悪女の噂
「ちょっとオスカー!なんで俺の名前で俺の食べたこともないレシピが王都で広がってるの!?」
「ユフィーレ殿下の希望で、名前は伏せて欲しいって言われてるんだよ。いいだろ、功績になるんだから」
「これじゃ俺が功績泥棒みたいじゃないか!」
「知らないよ、別に悪いことじゃないだろ。ノア殿下は頭が固すぎるんだ」
オスカーはちょうど出来上がったカツ丼をノアに渡して笑う。
「ほら、調理長からちょうど届いたよ。毒味済みだから大丈夫」
「ええ、今?…いただきます。…美味っ!?」
「ね、これは売れて当然だよね」
「…うん、だからこそ功績泥棒したくないんだけど」
ノアの表情が曇る。
オスカーは実直すぎて頭の固い、でも誠実で優しい己の主人に苦笑する。
「ねえ、ノア殿下。ユフィーレ殿下は、なにをそんなに怖がっているんだと思う?」
「…え?」
「魔法陣の開発および紙に描いて売るという発想、その価値は計り知れない。それに新しい食文化を開発したその発想もすごいよね。本人の趣味もかぎ針編みと、実に平和なものだ。だけど本人は自分の功績を隠すようにして、離宮での幽閉生活を自ら望んだ。そして自分を「悪女」と称する。…僕には、その理由がわからない。どんな悲しい理由があるのか、何に怯えて世間から隠れているのか」
「…」
本当に悪女だったなら、幽閉なんて望まない。
国に貢献するようなこともしない。
絶対にアリスを虐めて、ノアの寵愛を得ようとする。
でも、ユフィーレが望むのは平和な幽閉生活だけだ。
「…そっか」
ノアの口から納得の声が漏れる。
「ユフィーレさんは、自分の身を守るためにそうしてるんだね。でも、それでもこの国のために貢献してくれたんだね」
「そういうことだよ、だから隠れ蓑になってあげて」
「…うん、そういうことなら功績泥棒に喜んでなってあげるよ。ユフィーレさんは、本当に優しいね」
「僕の仕える人たちは、みんなお人好しすぎて心配になるよ」
「あはは、苦労をかけてごめんね」
ノアの言葉に、オスカーは何を今更と笑う。
「君のわがままもアリス殿下のわがままも、ユフィーレ殿下のわがままも全部僕らが叶えるよ。そのための側近だろう?」
「うん、頼りにしてるよ。でも間違えそうになった時は言ってね」
「もちろん。ノア殿下なら道を踏み外すことはないとは思うけどね。なにかあったら命をかけても止めてあげるよ」
その頃ユフィーレは…。
「はくしゅんっ…誰か、私の噂でもしてるのかしら?」
的外れでもない独り言を呟いていた。
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