国際文化祭り
国際文化祭りは大成功だった。そこに至るまではトラブルだらけだったが、終わりよければすべて良しだ。
懸案だったアストリア王国のブースも大盛況。サラに紹介してもらったアストリア人若手芸術家のライブ・ペインティングをした。観客の前で音楽に合わせて壁画を描くというものだ。アストリアならではの色使いでゼフィール王都を描いてもらった。知っている風景なのに、新しい不思議な気持ちになる。
気付いたのは、芸術は生き物だということ。教会で大事そうに飾ってある大家の絵画だけが芸術や文化ではない。いつもはそう言ったものに一切興味を示さないカイルが楽しんでいたのが何より嬉しかった。
陽が落ちて、ようやく出し物やブースが終わった。あとは学校の中庭で行われる、各国音楽の演奏だ。ボールルームではなく、あえて中庭でやりましょうと、王立オーケストラの楽団長が提案してくれたものだ。正式な夜会ではない分、参加者は音楽を純粋に聴き惚れていたり、おしゃべりをしたり、余韻を楽しむようにダンスを踊るものもいる。
運営側のアドリアーナは、中庭を見渡せる2階の回廊でこの様子を離れて見ていた。学生が皆、楽しそうだ。うまくいかないことも、クラスから嫌味を言われることもあった。でも結局、最後はこの瞬間を楽しんでいるようだ。
まだ陽が少しだけ残っている空を眺めていた。
後ろから揶揄うように声をかけられる。
「特命リーダー様はこんなところにいていいのか?」
「ラファエロ様」
振り返ると、改めてお辞儀をする。
「思えば全部最初から助けてもらっていました。選挙の時も、先ほども」
荷が降りた不思議な高揚感で、自然と感謝の言葉と軽口が出る。
「ありがとうございます。困ったらいつもラファエロ様が来てくれる。どこかから見てるんですか? なんてね、ははは」
「ああ、見てるよ、いつも」
(冗談を冗談で返すなんて高度な!)
「いつも助けてもらってばかりで何も返せてませんね」
「俺がやりたかっただけだから礼はいらない。でも、そうだな折角だから」
ラファエロが少し膝を曲げ右手を差し出す。
「一曲踊ってくださいますか。マイレイディ」
いたずらな顔でこちらを見る。冗談だとは思いながら断れるはずもない。それでは、とアドリアーナは彼の手を取る。スッとラファエロの胸の内側にスッと招かれる。
始まったのは知らない外国の曲だ。ステップがわからないで戸惑っている。
「音楽と俺の動きにだけ集中して。ステップは考えなくていい」
身体をラファエロに任せると、自然と踊れている。いや踊れていないのかもしれないが、あまり気にならなかった。
お祭りをみんなが楽しんでくれている、そして異国のリズムに合わせて踊っている、それだけで幸せな気分になる。程よい疲労感と微風を感じながら、音楽に身を預けるのは気持ちいものだ。
ふとラファエロがアドリアーナの耳元に囁く。
「その調子。楽しんだもの勝ちだ」
近づいた首元から檜の香水の香りがした。ふっと森の中にいるような安心感、それとほんの少しの汗が混ざった香り。
その瞬間、急に自分の心臓が打つ音が聞こえた。ギョッとしてラファエロの顔を見上げる、と音楽が終了し、お互いにお辞儀をして終わる。
「アドリアーナ嬢、ではまた」
彼がそう言い終わる間もなく、アドリアーナは急いでその場から逃げるように去った。去るしかなかった。




