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不作の農村

二日後


 三人を乗せた馬車は王都を出て、小さな農村へと到着した。


 初夏の陽射しを受けた畑が広がる穏やかな村。


 だが近付くにつれ、その景色にはどこか元気のない空気が漂っていることに気付く。


「馬車だ。王都からだろか、立派なもんだな」


「役人じゃねえか?不作を咎めにきたんじゃ……。」


 農具置き場の前で三人は馬車を降りた。畑仕事をしていた村人たちが手を止め、こちらを見つめる。


 それに気づいた一人の老人が足早に近付いてきた。


「ようこそお越しくださいました。」


 深く頭を下げた老人へ、ユリアンも丁寧に礼を返す。


「突然お邪魔いたします。」


「私は王立魔導学園、召喚譜式学教授のユリアン・ヴェルクと申します。」


「こちらは学園生のエルン・ファルク。そしてシノさんです。」


「これはご丁寧に……。」


 村長は改めて三人を見渡した。


 その視線がシノへ止まる。


「ですが……先生方が、どうしてこのような村へ?」


 王都の学者が来るような場所ではない。


 そんな戸惑いが表情に浮かんでいた。


 ユリアンは穏やかに答える。


「近頃、この辺りで不作が続いていると耳にしました。」


「ええ……。」


「不作について調査しております。」


「もし魔力災害や未知の魔物が関係しているなら、少しでもお力になれればと思いまして。」


 村長は驚いたように目を見開いた。


「王都が、この村のことを気に掛けてくださっていたとは……。」


「ありがとうございます。」


 その声には、安堵と期待が入り混じっていた。


「どうぞ、畑をご覧ください。」


◇


 畑へ出ると、ユリアンはすぐにしゃがみ込んだ。


 土を手に取り、指先で砕く。


 葉を裏返し、茎を観察する。


 踏み荒らされた畝。


 乾いた地面。


 食いちぎられた葉。


 しばらく黙って歩き回ったあと、ユリアンは小さく息を吐いた。


「……なるほど。」


 村長が緊張した面持ちで尋ねる。


「何か……分かりましたか?」


 ユリアンは少し困ったように笑った。


「申し訳ありません。」


「これは魔力災害ではありませんね。」


「え?」


「鹿や猪による食害。」


「加えて、このところの雨不足。」


 土を軽く踏みながら続ける。


「魔力の乱れも感じません。」


「魔物が暴れた痕跡もありません。」


 村長は肩を落とした。


「やっぱり……。」


「私は召喚譜式学が専門です。」


 ユリアンは少し照れくさそうに笑う。


「魔導災害や魔獣が原因であれば、お力になれたでしょう。」


「ですが、これは自然と獣によるものです。」


「農業は専門外でして。」


 エルンが思わず笑った。


「教授にも専門外はあるんですね。」


「当然です。」


 ユリアンも笑い返す。


「研究者は万能ではありません。」


「ですが、専門外を知ることも大切な研究ですよ。」


 そう言ってもう一度畑を見渡した。


 それでもなお、何かを探すような眼差しだけは変わらなかった。


◇


 昼になると、村人たちは三人を集会所へ案内した。


「先生方、せっかく来てくださったんだ、お口に合うか分かりませんが……。」


「昔から、この村で食べられてきた料理です。」


 木皿の上に並べられたのは、甘く煮込まれた薄い皮で包まれた握り飯だった。


 山菜の煮物。


 野草の汁物。


 決して豪華ではない。


 だが、どれも丁寧に作られていることが伝わってくる。


 村長は少し照れくさそうに笑った。


「これは祭りの日によく作る料理でしてな。」


「畑仕事へ持って行きやすく、腹持ちも良い。」


「揚げた皮は日持ちもしますし、少し甘く煮ると子どもたちが喜ぶんですよ。」


 近くでは子どもたちが嬉しそうに頬張っている。


「昔は豊作の年になると、みんなでこれを囲んで祭りを開いたものです。」


 村長は少し寂しそうに笑う。


「最近は、そんな余裕もなくなりましたがな……。」


 シノは一つ手に取った。


 ほんのり甘い香り。


 口へ運ぶ。


 その瞬間、胸の奥がふっと温かくなった。

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