ルピドの街
「今回の仕事はアタシが受けました。ちょっと別の用もあるし、報酬がいいから」
「え? ヨアンナにまだ言ってないの?」
「そうだよん。今から」
今回はアイフェが依頼を受けたらしい。
ギルドから歩いて数分のところにある宿舎。
ここにタール姉妹は2人で1部屋に住んでいる。
「6番の部屋だったはず・・・・・・ここだ!」
ノック。
「はーい」
ミナの声で返事がくる。
「ミナ? 依頼を受けたから報告に来た。入っていい?」
「アイフェ? どうぞ、入っていいよ~」
ガチャリと扉を開け、2人で入る。
まっすぐ先にベッド2つがあり、ヨアンナをミナがマッサージしていた。
「姉ちゃんすぐ寝るんだよね」
「まあ終わってからでいいや。誰も他に依頼受けてないよね? 重複してたら困るんだけども」
「そんなことは聞いてないし、たぶん大丈夫だと思う」
「ならよかった。準備も大してしなくて平気だと思う。特に危険だとか聞いてないし、出発は明日の朝だから今日はゆっくりしてていいよ」
「んで? なにするんだ?」
「普通に大事な書類と物を運んでほしいっていうのだよ」
「中身は?」
「極秘だってさ。開けるなと」
「そうか。まあいいよみんなで行こう」
私たちはギルドから大事だという荷物を受け取り、馬車に乗ってルピドへと向かった。
馬車で2日ほどというけっこうな距離だ。
「すごい! これ全部水なの!?」
「そうだよ~。アタシの国にはあんまりなかったけど、これが海だよ」
「本での想像よりもずっと大きい!」
タミテンカを出て1日と数時間後。
馬車の小窓から見える外の景色はどこまでも青が広がっていた。
どこまでも青々とした海が無限に続いているように見える。
山育ちの私は小さな湖こそ知っているが、こんな広大な広さに水があるところは初めて見た。
タミテンカの街から北西のあたり、海にほど近いこのルピドという街に用があって今回は少し遠出になったのだ。
「一応仕事で来てるんだからさ、遊ぶのは終わってからな」
初めて見た海にはしゃぐ私をヨアンナがたしなめる。
「ヨアンナは海見たことあるの?」
「あるさ。ミナと泳ぎを習ったよ」
「ふ~ん。じゃあ初めて見たのは私だけか~」
「なら船も初めて見るでしょ?」
アイフェが指を指した先には100人は乗れそうな大きな船があった。
「あれも大きい! 私、川とか湖用の小舟しか知らないよ!?」
「どれもけっこう揺れるから苦手だよ~。アタシは~」
アイフェは揺れるのが苦手らしい。
「列車っていうのも、まあ揺れて揺れて苦手なんだけどもねぇ。船はまた違った感じで嫌い」
街に到着。磯の香りというやつがあたりに漂っている。
建物もこういう海辺のものなのだろう、私たちのいた街とはまるで違う四角い建材でできている。
通用門で門番にギルドの位置を聞き、歩くこと数分。提携ギルドに書簡と袋を渡し、依頼完了。アイフェが別の用事とやらで手続き中に1時間ほど外していた。
あとは1日待って、帰りの書簡を貰い、タミテンカに帰還するだけだ。
宿を取って、荷物を置いた。
「ようし、遊べるぞぉ!」
私たち4人は海に出るため、必要なものを買うことにした。
服屋には水着なるものが売っていた。
「レイチェル、泳ぐんならコレだよ」
「!? 無理じゃん! 裸と大差ないよ!?」
アイフェがニヤニヤしながら指さしていたのは、ハンガーに掛かった胸と股部分が隠れる程度の布だった。
胸はともかく、下は私の下着のほうが露出が遥かに少ない感じだった。
「それは冗談にしても、これくらいは」
アイフェがもう一つのほうを指さす。
そちらは、短いズボンに上をそのまま縦に伸ばして首元と腕部分を開けた、そんな形だった。
色はいくつかあった。黒とか青とか赤とか。
「こっちならまだ」
「じゃあこれとー、あと日焼け止め~」
「日焼け止め?」
「海からの反射光で、体がひどい日焼けをしちゃうんだよ」
「へ~。アイフェは物知りだなぁ」
「雪のときもそうだからね。もっとも雪の中にそんな薄着で出ることないけど」
「ほれほれ」
「ちょ、くすぐったいって! アイフェ!」
浜辺からほど近い場所にある更衣室の中。
日焼け止めをヨアンナに塗りたくるアイフェ。
私とミナもお互いに塗り、水着を着て砂浜へ出た。
私の水着の色は黒、ミナも黒。アイフェが赤で、ヨアンナは青だ。
「けっこう暑いなぁ」
「このパラソルの下に居れば少しは涼しいから、疲れたら休めばいいよ」
浜辺の砂浜にはいくつかのパラソルが立ててあって、その下で休憩できるようだ。
今日は世間的には休日ではないようで、遊んでいる人はまばらだった。
海に入ってひとしきり水をかけあったあと、ヨアンナは泳ぎに行ったので私たちは砂浜でお城を作ることにした。
アイフェが言うには砂浜でお城を作るのは定番だという。
その証拠に、少し離れた場所にもお城が作られていた。
私たちヨアンナ以外の3人はペタペタと砂を積み重ね、周りを撫でて形を作っていく。
「そこ! もうちょっと低く!」
アイフェが本気で作っていたので、相当な完成度のお城ができたのだった。
「これは・・・・・・何?」
水着から軽装に着替えて夕ご飯。雰囲気のある浜辺近くのレストランだ。
出てきたのは、小さな白い皿に盛りつけられた親指ほどのオレンジ色をした芋虫のようなデロデロ。
流石に食べ物なのだろうが、正直食欲をそそる見た目はしていない。
「ウニだよ、あそこで店員が殻から外してるでしょ? その中身」
「・・・・・・海を濃くしたみたいな匂いがする!」
小指の先ほどをスプーンで掬って口に運んでみる。
「苦くて、甘くて、しょっぱい? 初めての味かも」
「山育ちだと絶対に口にしたことないだろうからねぇ。まあ結構好みが分かれるんだけど」
「アタイは苦手だねぇ。この味は主食と合わないよ」
「そうかなぁ? このパスタ美味しいけど」
ウニはヨアンナは苦手、ミナは好みのようだ。
「アタシはう~んと、パスタのは苦手かも。ヤプン式のグンカン巻きっていうやつなら好き!」
「それはここでは出してないのかなぁ?」
「まあメニューにないし無茶いうもんじゃないよ。今度ヤプン料理のところで食べよう」
私が頼んだのは骨を取った魚の切り身を、たくさんの種類の野菜と香辛料で煮込んだものだ。
にんにくがよくきいていて、とても美味しかった。
「満腹、満腹」
泳いで体力を消費していたヨアンナは私たちの倍は食べていた。
お酒も入って、とても満足そうだ。
「明日の帰りもがんばるぞ!」
ということで初めての海での思い出ができたのだった。




