生徒会週定例
2週間後、カトリーナは生徒会の活動で忙しくしていた。
アドリアーナと共に国際文化祭特任メンバーに選ばれたのだ。
嫌がらせの件は、アドリアーナから逐一話を聞いていた。だが、今回は自分たちだけでなんとかしたいという固い意志があった。おそらくカトリーナに被害が及ぶのを避けたかったのもあるのだろう。
その後、犯人も見つかりホッとしたのも束の間、新生徒会長ソフィーから二人に声がかかったのだ。曰く、国際交流についてのスピーチに心を動かされていた彼女は、アドリアーナと話す機会を狙っていた。だがその間に、クラスの団結を強くしいじめの問題に立ち向かったことなどを目の当たりにし、正式に生徒会の一員として特任メンバーになって欲しいと思ったらしい。
生徒会メンバーになってからは、国際文化祭りの企画を詰めたり、商社やイベント会場との打ち合わせと忙しくこなしていた。
アドリアーナはイキイキしている。横でずっと見ていてきたからはっきりわかる。2年の植物状態から目覚めてから上手くいかなくて悩む顔が多かった彼女の人生が、ようやくうまく動き始めてきた。カトリーナにはそんな予感がしていた。
今日は週一の生徒会定例が生徒会室で開かれる。
「では、第4回生徒会週定例を始めましょう」
ソフィーがそう言うと、カトリーナは定例専用の大きめのノートを開く。
「書記はカトリーナさんお願いね。要所だけで結構よ」
「承知しました。確認ですが、出席者は、ソフィー会長、ドミニク副会長、アドリアーナ特任員、特任員兼書記の私、あとあのお二方はどうしましょう?」
カトリーナは視線を窓際に向ける。窓の横で日当たりの良いソファに座っているゴールデンブロンドの青年は、一人優雅にお茶をのでいる。その横では出窓に軽く腰掛けた黒髪の青年が佇んでいる。カトリーナにとっては、選挙期間中に見慣れたコンビだが、普通の人ならあまりの美しさに萎縮してしまう。
「ラファエロさん、ブルーノさん、悪いんだけどあなた方を生徒会のメンバーに選んだ記憶はないわ」
「ソフィー嬢、そうおっしゃらず。私はアドリアーナ嬢とカトリーナ嬢の戦略アドバイザーでしたから、彼女たちが国際文化祭特任委員になるなら必然的に私も関わることになりますね」
アドリアーナに目を向けると、珍しく青い顔をして冷や汗をかいているように見える。窓際の方も見ないようにしている。「教室で乱暴なことをしたことを怒っている? いやだ! フケイザイはさけたい」と何やらカタコトになってぶつぶつ呟いている。
一方、ラファエロはニコニコしながらバターの香り高いクッキーを口にして続ける。
「ソフィー嬢、それに、生産性の高い会議にはお菓子は必要でしょう? 私がいれば美味しいお菓子は食べ放題ですよ。ねえ、アドリアーナ嬢」
(アドリもおかしいけど、こっちもおかしいな。お菓子を提供してまで生徒会に入りたいとは、王子なのになんか必死)
カトリーナはソフィーに小声で話しかけられる。
「本当にラファエロ様は必要? なんか脅されたりしてない? 困っているならはっきり断るから」
ビクッとしてアドリアーナが答える。
「はい! ラファエロ様のお菓子選びの目は自信を持って推せます。個人授業の時に実証されています」
ラファエロに目をやると、自分でお菓子のことを言っておきながら、いささか複雑な表情をしている。
(アドリ、それは王子がちょっと可哀想だわ)
カトリーナが補足する。
「それに、国際文化祭りはアドリアーナの発案ですが、ラファエロ様のご意見とご紹介いただいた貿易商の方と企画を詰めていましたから、実際に役にも立ちます」
「役に……そうですか。では、アドバイザーとして参加してもらいましょう。やる気みたいですし。ではラファエロさん、ブルーノさん、彼女たちが助けを必要な時は助けてあげてくださいませ」
「もちろん、いくらでも」
王子の顔に満面の笑みが花開いた。
◇ ◇ ◇
「令嬢に協力するだけなら、生徒会に入らなくてもよかったのでは?」
足早に馬車に向かう途中、後ろを歩くブルーノの表情は見えないが、その指摘は正しい。別に生徒会に入らなくても協力くらいいくらでもするつもりだった。
きっかけは教室から追い返された事件だ。数日後、令嬢3名が停学1週間になった。どの顔も見覚えがあった。
ブルーノに探りを入れさせると、ラファエロのファンクラブを非公式に主宰するメンバーがアドリアーナのクラスに嫌がらせをしたという。それに負けず、むしろ公式に謝罪と罰を受けさせるというのは、なんとも彼女らしい。外からの体裁を気にする隠蔽体質な貴族の学校組織だ。そんな変化を起こすのは奇跡だ。
だが同時に、自責の念と守りたいいう気持ちが生まれた。自分の近くにいれば、そしてブルーノの目もあれば、なかなか手を出せないだろう。
(彼女は守って欲しいなど、1ミリも思ってないだろうが)
むしろ、これは自分勝手な我儘だとラファエロは分かっていた。
アドリアーナは勝手に人の心に近づいてきたと思ったら急に離れていった。何もしなければ、風船のように手からするりと抜けて飛んでいってしまうだろう。
ラファエロは名前のある関係が欲しかった。個人授業も有耶無耶になって休止している今、この関係は自分で作らねば他人に戻るだけだ。
だから、ブルーノの指摘は正しいが間違っている。
(『俺が』生徒会に入らなければいけなかった)
ブルーノの言葉で現実に戻される。
「そろそろ帰国して3ヶ月ですし、公務を増やす話が出ています。殿下の姿を国民に見せる機会を増やせば、妙な噂は消えていくだろうと陛下はお考えです。ですから、それ以外の余計な仕事は減らす方向でお願いします」
「ああ、わかっている」
馬車に乗り込む。




