第12章:終わりなき廊下の残響
#R15 #サイコスリラー #ヤンデレ #執着 #共依存 #マウンテン・スリラー #因果応報
秋田の犬神家の屋敷は、今や静寂が過ぎる監獄と化していた。外では雪が窓の半分を覆い隠すほどに高く積み上がり、室内には常に薄暗い光が停滞している。
江戸が皿洗いを終えたとき、その音は聞こえてきた。
ズル……ズル……ズル……。
冷たい板張りの床の上を、布が擦れるような音。彼はすぐに朱里の部屋へ向かったが、妻は依然として車椅子に深く腰掛け、背を向けたまま、暗い雪の庭を見つめていた。
「朱里ちゃん? 今、動いたかい?」江戸は目を細め、警戒の眼差しを向けた。
「動けないわ、江戸さん。夕方にあなたが打った注射のせいで、足の感覚がないもの」朱里は振り返らずに答えた。平坦な声だったが、そこには江戸がかつて聞いたことのない冷ややかな響きがあった。
江戸は彼女の肩に触れようと近づいたが、その足が止まった。朱里の傍らの机の上に、粉々に砕けた花瓶があったのだ。二十年前、母が愛用していたあの花瓶と全く同じように。
「なぜ、この花瓶が割れているんだ?」江戸の声が上ずり、微かに震えた。
「私が割ったんじゃないわ」朱里がゆっくりと車椅子を回転させた。蒼白なその顔には、かつて母が常に引いていた、あの毒々しいほどに厚い赤の口紅が塗られていた。「あの『スズメ』が戻ってきたのかもしれないわ、江戸兄ちゃん。あなたが首を握りつぶしたから、怒っているのよ」
江戸は一歩後退した。「馬鹿なことを言うな。そんなものはただの過去だ」
その夜、江戸は眠りにつこうとした。しかし、午前三時十四分――両親のブレーキ故障事故が起きたあの時刻――、広間の古いラジオが突如として鳴り響いた。耳障りなスタティック・ノイズ(静電気音)が流れた後、かつて母がよく歌っていた子守唄の録音が聞こえてきた。
江戸は息を切らし、折りたたみナイフを握りしめて部屋を飛び出した。「朱里! こんな悪ふざけはやめろ!」
彼は、暗い廊下の真ん中に立つ朱里の姿を見つけた。立っている。車椅子もなしに。彼女は壁に寄りかかり、体を引きずるように傾け、暗闇の中から江戸を鋭く射抜いていた。
「どうして彼らを殺したの、江戸兄ちゃん?」朱里が囁いた。その声は二重に重なり、あたかも喉の奥から別の誰かの声が漏れ出しているかのようだった。「お母様が土の中で凍えているわ。お父様は水の下で息ができないって」
「君……歩けるのか?!」江戸が突き進んだが、朱里は素早く身を翻すと、足の不自由な人間とは思えない異常な速度で、階段下の暗がりに向かって這いずり消えた。
江戸が明かりをつけたとき、廊下には誰もいなかった。ただ、木の壁に赤い口紅で円の記号が擦り付けられていた。それは、クローゼットに閉じ込められて罰を受けるとき、母がよく描いていた印だった。
江戸は冷や汗を流した。朱里の部屋に戻ると、彼女はベッドで深く眠っていた。呼吸は整い、まるで一度も部屋を出ていないかのようだった。
「これは妄想だ……隔離生活による精神的影響に過ぎない」江戸は自分に言い聞かせるように呟いた。
彼は知らなかった。朱里が江戸の薬箱から密かに盗み出した興奮剤を隠し持ち、激痛に耐えながら無理やり足の筋肉を動かしていたことを。朱里はその苦痛を燃料にして、兄の正気を削り取ろうとしていたのだ。
江戸が青ざめた顔で部屋を出たとき、朱里は暗闇の中で薄く目を開け、微かに微笑んだ。
(もう少しよ、江戸さん。もう少しで、あなたは何が現実で、何が自分が作り出した亡霊か区別がつかなくなる……)
江戸はまだ気づいていなかった。彼が自らの正疑に震え始めたその時、北海道では、鋼鉄の格子がすでに歪み始めていたことを。




