220話 同じ物のはず
「なんですかその顔?」
菖蒲は響の腹部に頭を預けたまま、訝しげな顔で響の顔を覗き込む。
「っいや、菖蒲の髪の毛がくすぐったくて」
「響さんってくすぐり弱い人なんですか?っふぅーん?」
「っちょ、くすぐったいって!ほんと、まじで!」
菖蒲は自分の髪を筆のように使い、響の腹部を這わせる。
「新たな弱点発見ですねっ」
「っそう言う菖蒲はどうなんだっ!」
響は菖蒲の横腹をくすぐり、『とめてくださいっ』を何回か無視したあとにようやく手を止める。
しかし、その行為は色んな意味で逆効果だった。
「…っはぁ…響さん激しい…です…」
息を荒げ、身体をくねらせながら布団に転がる姿は、思春期男児にはだいぶ刺激が強かった。
「…ふぅ…ってなんでまた近づいて来るんですかっ!?もうこちょこちょはぁ…っ?」
「すまん、可愛くてつい」
忘れていたがほんの少し前までは、ムーディーな雰囲気を漂わせていた。
つまり、安易に接吻をしても許されるということである。
おそらく。
「…恥ずかしいので電気を消してもいいですか?」
菖蒲は急に羞恥心が追いついてきたのか、部屋の電気を常夜灯だけにする。
薄暗くなった部屋の中、菖蒲は響の正面に体を預け、子どもが親の股でテレビを見るかのようにスポッと座り込んでくる。
「っ早くハグしてください、これはさっきの罰です!」
菖蒲は響の両腕を自分の前で抱えると、満足気に寄りかかってくる。
「やっぱり響さんにハグされてると落ち着きますね。今の疲れた社会で、一家に一台は欲しい代物ですよっ」
「残念ながらこれは菖蒲専用となってまして」
『当たり前ですっ』とより強く抱える菖蒲は、大きく頭を仰け反らせ反対の瞳で響を見つめる。
「響さんっておっきい胸の方が好きなんでしたっけ?」
「いきなり何言ってっ、藪から棒な」
「去年の夏にプールで泳ぎの練習してた時に、そんな話しましたよね?」
確かにその時に似たような質問をされたことがあった。
だが、その時の答えと今の答えは全く同じものである。
「『好きになった人のならサイズは関係無い』って言ったはずだが?」
「でも、一華さんとか有咲さんの胸はよく見てますよね?」
菖蒲はジト目で響の顔を覗く。
そこまで見ていたつもりはないが、海や風呂上がりの時は、少し魔が差していたのは事実。
「それは菖蒲の勘違いだ」
だが、今は正直になるところではないと本能的に悟り、完全否定することにした。
すると、菖蒲は響の手を自分の胸に触れさせる。
「…小さいですけど、物は同じはずです…」
一華などとの過度なスキンシップで不可抗力で触れた時とは、確かに違うものの、柔らかい感触が手から脳に発送された。




