今、私があなたを縛り付けてあげているのよ、江戸兄ちゃん。永遠にね」
僕は見上げた。蒼白な月光の下で、槍ヶ岳の山頂が巨大な墓標のようにそびえ立っている。彼らの計画を悟った。彼らはここで僕を殺しはしない。彼らは僕を最高地点へ、僕が真実を捻じ曲げたあの場所へと連れて行き、そこに僕を置き去りにするつもりなのだ。僕が朱里に対して企てたのと全く同じように、自然に命を奪わせるために。
「影山の血が、帰り道を記す」海斗が再びロープを引きながら囁いた。「そして犬神の血が……ここを墓場として記すんだ」
僕は再び引きずられた。純白の雪の上に、赤い筋を刻みながら。僕は氷の表面に映る自分の影を見た。ボロボロで、汚らわしく、無価値な男の姿。これが僕のナラティブ(物語)の終焉だ。作者自らが、自分のペンに刺されて死ぬ悲劇。




