第10章:秋田の雪の檻
#R15 #サイコスリラー #ヤンデレ #執着 #共依存 #マウンテン・スリラー #因果応報
二〇二五年、一月。
秋田の雪は降り止むことを知らず、窓の高さまで積み上がり、あらゆる出口を埋め尽くしていた。犬神家の屋敷は、凍てついた木造の要塞のように毅然として佇んでいる。この内部では、時が動きを止めたかのようだった。
朱里は二重硝子で閉ざされた縁側の前で、車椅子に座っていた。彼女の足が完全に回復することはなかった。立つことはできるが、その一歩一歩が、あのアルプスでの出来事を思い出させる拷問のような激痛を伴うのだ。彼女は、今や色を失い白一色の平原となった枯山水の庭を眺めていた。
「お薬の時間だよ、朱里ちゃん」
障子の向こうから江戸の声が響いた。彼は冬用の浴衣を纏い、まるで高潔な家主のような佇まいを見せていた。その手にある盆には、緑茶と数粒の錠剤が乗っている。それは、朱里を穏やかで従順な状態に留めておくための、今や「必須の食事」となっていた。
「江戸さん……窓を開けてもいい? 外の空気を吸いたいの」朱里が囁いた。その声は平坦で、感情が欠落していた。反抗すれば、暗い地下の蔵に放り込まれるだけだと、彼女はすでに学んでいた。
「外はひどく冷えるよ、お前。あの海斗の『襲撃』以来、君の肺は弱っているんだから」江戸は彼女の傍らに跪き、白磁のように蒼白な朱里の頬を撫でた。「それに、外を見てどうするんだい? 君の世界はここにある。この家の中に。僕と一緒にね」
朱里は抗うことなく錠剤を飲み込んだ。江戸が自分の喉元を凝視しているのを、彼女は知っていた。
「いい子だ」江戸が称賛した。彼はそれから地元の新聞を取り出した。「ああ、君にニュースがあるよ。影山海斗……彼は先週、北海道の閉鎖病棟へ移送されたそうだ。検察は、重度の精神障害により公判を維持できないと判断した」
茶碗を持つ朱里の手が激しく震えた。――海斗くん……ごめんなさい、と彼女の心は悲鳴を上げたが、表情は仮面のように固まったままだった。
「悲しまないで。彼は適切な治療を受けているんだから」江戸は冷笑を浮かべて続けた。「今は君の回復だけに集中しなさい。使用人は全員解雇した。明日からは、この家に僕たち二人きりだ。僕が君のために料理を作り、体を洗い、一分一秒欠かさず君を見守ってあげるよ」
江戸は朱里の車椅子を窓から引き離し、暗く淀んだ家の奥深くへと連れて行った。
「江戸さん……」
「なんだい、朱里?」
「私は……いつかまた、この家から出られる日は来るの?」
江戸は足を止めた。彼は身を屈め、朱里の総毛立つような言葉を耳元で囁いた。
「もちろんだよ。いつか、僕たちの髪が白くなった頃、君をまたあの山へ連れて行く。でも、登山のためじゃない。僕たちが同じ穴に埋葬されるのを、確実に見届けるためだ。その時が来るまで、この美しい檻を楽しんでいておくれ」
江戸が台所へ去った後、朱里は浴衣のポケットを探った。そこには昨日、床の隙間に落ちていた小さな落とし物――かつて母が残した古いヘアピンの針金――が隠されていた。
壊れた足では逃げられないかもしれない。しかし、この呪われた犬神家の静寂の中で、朱里はある一つの事実に気づき始めていた。江戸は自分を深く愛している。そしてその愛こそが、彼の最大の弱点なのだ。もし人間として逃げられないのであれば、彼女はこの「檻」の中から、内側から江戸を壊していくつもりだった。




