悪女と厄介払い
「それで、実用化出来そうか?」
ユフィーレの手元の魔法陣を覗き込むマリユス。
「ええ、今出来ましたわ」
ユフィーレが余裕そうに微笑み、マリユスの手から鶏の串焼きを受け取って一口口に運ぶ。
「あら美味しい」
「そうじゃろ、わしの好物やき」
「マリユス、僕にもちょうだい」
「ほい」
「ありがとう」
ニコラも美味しそうに食べる。
マリユスも残った串を口に運ぶ。
「しかしもう完成するとはの。おまんどうして祖国からうちに追放されたんじゃ」
「追放ではなく輿入れですわ、名目上は同盟国同士の絆を深めるための」
「名目上やろ。ノア殿下のアリス殿下への溺愛は他国でも知られるところじゃ」
「…悪女だからですわ。他に理由なんてありませんわよ?」
「おまんが悪女には見えん。平民たちのために、こんなすごいものこさえて…」
ユフィーレは少し困ってから、にっこり笑った。
「ええ、本物の悪女は善人の皮を被るものですわ。騙されてはダメよ」
「それをおまんが言うがか!」
マリユスはがははと笑った後、まだ触れられたくないらしいと一歩引く。
「ま、そんなことより魔法陣の完成の祝いじゃな!」
「お祝いなんて王太子殿下とやってくださいな。私はそろそろ趣味のかぎ針編みに戻りますわ」
悪女を名乗るわりに、健全な趣味。
ニコラとマリユスは上機嫌に笑う。
「あはは、素晴らしいねぇ。国家を揺るがすほどの発明の後に趣味のかぎ針編み?本当に悪女らしくない」
「そこがユフィーレ殿下の良いところやき!」
「ちょっと、馴れ馴れしすぎでしてよ?」
「ふふ、いいじゃない。しかし、これじゃ幽閉というより引きこもりだね」
「あら、私はそれでもよろしくてよ。この引きこもり生活のためにここにいるんですの」
そうして三人が戯れあっていると、背後からもう一人。
音もなくユフィーレの後ろに来て、その手元の魔法陣を覗き込むのはオスカーだ。
「へえ、もう完成したんだ。見たことはないけど美しい魔法陣だね」
「あら、オスカー様」
「うん、ユフィーレ殿下の祖国の失われた技術だってさ」
「それ国際問題にならない?」
「それ僕も聞いた。失われた技術なんだから、黙ってればわからないそうだよ。僕たち四人だけの秘密ね」
ニコラがにっと笑ってそう言えば、オスカーの雰囲気も和らぐ。
「そ、ならいいよ。ユフィーレ殿下、ありがとうございます」
「あら、お礼なら結構ですわ。それより王太子殿下にこれを三人で届けて来た方がよくてよ?」
「そうだね、善は急げだ。…また相談に来ても良いかい?ユフィーレ殿下」
「お好きになさって」
こうしてエトワール王国に、前代未聞の素晴らしい魔法陣がもたらされた。




