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祭り準備

 国際文化祭りまであと1ヶ月。


 アドリアーナの忙しさは極まっていた。対外的な打ち合わせはもちろん、各クラスに依頼した各国ブースの進捗確認や不満を聞き解決するには、カトリーナと二人では捌ききれない。


 アドバイザーに就任したラファエロは、週1の定例には来てくれる。かなり無理をしているようで、毎回15分でブルーノに強制連行される。その短時間でも必ずアドリアーナとカトリーナから必要なものを聞き出す。人の紹介や困っていた場所の許可どりの依頼など、こちらからお願いしたことは確実にやってくれる。

 

 アドリアーナ達にとってはとても心強い仲間だ。だが時間がなさすぎて、現状報告と依頼事項だけで終わってしまう。


(あとはカトリーナと二人でなんとかしよう。この1ヶ月乗り切ればいい。睡眠削ればなんとかなる)


 ◇ ◇ ◇


 「アドリアーナさん、アドリアーナさん。起きなさい」


 授業で寝てしまい先生に注意を受けたなんてことは、人生初めてだった。常に圧倒的な優等生だったアドリアーナにとっては、衝撃的な出来事だった。生徒会の活動はもちろん、授業は基本中の基本の大事な活動なのだ。


 自分の不甲斐なさと、それでも終わらない生徒会の仕事量を思い出し、どんより重い気分になる。授業が終わって生徒会室に行こうと荷物を整理していたら、ジゼルが机にドンと手を叩きつける。


「アドリ、あなた頑張りすぎよ。と、ともだちに頼りなさいよ!」


 ジゼルはなぜか顔を真っ赤にしている。


 その横に立つ重前髪のフラビオから、一枚のメモを手渡される。X組のメンバーそれぞれの得意なことがリストアップしてある。しかも全員の署名付きだ。ふらっと頼りたくなる気持ちをグッと我慢して、アドリアーナは笑顔を作る。


「ありがとう。でもこれは自分で引き受けたものだから。なんとかするよ」

「断っても無駄よ。カトリーナさんの了解も取り付けてるんだから、諦めることね」


 ジゼルは間髪をいれずに悪役のようなセリフを吐き捨てる。そしてアドリアーナはずるずると引っ張り生徒会室まで連行される。


 アドリアーナは、「一人じゃ何もできない人間みたいだ」と苦笑した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 「アドリー、このポスターいいでしょ?」


 生徒会室に入ると、アドリアーナを待っていたように仁王立ちのジゼルが国際文化祭りのポスター案を持ってくる。自信満々の口調だが目はチラチラこちらをみているので、反応は気になるようだ。

 

 X組メンバーが手伝うようになって生徒会室も賑やかになった。必要なタスクとそれぞれの得意分野を考え役割分担と権限委譲をしたので、生徒会室で作業しなくても良いのだがなんだかんだで集まっている。

 

 告知ポスターを担当しているジゼルはそれだけでは飽き足らず、民族衣装展示に合わせてぬいぐるみの各国衣装版も作っている。その横で作業するアイリスは、各所から借りてくる美術品等アイテムの分類、リスト化、管理という地味だが重要な仕事を受け持ってくれた。いつも自分で魔昆虫・魔動物辞典の編纂などをやっているのが活きているらしい。


 ルカは基本的にはやる気がないが、貿易商との交渉ごとに同席してくれる。人当たり、交渉力とクロージングの力は幼い頃からの教育がものを言っている。


 カイルには特別な役割はお願いしていないのだが、生徒会室によく出入りして何かと手伝ってくれる。

 

 「カイルくんってなんか、お宝を嬉しそうに持ってくる大型の忠犬って感じだよね」とカトリーナに分析されていた。言い得て妙だ。昨日は探していた本を図書館から持ってきてくれたし、今日はみんなが作業で残っているのを見ると、サンドウィッチをカフェテリアから持ってきてくれた。重い物を運ぶ時は、鍛錬になると言って積極に動いてくれる。おそらく、みんなで何かをやるのはクラスで一番好きな人なんだろう。


 特定の役割を依頼していない理由は、騎士の鍛錬を再開したからだ。


 彼はもともと騎士を輩出するアリスター家出身だが、姉が政略結婚で嫁いでいって以来、反発しグレていた。しかし先日のイジメの一件以来、中から騎士として貴族の在り方を変えていくのもアリなのだと思ったらしい。天才騎士候補と呼ばれたカイルでも2年以上のブランクを追いつくのは大変で人一倍努力している。だからこそ、今正しいと思ったことをやるために家族に頭を下げるカイルを、応援したかった。


 最後、なんと言っても大活躍しているのはX組の頭脳・フラビオだ。一番肝の会計と会場準備計画を担当しているが、作業の速さには目を張るものがある。


 特にカトリーナには、アドリアーナが苦手なお金周りの細かいことを把握してもらっているので、フラビオとは細かいやりとりをしてもらっている。


「フラビオくんて、おしゃべりしないから仕事早いよね」とカトリーナは評していた。しかし、いつもは分析するどいカトリーナだが、彼に関しては、それは実態から180度違うと言わざるを得ない。

 

 アドリアーナがその異変に気付いたのは、フラビオが前髪を切ってすっきりした2週間前のことだ。前髪に隠れていた目も露わになったのだが、金色の左目は太陽の光に弱いらしく、水色がかったサングラスをかけて登校してきた。


「フラビオ、雰囲気変わったね! 表情がよく見えるからすごくいいよ」

《アドリに言われると嬉しい》

「ん? フラビオ、喋った?」

 

 それ以来、新しく明らかになったことが2つある。


 1.彼は目を合わせると、相手の心に直接テレパシーで話しかけられるということ。本当はこちらの声も聞けるらしいが、それは日常では禁忌なので絶対にやらないという。基本、彼の魔法は幻覚を見せる、催眠をかける、などの精神に影響を及ぼすものだということもわかった。日常生活でサングラスをかけるのは、その力を抑えるという意味もあるらしい。


 2.テレパシー時は性格が激変するということ。

 

 メモを書くのが面倒になったのか、最近アドリアーナにはテレパシーで話すのが常態になった。


《各国ブースは、回遊できるようにこの順番に置くのが良いと思っている》

「確かにそれはいいかもね。全体のマップに落としてもらえるかな」


 といった会話はアドリアーナの独り言で済むのだが、ちょっと違った性格が顔を出すとややこしい。

 

 アドリアーナが作業に熱中して髪を結んだとき、素知らぬ顔で作業をしているフラビオがふとテレパシーで話しかけてきた。

 

《結んでるの好き。かわいい》

「え? なんかテレパシーだと性格違わない?」

《違わない》

「絶対違うって」

《大魔法使いだったご先祖様の性格の影響》

「そっか、すごいね」

《うそ、アドリにしか言わない》

「……」


 またあるときは、アドリアーナが生徒からの苦情への返信を考えていたら、甘いジュースを机に置いてくれる。

 

《ちゃんと、水分補給して》

 

 まさに疲れて喉が渇いたところだった。

 

「もしかして心を読んだ?」

《読んでない。読まないって言ってるでしょ》

 

 アドリアーナは怪しむ。

 

《『テンパって大変』って顔に書いてあった。頑張りすぎなんだから、一息ついて》


 こんな調子で最近、フラビオの様子がおかしい。


 さらにややこしいのは、テレパシーは気味悪がられるからと公にしたがらない。なのでこの件カトリーナは知らないというのもやりづらい理由だ。


(だったら私にもやめて欲しい)

 

 ジト目でちらっとフラビオを見ると、いつもの優しいニコニコ顔でこちらを向くが、視線を外さないといけない。

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