第81話 涙
草木は焼け落ち、僅かな木は炭化して立っていた。
地面は真っ黒になっていた。
かつて、人や馬であった何かが辺り一面に転がっていた。
二人は地面に降りると周りを見渡した。
「なにもないのさ。まるで天災にあったみたいなのさ」
ナターシャは呟いた。
「私がしたこと——」
「私が殺した——」
私の頬から涙がこぼれる。
炭化した何かが金属の鎧を着ていた。
私が近づくと黒いものは崩れ落ちた。
カランッ
鎧が割れる乾いた音が——
静寂の中で響いた。
鎧の裏側には絵が書いてあった。子供の絵だ。
父と母、そして男の子と女の子が描かれてある。
その横には文字が書かれてある。
パパ、大好き——
「ごめんなさい」
私の目から大粒の涙がこぼれる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
私は地面に膝をついた。
「あなたのパパを私が殺しました」「——私が殺しました」
嗚咽が止まらず、涙が溢れる。
「私が——」「私が——」
もはや言葉にならない。
ナターシャは私の前で屈み正面から私を抱いた。
ナターシャは何も言わず私の頭を撫でた。
私はナターシャに抱かれながら涙が枯れるまで泣き続けた。
◆ ◆ ◆
「気がすんだかい、ミサカ」
「——ぇぇ」
「ありがとう、ナターシャ」
私はナターシャの頬に私の頬をつけた。
「ミサカ、告白ならもっとムードがあるところがいいのさ」
ナターシャは片目をつむる。
「違います!」
私は頬が赤くなる。
「もう、大丈夫そうなのさ」
ナターシャは微笑む。
「じゃあ、祈りを捧げて帰るのさ」
私は頷き、立ち上がる。
そして、祈りを捧げた。
「では、帰るのさ」
ナターシャは私に促した。
「そうね」
私はグラビティロッドにまたがりナターシャの背中に抱きついた。
二人が跨ったグラビティロッドはゆっくりと上昇した。
◆ ◆ ◆
帰還後——
私は顔を洗い身支度を整え報告のため王国軍本営まで向かった。
本営は戦後処理で人の出入りが激しい。
「——に内政官を派遣するようにクルーゼ内務卿に伝達してください」
ボンノー宰相の指示が聞こえる。
「失礼します」
私は帳を開いて本営に入った。
ボンノーは多数の幕僚に囲まれて指示を飛ばしていた。
「ミサカ卿」
ボンノーは立ち上がり、わたしのところへ歩いてきた。
「この度は、真にありがとうございました。ミサカ卿のおかげでリヴィエラ王国を守り抜くことが出来ました」
ボンノーは深く深く頭を下げ、膝を屈した。
「宰相閣下、面を上げてください」
「私は軍人として職務をなしたにすぎません」
私はボンノーの手を取り立ち上がらせた。
ボンノーは立ち上がり私の目をみた。
(目の腫れは隠せない)
「ありがとうございます、ミサカ卿」
再び礼をしたあと、執務卓に戻った。
「では、報告をさせていただきます」
◆ ◆ ◆
「——以上で報告を終わります」
「流石はミサカ卿、帝国軍を壊滅させるとはお見事です」
「ミサカ卿はリヴィエラの英雄です」
幕僚たちから拍手が起こる。
「はっ、ありがとうございます」
私は扶桑式敬礼で応えた。
「では、ミサカさん。計画通りムンドール州へ大和の移動をお願いします」
「もう、戦いはありません。外交交渉で解決いたします」
「了解しました。宰相閣下」
「では失礼します」
私は一礼すると退出した。
私は大和へ引き返した。
大和第一艦橋——
一同が私を見つめる。
私は微笑んだ。
「大和はこれよりムンドール州へ向かい帝国国境の警備につきます」
「ヤマトヒメ、ナターシャお願いします」
「わかったのさ、ミサカ」
「畏まりました艦長」
「速度第一戦速」
私は声を上げた。
大和は浮上すると南へ航行を開始した。
続く




