異世界生活の始まり⑶
俺が引き返そうとした理由は、いくつか有る。
まず、今までの道中では、長閑な森の中で、特に危険を感じる様なものは無かった。
しかし、さっきの震動以降、このまま進むことに、俺の直感が拒絶反応を表している。
2番目に、ここまで来る途中に、何度か爽やかな風を感じた場所があり、その回りを調べてみた方が良いと、俺の直感が言っている。
そして、ここに飛ばされた意味が掴めるヒントがあるとすれば、やはりスタート地点から探すべきだと、俺の直感が言っている。
「莉沙。」
「何?」
「俺が考えている事を話しておこうと思う。」
莉沙は、黙って頷く。
「俺達が望んでいるのは、家に帰る事だろう?」
「うん。でも、直ぐに帰れそうに無いとあたしは感じている。」
「俺も同じだ。だとしたら、俺達が優先して考えなければならない事は、ここで生き抜く事で、必要なのが、飲み水と食料の確保。次に、安全に寝られる場所を探さないといけないよな。」
莉沙は、黙って頷く。
「それも、早急に、出来れば明るいうちに。」
莉沙は、俺が言いたいことを直ぐに理解したようだ。
「じゃあ、この後の考えは、歩きながら聞くよ。」
そう言って、俺を促した。こういう機転が働くのは、莉沙の良いところだ。
「それで、加寿にぃ!初めに気が付いた辺りへもどればいいの?」
「向かうのはそこだが、15分位歩いたらちょっと、寄り道する。もしかしたら、飲み水が手に入る何かヒントがあるかもしれない。ちょっと気になる所があったんだ。」
「加寿にぃの直感でしょ?」
そういって、莉沙はニヤッと笑った。
「そう!加寿にぃ自慢の直感。」
俺もつられて笑う。
「そこが空振りだったら、更に10分戻った所。どちらかに、水があれば、取り敢えず行き長らえる事が出来る。」
(まあ、こんな会話が出来るのは、まだ元気な証拠かな?)
そんな事を考えていると最初の探索地点が近づいてきた。
「莉沙は、この爽やかな風を感じられる?」
「あっ!言われて注意したら、何とな~く右手の方から、そよ風が……」
「莉沙も感じられたんだね!」
「うん、何となくだけれど……。」
俺達は、曲がるところの木に落ちている石で、傷を付けて目印を作ると、風が吹く方へ向かった。
暫く歩くと、崖の上に出た。下まで20m以上有りそうで、ここから降りるのは難しそうだ。崖の下も森が続いているようだが、その森の遥か彼方にボンヤリと開けた所が見える。
「ちょっと、良い景色だね!加寿にぃ!」
そう言って、莉沙は暫くそこからの景色を堪能していた。俺は、直ぐにでも次の探索地点へ向かいたかったが、莉沙の明るい顔を見たら休憩がてら暫く、莉沙と景色を眺めることにした。
暫くして、莉沙が口を開いた。
「加寿にぃ!水無かったね。」
「あぁ……」
「でも、素敵な景色が見れたから、寄り道した元はとれたね。」
そう言うと、莉沙は微笑んだ。
「さっ!次行こうか!加寿にぃ!」
「おっ、オー。」
元気に歩き出した莉沙を見て、何故か俺も嬉しくなった。
俺達は、もと来た道を戻りながら、飲み水になりそうな物がないか探したが、収穫ゼロ。内心、焦っている俺とは対象に、莉沙は鼻唄を歌いながら歩いている。俺は、莉沙と二人で飛ばされて良かったと思っている。俺一人だったら、もっと焦りまくって、頑張りが利かなかったんじゃないかな。そんな事を考えながら、暫く歩いていると、次の探索地点に近づいた様で莉沙が突然俺の顔を見て話しかけてきた。
「加寿にぃ!爽やかな風と何か小さな音がする!」
そう言って、莉沙は駆け出した。慌てて、俺も莉沙の後を追う。
「加寿にぃ!水!」
そう言うと、莉沙は細々と流れる水を指差した。川と言うほどではなく、湧き水が少し漏れて流れているかのようだ。
「まだ、飲むなよ!」
直ぐにでもすくって飲み出しそうな莉沙を制して、水の流れてくる方へ俺達は向かった。
歩く事数分、俺達は大きな岩の前に立ち止まっていた。




