第82話 講和
8月23日、大和はラルザス帝国との国境線に到着した。
5000名の王国軍が国境を挟んで帝国軍と対峙していた。
「あの魔道具は——」
「我ら帝国軍七万人を虐殺したリヴィエラの悪魔だ」
帝国軍に動揺が広がった。
すでに外交使節団が派遣されており、"予め用意されていた"クレア陛下の親書をもって交渉にあたっていた。
大和後部甲板——
「補給物資を降ろすわよ。みんな準備をしてください」
私は声をかけた。
ミケケとレイナはタラップと縄梯子を使い地上におりた。
王国軍将兵と折衝に当たる。
レイナに見惚れている兵士がちらほらと。
「しょうがない男たちにゃ」
ミケケは手を振った。
ヴィヴィとカルラは格納庫から補給物資を甲板に運ぶ。
ナターシャは補給物資を重力魔法で操作して地上に降ろした。
物資の引き渡し作業が終わると私は地上に降りて王国騎士団長アベルトのいる天幕へ向かった。
◆ ◆ ◆
「失礼します」
私は天幕を開けて入った。
「よく来て下さった。ミサカ卿」
騎士団幕僚に囲まれて奥に座っていたアベルトが立ち上がるとこちらへ歩いてきた。
握手を交わす。
「こちらに座ってください」
私は勧められた椅子に座った。
私は補給物資の引き渡し完了を報告した。
「ありがとうございます。ミサカ卿」
アベルトは一礼した。そして、話を切り出した。
「今、帝国と停戦交渉中です」
「もう帝国に交戦の意思はありません。戦闘にはならないでしょう」
「大和は数日ここにとどまるだけで交渉はうまくいくと宰相閣下は申されていました」
「確かに」
(示威行為とは…ボンノーさん、抜け目ないわね)
私は頷いた。
「それにしても宰相閣下は恐ろしい方です」
「あのとき話した計画が寸分の狂いなく実行されている」
「陛下の親書も翌日作成されたそうです」
「宰相閣下は数学の天才だったと聞いていましたが、これほどの戦略をあの時に描いていたことに私も驚きを隠せません」
「宰相閣下がリヴィエラ王国に来てくれて本当によかった。宰相閣下がいなかったらと思うと背筋が寒くなります」
「そして、ミサカ卿にも感謝しております」
アベルトは私に頭を下げた。
「いえいえ、私なんか宰相閣下に比べたら——」
私は苦笑いをした。
私はしばらく騎士たちと世間話をした。
そして天幕を出る。
私は視線を感じた。遠くから帝国兵が私を見ていた。
恐怖する目で私を見ていることは容易に想像できた。
私は帝国兵にとっては悪魔として見られているのだろう。
私は帝国兵を見ることが出来なかった。視線が怖かったからだ。
◆ ◆ ◆
8月26日——
王国が要求したラルザス皇帝ダレオス三世の廃位と平和条約交渉開始を条件に停戦が成立した。
そして、王国に王子が誕生したという報告がもたらされる。
「俺たちは勝ったんだ!」
「レオシオン王子誕生、万歳!」
「グローリアス、リヴィエラ!」
前線の将兵に歓声が沸き上がった。
9月7日早朝——
大和は地底湖へ無事帰還した。
続く




