妹
豪華絢爛なエトワール王国の城の謁見の間。
緊張した空気の中、ついにユフィーレの祖国からやってきた妹が大勢の貴族や兵士たちの前で涙を流していた。
彼女の周囲には既にその強力な魅了魔術に当てられた祖国の騎士たちが控えている。
妹は、エトワールの王太子であるノアに縋るように…媚びるように訴えた。
「王太子殿下はお姉様に騙されています!お姉様はわたくしに嫌がらせばかりする意地悪な姉なのです!」
可憐な少女の涙ながらの訴えに、貴族たちがざわつく。
だが、ノアとアリスはユフィーレのくれた香水を手にして冷たい目をユフィーレの妹に送っていた。
「ひどい、ひどいわ!お姉様からなにか吹き込まれてますのね!?またわたくしを孤立させようと意地悪して…なんて酷いの!」
泣き崩れる妹、周囲を取り囲む魅了された騎士たちはユフィーレに向けて殺気を放つ。
事情を知る者以外、誰もがその「悲劇のヒロイン」に同情していたのだが。
「相変わらず一人芝居がお上手ね」
ユフィーレが、一言告げた。
「お姉様…どうしてそんな酷いことを仰るの!?わたくしが嘘をついているみたいにっ…」
そして妹が魅了の魔術を放った次の瞬間。
「ニコラ様」
「お任せあれ!」
ニコラが魔術で、手元の「魅了解除の香水」の香りを謁見の間全てにふわりと届ける。
極上の薔薇の香りが辺りを包むと、妹の様子がおかしくなった。
「薔薇の香り…?なんで、なんで魅了魔術が届かないの!?むしろ、魅了魔術で繋ぎ止めていた騎士たちとの「繋がり」まで解けていく…っ!?」
妹が絶叫する。
それと同時に、妹を取り囲んでいた騎士たちが正気に戻る。
「あれ…?俺たち、なにして…」
「え、なんで俺たち姫様を慕ってたんだ…?」
完全に魅了魔術という切り札を封じたユフィーレは、妹を見下ろす。
「無様ね。エトワールにさえ手を伸ばさなければこんな形にはならなかったのに。王太子殿下、アリス殿下。エトワールに害をなそうとした者に、相応しい罰を」
「ありがとう、ユフィーレさん!」
「エトワールの防衛にこの香水は役に立ちますね!早速実証出来てよかったです!あ、騎士様たちは長い間魅了されていたようですから、きちんと治療を受けられるよう手配しますね」
「そんな…わたくしの計画がっ…なんでっ…」
エトワールの兵士たちに連行されていくユフィーレの妹。
魅了魔術の解けた騎士たちは別の兵士たちに優しく誘導されて別室へ向かう。
こうしてエトワール王国を揺るがす筈の魅了事件は、未然に防がれて完封されたのだった。




