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軍神アルテマ

「シャバいこと言ってんじゃねーぞ、小僧」


 低く、太い声が響いた。


 空気が震える。


 シノの周囲へ集まっていたマナが、一気に一点へ収束していく。


 眩い光。


 その中から、ゆっくりと何者かが姿を現した。


「……え?」


 シノが目を瞬いた。


 人だった。


 少なくとも、そう見える。


 大柄な男。


 鍛え抜かれた身体に、無造作に伸びた髪。


 太い腕。


 ただ立っているだけなのに、その周囲だけ空気が張り詰めている。


「誰だ……?」


 ライアスも呆然と男を見上げていた。


 人なのか。


 二人には分からない。


「今だ!」


 残っていた襲撃者の一人が叫んだ。


 何が現れたのか理解できない。


 だからこそ。


 今なら隙があると判断した。


 細剣を持った男が地面を蹴る。


 狙いは一直線。


 シノ。


「嬢ちゃん!」


 ライアスが動こうとした。


 しかし。


 大男が片手を上げた。


「邪魔」


 それだけだった。


 ――ドンッ!


「がっ!?」


 見えない何かに殴りつけられたように、男の身体が吹き飛んだ。


 石畳を何度も転がり。


 そのまま壁へ叩きつけられる。


「……」


 ライアスが固まる。


 シノも口を開けたまま動かない。


「さて」


 大男は何事もなかったように首を鳴らした。


 そして。


 ライアスを見る。


「小僧」


「……俺?」


「他に誰がいる」


 男が眉を寄せた。


「さっきから聞こえてんだよ。死んでも守るだの、時間を稼ぐだの」


「……」


 そして。


 一喝。


「死んで守るは三流ぞ!」


「……!」


「守った奴置いて、自分だけ死んでどうすんだ、馬鹿野郎!」


 ライアスは思わず言葉に詰まった。


「でも……俺はもう」


 腕を見る。


 震えている。


 呼吸も苦しい。


「まともに動けねえよ」


「だからシャバ僧なんだよ、オメーは」


「……シャバ僧?」


「剣は悪くねえ」


 男はライアスを上から下まで眺めた。


「根性もある。踏み込みも、まあ及第点」


「なんか腹立つな……」


「だがな」


 太い指が、ライアスの胸を指す。


「マナの流し方がなってねえ」


「マナ?」


「ああ」


「俺、魔導士じゃねえぞ」


「知るか!」


 怒鳴り声が路地に響いた。


「お前にはちゃんとマナが巡ってる。なのに、ほとんど使えてねえじゃねえか!」


「……俺に?」


「自分の身体のことくらい把握しとけ、下手くそ!」


「無茶言うなよ……」


「剣を振る。走る。踏ん張る」


 男が拳を握る。


 一歩踏み込む。


 石畳が、びしりと鳴った。


「それに合わせて流せ」


「流せって……」


「頭で考えんな」


 男がニヤリと笑った。


「ヒントをくれてやる」


 次の瞬間。


 掌がライアスの胸へ叩きつけられた。


「ぐっ!?」


 熱。


 だが。


 痛みではなかった。


 胸の奥から。


 何かが一気に全身へ走り抜ける。


「な……」


 腕。


 指先。


 脚。


 背中。


 剣を握る手。


 それまで意識したことのなかった何かが、身体の中を巡っている。


「これ……マナか?」


「そうだ」


 男が鼻を鳴らす。


「勘違いすんな。傷を治したわけじゃねえぞ」


「……え?」


「お前は今でもボロボロだ」


 確かに。


 痛みは消えていない。


 身体中に傷も残っている。


「ただし」


 男の口元が吊り上がった。


「今のお前なら、その身体でも動ける」


 残った襲撃者たちが顔色を変えた。


「殺せ!」


 魔導士が杖を掲げる。


 ライアスの目が動いた。


 詠唱。


 足運び。


 杖の向き。


 そして。


 相手の身体に巡るマナ。


「……遅え」


 ライアスが消えた。


「な――」


 一瞬で魔導士の懐へ入る。


 剣の腹が杖を叩き折った。


「一本!」


 後ろから男の声。


「腰高えぞ、シャバ僧!」


「うるせえ!」


 横から大剣。


 以前なら受けていた。


 今度は違う。


 身体を流れるマナを、足へ。


 ほんの僅かに踏み位置を変える。


 大剣が空を切った。


「そこ!」


「分かってる!」


 一歩。


 踏み込む。


 一閃。


 大剣が宙を舞った。


「あと一人!気合い入れろー!」


「数えてんじゃねえよ!」


 最後の男が後退する。


 逃げる。


「逃がすかよ」


 ライアスが地面を蹴った。


「遅い!」


「だからうるせえ!」


 一気に間合いを詰める。


 柄頭。


 後頭部。


「ぐっ……」


 男の身体が石畳へ崩れ落ちた。


 静寂。


「……はあ」


 ライアスが息を吐く。


「はあ……はあ……」


 周囲を見回す。


 倒れた襲撃者たち。


 誰一人、立っていない。


「……俺がやったのか、これ」


「他に誰がやったんだよ」


 大男が鼻で笑った。


「おー、こわ」


「半分あんたのせいだろ!」


「俺はヒントくれてやっただけだ」


「ヒントの範囲超えてるだろ……」


 力が抜け。


 ライアスがその場へ尻をつく。


「ライアスさん!」


 シノが駆け寄った。


「大丈夫!?」


「逃げろっていったろ……まあ、たぶん」


「たぶんじゃないよ!」


「マジで身体中いてえ……」


「だから言ったのに!」


 シノが涙目で怒る。


 その様子を見ていた大男が、豪快に笑った。


「おい、嬢ちゃん!」


「はいっ!」


「痺れたぜぇ!」


「え?」


「いい気合いだった!」


 大きな手が伸びる。


 わしゃわしゃとシノの頭を撫で回した。


「わっ、わっ! 髪ぐちゃぐちゃになる!」


「細けえこと気にすんな!」


「気にするよ!」


「はっはっは!」


 男は手を離すと、改めてシノを見た。


「しかし……」


「?」


「お前」


 目を細める。


「本当に魔力無しなんだな。」


「うん」


「なのに外から引っ張ってきやがった」


 シノを見る目が、少し楽しそうになる。


「それで俺まで届いたか」


「あなた、誰なの?」


「俺か?」


 男は自分の胸を親指で指した。


「アルテマだ」


「アルテマさん?」


「違う違う」


 男が手を振る。


「アルテマってのは名前じゃねえ。俺らの種族だ」


「種族?」


「ああ」


 男は空を指差した。


「三神から武の力を預かって、それを束ねる役目を持った神獣。それがアルテマだ」



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