第83話 【第一部】ミサカ屋【完】
武蔵御殿へ帰還後、みんな疲労していたこともあり夕方まで自室で過した。
私はベッドに入るなり眠りに落ちた。
◆ ◆ ◆
武蔵御殿・食堂——夜。
久しぶりに全員の顔が揃った。
今日はムサシヒメ、ティア、ティティ、ファムが料理を作ってくれた。
「お疲れ様でした。プリティームーンの皆さま!」
ティアの元気な声で話し始めた。
「今日はティア家特製の森のクリームシチューです」
ムサシヒメとティティが配膳をしていく。ファムは陽気にみんなの周りを飛び回っている。
「はい、ミサカさん」
ムサシヒメが微笑む。
「ありがとう、ムサシヒメ」
私は会釈をする。
「はい、お姉ちゃん」
ティティはヴィヴィのところへシチューをもっていった。
「ありがとう!ティティ」
ヴィヴィは笑ってティティの頬をムニムニした。
ティティは嬉しそうな顔をしている。
やがて全員に夕食が配られた。
私はみんなを見渡し静かに言った。
「いただきます」
◆ ◆ ◆
ワイワイ、ガヤガヤ
「そうなのさ、それでミサカがさ——」
ナターシャが私のなにかをムサシヒメに語っている。
カチャカチャ、パク、モグモグ
「シチューと白パンもなかなかにゃ」
ミケケはレディの品格を保って食事をとっている。
(魚料理のときとは違うわ、ミケケ)
私がミケケの優雅な食事作法を眺めているとティアが話しかけてきた。
「ミサカさま」
「どうしたの?ティア」
「セレスティアのお店、いつでも開店できます」
ティアは胸を張った。
私は目を見開いた。
「ほんとうに?ティア」
「はい、ミサカさまが留守の間に頑張りました」
「じゃあ、店名決めないと」
私は少し目を閉じ考えた。
「そうねぇ、キュアキュ——」
私が言いかけるとティアがさらっと答えた。
「ガロンさんが姐さんの店だから"ミサカ屋"に決まっているって」
「もう看板まで作って既に掲げていますよ」
「あはは、そうなんだ」
私は苦笑いをした。
「あ、なにか問題ありました?」
ティアは私を見つめた。
「いえ、問題ないわよ」
私は頭を掻いた。
「ミサカ屋?いいじゃないのさ」
「ミサカは王国一の人気者だからね。マーケティングも完璧なのさ」
「みんなで手伝うからさ、明日、開店させるのさ」
ナターシャは私に促した。
「そ、そうね。じゃあ、みんな明日お願いできるかしら?」
私はみんなを見渡す。
「もちろんだよ」
「明日は頑張るのじゃ」
「お店とっても楽しみです」
一同は快諾した。
◆ ◆ ◆
9月8日——午前10時。
プリティームーンの全員がお店の前にたつ。
城下の人たちが私たちに気づく。
「あれは、ミサカさまとプリティームーンの方々。なにをしているのかしら?」
「おい、ミサカ屋が開くぞ」
付近にどよめきが広がる。
私はお店の扉をあけた。
そして「ミサカ屋」と書かれた暖簾を掛けた。
「開いたわ」
数人の町娘たちが入ってきた。
「いらっしゃいませ」
一同が出迎える。
「これはなんでしょうか?」
町娘が私に目を輝かせながら質問した。
「これは、ボディーソープといって体を洗うのに使います。こちらはシャンプーといって髪を洗うのに使います。」
私は次から次へと質問に答えた。
「この液体は肌のうるおいを保つものです。こちらにサンプル品がありますので試してみることもできますよ」
「お、お願いします」
町娘は声が裏返る。
「わかったわ、では失礼します」
私は乳液を手に付けると町娘の頬に優しく塗りこんだ。
町娘の顔が真っ赤になる。
「ミ、ミ、ミサカさま。ありがとうごさいます」
「気に入ったら買ってくださいね」
私は微笑んだ。
「はい」
コスメ商品は女性に少しずつ売れていった。
しばらくすると若い冒険者パーティーがやってきた。
「あのぉ、ミサカさま。先日、戦場で使われた抗生ポーションとハイヒールポーションはありますか?」
リーダーの青年が尋ねた。
「ありますよ」
私は快く答えた。
「いくらでしょうか?」
「両方とも銀貨1枚だけど、今日は特別サービス銅貨1枚でいいわ」
青年は目を輝かせる。
「じゃあパーティー分、五本ずつください」
「お買い上げありがとうございます。クエストかんばってね」
私は会釈した。
「頑張ります!」「こちらこそありがとうございます。ミサカさま」
冒険者パーティーは手を振ると去っていった。
午後二時。
客足がひと段落したそのとき——
怪しい格好をした丸眼鏡と不自然な帽子をかぶった町娘らしき者が来店した。
「いらっしゃ————」
私は一目で分かった。
「あ、へい——」
ヴィヴィの口をナターシャが手でふさいだ。
どうやら、クレア陛下はミサカ屋開店を知りお城を抜け出してきたらしい。
町娘らしき陛下は店の中の品々を見回っている。
「へいか」
私は小声で囁いた。
「へいかなどではありません。ただの町娘です」
「いやぁ、あはは…」
私は頭を抱える。
その町娘は品々にを手に取り、私に質問をする。わたしは丁寧に答える。
そんなやりとりが続いた後、その町娘は凛とした声で言った。
「すべて買いますわ!」
他の客がどよめき、一斉にその町娘を見つめた。
「ありがとうございます。へい—— いえ、お嬢様」
「奥にお嬢様のためにお茶菓子を用意しておりますのでどうかこちらに」
私は腰を低くして言った。
「そうですか、わかりましたわ」
彼女はそういうと私のあとについてきた。
ナターシャは呆れた顔で一連のやりとりを眺めていた。
◆ ◆ ◆
奥の部屋——
パタンッ
私は扉を閉めた。
「陛下!」
「よく、わたくしだとわかりましたわね、ミサカ卿」
「わかるもなにも…」
私は手で目元を押さえた。
しばらくするとレイナが扶桑茶をもってきた。
「ミサカさま、その方は?」
「この方はクレア陛下です」
「失礼しました。陛下」
レイナは驚き、頭を下げた。
「気にしなくてよいのですよ。レイナさん」
「ありがとうございます。陛下。では失礼します」
レイナは急ぎ足で扉の向こうに去っていった。
二人はお茶を手に取り飲んだ。一息つく。
そして、私は口を開いた。
「陛下、おめでとうございます!」
「ありがとう、ミサカさん。二人の時はクレアでいいんですよ」
「そうでしたね」
私は微笑む。
「夫から聞きました。ミサカさんが戦ってくれたからこそこの国を守れたと————」
「ミサカさんがいなかったらリヴィエラに勝利はなかったと————」
「ミサカさんが守ってくれたから、このリヴィエラは救われたと————」
「私も息子のレオシオンもミサカさんのおかげで生きています。そして未来を語ることができます」
クレアの瞳から涙がこぼれる。
「本当にありがとうございました————」
クレアは深く深く頭を下げた。
「顔を上げてください、クレアさん」
「私はボンノーさんの指示通りに動いただけです」
「いえいえ、ミサカさんの決断の重さを考えたら、わたくしは、わたくしは————」
「何もできず、ただ王城で祈ることしかできませんでした」
私はクレアに駆け寄りやさしく抱きしめた。
「陛下は立派に仕事を果たされました。子を産むことも大切なことです」
「ありがとう、ありがとう、ミサカさん」
私とクレアはしばらく抱き合っていた。
◆ ◆ ◆
「お会計は金貨5枚になります」
怪しい町娘は、一品ずつすべて買っていった。
その豪快な買い物を見た他の客から小さな歓声があがった。
「プリティームーンの皆さん、全員集合してください」
「今からお客様をお家まで護衛します」
「お客様を中心に円陣を組んでください」
「あいよ、ミサカ」
私たちは王城までお客様を護衛した。
「それでミサカはさー」「お姉さまは——」「ミサカさまは——」
道中、それぞれが私の話を陛下に話し続けた。
私がこの世界へ来て1年目の最後の日はこうして終わった。
◆ ◆ ◆
王国歴300年9月9日——
王城謁見の間。
今日は先日の戦いの論功行賞が行われていた。
クレア陛下の凛とした声が響き渡る。
「貴殿は反乱軍の首魁の討伐、帝国軍の撃破とリヴィエラ史上最大の戦功をあげた」
「ゆえに余はミサカ卿にリヴィエラ爵位・伯爵の地位を与える」
「ローレシア郡、リーフシア郡、シンシア郡、アルシア郡、イルシア郡の五郡を合わせてフソウ州を新たに新設しフソウ州を所領に与える」
「リヴィエラ金貨10万枚を与える」
「以上である」
「謹んでお受けいたします、陛下」
謁見の間、大きな拍手が巻き起こった。
こうして私の二年目の異世界生活が始まった。
第一部・完
最後まで読んでいただきありがとうございます。
評価していただけると幸いです。
二部の執筆については諸事情を考慮します。




