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広がる噂と歪む自覚
勇者ユウトの名は、わずか数日で王都中に広がった。市場では商人たちが誇張混じりに武勇伝を語り、酒場では酔客たちが声を張り上げてその強さを称える。
「森を一人で焼き払ったらしいぞ」
「いや、ドラゴンも瞬殺だって話だ」
尾ひれがついた噂は、やがて“無敵の勇者”という像を作り上げていく。
城へ戻れば、その空気はさらに顕著だった。王女は柔らかな笑みを浮かべて迎え、騎士団長は深く頭を下げる。廊下ですれ違う使用人たちでさえ、敬意を込めて道を開けた。
その中心に、自分がいる。
(……悪くないな)
最初は戸惑っていたはずの視線が、今は心地いい。むしろ、それが当然のもののように感じ始めていた。
ミリアが嬉しそうに言う。
「勇者様、本当にすごいです。皆さん、安心しています」
「まあ、俺がいれば大丈夫だからな」
軽く返した言葉に、彼女は少しだけ目を細めた。その変化はほんの一瞬で、ユウトは気づかない。
(俺は選ばれたんだ。この世界を救うために)
そう思えば思うほど、周囲の称賛は“証明”に変わっていく。
疑う理由など、どこにもなかった。




