流行り病
「緊急の依頼だ。君たち、健康か?」
「まあ普通でしょ。誰か病気してる?」
ギルドの2階、応接間に集められた私たち4人。
ギルド長補佐からの言葉に返事をしたのはアイフェ。3人はふるふると首を振っていた。
「依頼内容なんだが、急ぎ医者を村へ連れて行ってほしい。なんらかの病が流行っている。そして道中には魔物が出るという」
「報酬は?」
「1人2000ゴールド。荷馬車に医者が必要だというものは揃えてある」
「2000? ずいぶんと高いな」
「病の原因によっては君たちにも危険が及ぶ可能性がある。断ってもらっても構わん」
「5分くれ、相談する」
「どうぞ」
ヨアンナの言葉でレイチェル達の話し合いが始まる。
原因のわからない病。見えている危険には対処もできるだろうが、今回は見えない危険も確実にある。
「いいよ、行こう」
アイフェは即決。
「私も」
「ウチも!」
「ならアタイも」
ということで異議なし。
「誰もいねぇ」
人口200人ほどの村。
医者と助手にレイチェル一団冒険者と物資を積んだ馬車が到着した。
「俺はどうすりゃいいんだ?」
荷馬車の御者が医者に問う。
「ラウ先生?」
「・・・・・・っは? なんだい?」
医者の先生はよく眠っていた。
助手のネイサンが声をかけてようやく目覚めた。
「御者の方はどうしましょう?」
「どこか空き家でもないか? なければ安全が確認できるまで近くで野宿かなぁ。俺らに感染してしまった場合、何か合図でも出せればいいんだけど」
「アタシが花火でもあげる?」
「ああ、それでいこうか」
全員が床に伏せって2日。大人も子供も男女も関係なく全員がベッドの上。
「一番奥が村長の家だと言っていたな、まずはそこから診て回ろう」
「こんにちは。もう大丈夫。私は医者です」
「ネイサン、上体を。君たちは水を汲んできて」
レイチェル達は言われた通りに井戸から水を汲んでくる。
5リットルは入りそうな桶いっぱいに汲んだ。
「水を沸かして」
「はいよ」
「熱がある、高熱だ。それに頻脈。腹痛はありますか?」
「いや、全身が痛い」
この時点でラウはある程度検討がついていた。
「みんな毎日畑に?」
「ああ」
「・・・・・・じゃあたぶんこれだな、足首に吸血痕がある。虫かなにかだ」
「虫、ですか」
「感染が広範囲に広がっていない以上、この辺の土地の虫が怪しい」
「蚤、蚊、蛭あたりだろうな」
「ひとまず虫よけを全身に塗った方がいい。一瓶持ってきているから俺たち全員、肌に塗ることだ」
「残念ながら患者のみんなに塗ることはできないが、俺たちが倒れたら元も子もない」
医者の先生に言われるがまま、私たちは虫よけの軟膏を塗りたくった。
後日わかったことだが今回のことの結末は、蛭によるものだった。
病気の動物を蛭が吸血する、さらにその蛭が人間に吸血することで傷口から血が混じり感染。
もっとも私たちがそれを知るのは数か月後。
(うわぁ痛そう~)
私は初めて見るガラス製の注射器をまじまじと眺めて思った。あんな太い針が腕に刺さるのかと。絶対痛いじゃんと。
注射器の中身は抗菌剤と呼ばれるもので、この付近の医者が感染性の病気全般に使う万能なものだった。
「2時間おきに見回りをしてほしい。そしてすぐに応援を呼んでくれ、医者でも見習いでもいいから注射できる人間を一人か二人、見回りできる交代要員を5人。着き次第君たちと交代で看病にまわってもらう」
「おそらく介抱に向かうまで3~4日、多少脱落者がでるだろう。覚悟はしておいてほしい」
「それに病原体の解明に―」
「ああ、それならアタシが直接国に話すよ。念のため1日様子を見てから街に戻って、調査機関を送ってもらうから」
アイフェの人脈はどうなっているんだろうという疑問とともに、これ以上頼りになる人はいないだろうなと思う。
5日後・・・・・・残念ながら助からなかった人も9人いた。
体力の落ちていた人とか年長者の人たちはダメだった。
その中に村長も含まれる。今後、この村は誰が率いていくのだろうか。
もっとも私がどうこうできる問題ではないが。
「そうだな・・・・・・虫対策の予防法としては長袖や長ズボン、帽子にストール。そして長い靴下に虫よけを染み込ませることだな」
私たちは医者の先生たちがみんなの治療や看護にあたっている間、完全防備で辺りの虫を潰し、処理しまくった。
3人で誰も文句は言わず、ただ淡々と。
私たちは仕事を終え、街に帰った。体も疲れたし、心も疲れたので仕事はちょっとお休みにしようということになった。




