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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
バレタインデー
221/239

221話 思い出

 菖蒲の大胆な行動にペースをどんどんと乱されていく。


「っほ、ほら!同じでしょう?」


 頭の上に浮かぶ一華が『どうなの?』といじらしい笑みで問いかけてくるが、そんな幻覚は早々に手で払い、釘バットを肩に担ぐ幻覚の透子にサムズアップをする。


「本当にその通りだ」

「なんか思ってた返答と違うのですが…」


 首を傾げる菖蒲は、スタっと立ち上がり、今度は響に正面を向けながら座り直した。


「私と響さんが最初に会ったのって、高校の入学式でしたよね」

「なんでこの流れでその話になるんだ?」

「私も分からないのですが、急にそのことを思い出してしまって」


 障子から刺す月明かりと小さく聞こえる虫の声が、どこが懐かしさを運んでくる。


「あの頃はまさか、こんな間柄になるなんて思ってもませんでしたよっ」

「あの頃の俺に『よくやった』と褒めてやりたいぐらいだ」


『私もですっ』とクスクスと笑いながら、カレンダーをめくるかのように振り返っていく。


「初めは響さんとおしゃべりできるだけで、とっても楽しくて…体育祭を皮切りに友達もたくさんできてっ」

「俺も高校上がるまでは想像もしてなかったなぁ」


 お互い別々の問題を抱えながら進学したが、互いのピースを埋めあっていくうちに、次第に信頼できる友達も増えていった。


「みんなとのお出かけ、ほんとにあっという間な時間でしたが、色濃く記憶に残っていますっ」


 響も写真フォルダを定期的に見返すぐらいには、良き思い出として残っている。


「大変だったテスト期間を超えての旅行…ちょっとしたハプニングもありましたが、今ではそれも笑い話にできますよね」

「柔らかさは今と同じだったなぁ」

「っ変な感慨深さを感じないでください!」


 感触を思い出していると、菖蒲からの優しめのチョップを食らった。


「その後は夏祭りに行ったよな、今もあのぬいぐるみは大事にしてくれてるか?」

「安心してください、毎晩抱いて寝てますよっ」

 

 菖蒲は枕元に置かれたビーバーのぬいぐるみの写真を響に見せ、くすぐったそうに笑ってみせる。


「そういえば林間学校の時、一華さんがスッキリした顔で部屋に戻ってきたのが謎でしたね。ん?響さん、どうしました?」

「いや、なんでもない」


 一華の気持ちに答えた林間学校。このことはまだ内緒のままにしておこう。


「文化祭のことは、頻繁に酔ったお母さんから振り返られるんですよね。『あの子は逃しちゃダメよ』とお母さんから念押しされるぐらいにはっ」


 文化祭。今思うと踏み込みすぎたとは思うが、やって良かったと思う。


「言い出すとキリがありませんが、どの思い出にも隣に響さんがいましたね」

「俺の隣にも菖蒲がいたな」


 菖蒲の真ん丸な瞳に吸い込まれそうになり、逃れるように目を逸らしてしまう。

 しかし、すぐに菖蒲の柔らかな手に捕まってしまう。


「そろそろ夜も暮れですね…どうしますか?」


 覚悟を決める時間が近づいてきたようだ。

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