悪女と特権
「ですから、ここの陣の形成は却って邪魔ですわ!」
離宮の応接間。
テーブルの上にはこれでもかと紙がとっ散らかっていた。
ユフィーレとニコラの努力の証である。
ただし全部ペケだが。
「じゃあどうするのさ。そこを削ったらマナの伝達が上手くいかないよ」
ペンを忙しなく動かしながら、ああでもないこうでもないと悩ましそうに唸るニコラ。
「仕方ないですわね…ここを削って、こう繋ぐと上手く行きますわよ」
ユフィーレが素早く魔法陣を刻む。
それを見たニコラは目を丸くした。
「え…そんな魔法陣みたことない。この天才最年少宮廷魔術師の僕が知らない、魔法陣…?」
「現代では失われた魔法陣ですわ。いくら天才と言えど知らなくて当然でしてよ」
「なら君はどこでこんな知識を…」
「祖国の古代魔術の応用ですの」
それを聞いたニコラがサッと顔色を変える。
「それ、国際問題にならない?使って良いの?」
「国際問題?ありえませんわ。だって失われた技術ですもの。図書室の本の虫だった私しか知りませんわ。そもそも祖国の王族では私以外解読不能ですもの。悪女の特権として、思う存分使わせてもらいますわ」
「…あはっ」
「ニコラ様?」
「あははは!」
ニコラは愉快そうに笑う。
「最高だ!貴女ほどの逸材を嫁に出すなんて、貴女の祖国は狂ってる!本当に最高だよ、ユフィーレ殿下!」
「あら、お気に召したならなによりですわ」
「凄い…完璧だ。この魔法陣なら理論上、魔力の少ない平民でも微弱な魔力を呼び水に大気中の魔力を使って魔術を使える。自由自在にね。ああ…貴女がうちに来てくれて本当によかった」
ニコラの喜びように、ユフィーレも満足気に笑う。
「うふふ、そんな風に言われるとは思いませんでしたわ」
「ねえ、ユフィーレ殿下は本当に悪女なの?そうは見えないんだけど…ワケありなのはなんとなくわかるけどさ、教えてくれない?」
「…いえ?私はただの悪女でしてよ?買い被りすぎですわ」
ユフィーレの言葉に、今はまだ聞かせてもらえないらしいと判断して大人しく引き下がるニコラ。
「そっか、それは失礼しました。でも、この魔法陣のお礼くらいはさせて欲しいな」
「あら…?このくらい、ただの暇つぶしですから気にしなくてよろしくてよ?」
「…本当に、悪女らしくない悪女様だね。そこはわがままを言って良いんだよ?」
「そうは言われても、ここでの生活には満足してますもの」
そこで、部屋のドアがノックも無しに勢いよく開いた。
「おい、まだ開発は続いてるが?あんまり無理すな、鶏の串焼き持ってきたきに」
マリユスが差し入れを持ってきたらしかった。
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