悪女への感謝
「え?私に感謝してる?私は魔法陣の作成やレシピを紙に書くくらいしかしてませんわ。全ては王太子殿下の功績ですわ」
離宮の応接間。
お礼を言いに直接やってきたノアに、ユフィーレは事も無げにそう言った。
「でも、祖国ではそんな画期的なアイデアを持ちながら改革的なことをしてこなかったと聞いたよ」
「え、祖国ではしてこなかったって…だってあんな国でそんなことしても食い物にされて終わるだけですもの。嫌ですわ、絶対」
本当に嫌そうな顔でそう言うユフィーレにノアは苦笑する。
「そんなに酷い国だったの?」
「…まあ、大国ですから多少の理不尽はありますわ。いえ、大国でもエトワールは全然違いますけど」
「君から見て、エトワールは居心地はいい?」
ユフィーレは即答した。
「祖国よりずっといいわ。特にこの幽閉生活は最高ですわ」
「そっか…俺に功績を取られて不満ではない?」
「元々、私の望んだことですもの」
「なんでエトワールにそんなに協力してくれるの?」
ユフィーレは小首を傾げる。
「そこまで協力的ではありませんわよ?ちょっとだけ知恵を貸しただけ」
「そうかな…?すごいことしてる自覚ないの?」
「そう見えます?そうでもないですわ。でもそうね、エトワールに協力する理由…強いて言うなら、期待してるからですわ」
「期待?」
「シエル皇国に引けを取らない大国で、同盟国。ここなら、私を完璧に隠して守ってくださるでしょう?」
ユフィーレはそう言って微笑むと、ノアに紙の束を押し付ける。
「ここでの幽閉生活、本当に気に入ってますのよ。だからほら、エトワールには干し芋か焼き芋くらいしかないサツマイモのレシピ、いくつか書き起こしておきましたわ。それを使ってまた儲けて、その分私を隠してくださいな」
そこに書かれていたのはスイートポテトや大学芋やサツマイモのポタージュのレシピ。
干し芋か焼き芋くらいしか作っていなかった、それだけでもサツマイモは十分に美味しいと思っていたエトワールにとっては目から鱗のレシピ集。
「これを持って、さっさとアリス様のところへ行ってくださいな。浮気を疑われても知りませんわよ?」
「ユフィーレさん…そっか、うん、わかった。今回も俺の名前でレシピを出すね。その代わりユフィーレさんのことは絶対隠し通すから。この幽閉生活が快適なら、それを守るよ」
「ええ、期待していますわ」
「またね!」
ノアがユフィーレに手を振って出て行く。
「…オスカーやニコラ、マリユスが大切にするはずですわ。あんなお人好し、放っておいたら痛い目見そうですもの」
「それは君にも言えると思うけどね」
「オスカー」
ノアと入れ替わるようにやってきたオスカーにユフィーレは困った顔をする。
「私は本当に悪女ですわ」
「それでも、お人好しだと思うよ」
「もう…」
オスカーの言葉に、ユフィーレはただ困った顔をするだけだった。




