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第3話 【終わりは誰が決める】


 ハイデル=シティの裏側には、誰もが一度は見たことがあるのに、どこで見たのか思い出せないサイトがあると言われている。


 零時零分だけ開く、匿名掲示板『END ROOM』

 そこに書き込まれた願いは、朝までにかなう。

 ただし、世界のどこかの“終わり”と引き換えに。


 噂が出回り始めたころから、妙な出来事が続いていた。


 ある店が突然閉店した。長く続いた老舗サイトが、告知もなくサービスを終了した。小さな町の図書館が、予算の都合という理由で取り壊しを決めた。


 どれも“あり得る話”ではある。

 けれど、その直前に“END ROOM”で似た願いが書き込まれていた、というスクショが出回っている。


「いやさ、“世界の終わり”のスケールちっちゃくない?」

 都市伝説対策課の巡査・星野ミオは、机に突っ伏したままスマホを眺めていた。


「店の閉店と引き換えに元カノと復縁とかさ。神様、絶対コスパで終わり選んでるでしょ」


 隣でタブレットを操作している佐久間は、眉間にしわを寄せたままだ。

「問題はそこじゃありません。このEND ROOM、アクセスログ上は“存在しないサイト”なんです」


「うわ出た。一番めんどいやつ」


 日付が変わる少し前。二人は署内の回線監視室にいた。

「噂どおりなら、零時から十五分だけ開きます。その間に接続経路を特定します」

 

 佐久間がキーボードを叩く。

 ミオはベンティのコーヒーをかき混ぜながら、スクショを流し見した。


『テスト中止になれ』

『ブラック企業つぶれろ』

『あいつ転校してほしい』


「でさ、対応する“終わり”がこれ」

 ミオは指で画面を弾く。


「テスト中止の代わりに、その学校の昔からの行事が廃止。ブラック企業の代わりに、地域イベントが終了」


 佐久間が静かに言う。

「……目立たないけど、誰かの思い出が消えている」


 ミオはうなずいた。

「ニュースにならない終わりばっか選んでるの、逆に悪趣味」


 秒針が零を指す。


「先輩。来ます」


 その瞬間。監視していたポートの一つが、静かに開いた。

 ブラウザに黒い画面が表示される。


『END ROOM - ここは終わりと願いの待合室』

 白い入力欄と、「POST」のボタンだけ。


「デザインだっさ!」「先輩!」

「サクは解析。アタシは実験」

 ミオはキーボードに指を置いて、カタカタと打ち込む。

『この掲示板の正体を知りたい』


「本気ですか?」

「一番コスパいい願いでしょ」


 エンターを強く叩き送信。


 画面が一瞬だけ歪む。

 同時にログが暴走した。


「リダイレクト……異常に多い。国内外のサーバー経由……でも整いすぎてる」

 佐久間の声が低くなる。

「これ、単一のサイトじゃないですよ。既存の何かを組み合わせてる」


 ミオは、うっすら笑った。

「やっぱね〜」


解析の結果、構造が見えた。


 END ROOMは固定された場所に存在しない。

 零時前後、ネット上に散らばる【終わったサイト】

 更新されなくなったブログ、放置された掲示板、消えかけたフォーラム。それらを一時的に束ねて、ひとつのページとして表示している。


「ネットの墓場を寄せ集めた幽霊サイト、か」

「そして投稿内容は、別のシステムに流れています。広告配信とレコメンドAI……」


ミオは椅子にもたれた。


「“どの終わりが一番バズるか”を計算してる」

「終わりを、演出している……?」


「そう。もともと終わりかけてるものを、ちょっとだけ目立つ形で終わらせる」


 店の売上、サイトのアクセス、地域の動向。

 そこに「願い」という形のノイズが加わる。


「意思決定そのものじゃない。ただ、“空気”を一押ししてるだけ」


 ミオは画面のグラフを指した。

「見て。END ROOMの噂が出た日、終わり系ニュースの拡散が微妙に上がってる」


 佐久間が息を吐く。

「この都市伝説そのものが、“終わりの燃料”になっている」


「そうだねぇ〜☆正体は、“終わりの自動演出装置”ってとこかな」


 しばらく沈黙が落ちた。


「……止めますか?」


 佐久間の問いに、ミオは首を振る。


「いや…全部消すのは危ない」

「なぜ?」

「終わりってさ、溜まると爆発するのよ」


 ミオは画面をスクロールする。

「ここは“終わるもの”を、ゆるく逃がしてるだけ。止めたら、もっとデカい終わりが出てくる」


 ミオは、自分たちの投稿を開いた。


『この掲示板の正体を知りたい』

 その下に、レスがついている。

『あなたはもう知っているはず』

「あはっ!ポエマーかよ」


 発信元を確認する。要約AI、“Summary Engine”。


 ミオはキーボードに指を走らせた。

『この掲示板を見つけた人が、

 誰かの終わりをネタにしないように。

 自分の願いは自分で叶ますように』


「先輩…誤字ってますけど」

「いーの。テンション優先!ちょっとぐらい誤字った方が人間味出るでしょ☆ぽち〜!」


 笑顔の送信ボタン。


 同時に、ミオは裏側のルールを書き換える。

 一定条件で、このメッセージが返るように。


「都市伝説にはね、ちょっとダサい正論が効くの」

「相変わらず屁理屈ですね」

「でしょ☆」


 数日後。


『願い叶った!』

『でも文化祭なくなった』

『それ普通に悲しくない?』

『“誰かの終わりをネタにすんな”って返ってきたんだけど草』


 その一文は、少しずつ広がっていく。

 ミオはスマホを眺めて笑った。


「ほら。ちょっと冷めるでしょ」

「これで解決ですか?」

「七割くらいじゃない?」


 窓の外、ネオンが揺れる。

「都市伝説ってさ、完全に終わらせるんじゃなくて、

 ちょっとだけズラしとくくらいがちょうどいいの」


 そのとき、ミオのスマホの画面が、一瞬だけ暗転した。


 黒いページ。見覚えのない画面。


 『END ROOM』


 入力欄には、すでに文字があった。


 『この街の終わりを、もう少し先延ばしに』


 次の瞬間、画面は元に戻る。

「……今の見た?」

「えっ?何がです?」

 佐久間は首をかしげる。


 ミオは少しだけ黙ってから、肩をすくめた。

「いや、なんでもない」


 ネオンの街のどこかで。

 誰かがまた、零時にキーボードを叩く。


 その願いが何を終わらせて、何を残すのか。


 それを決めているのが人間なのか、

 それとも、もう少し別の何かなのか。

 それはまだ、誰も知らない。



            続

読んで頂きありがとうございます。気が向いたらでいいのでブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。

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