221話 思い出
菖蒲の大胆な行動にペースをどんどんと乱されていく。
「っほ、ほら!同じでしょう?」
頭の上に浮かぶ一華が『どうなの?』といじらしい笑みで問いかけてくるが、そんな幻覚は早々に手で払い、釘バットを肩に担ぐ幻覚の透子にサムズアップをする。
「本当にその通りだ」
「なんか思ってた返答と違うのですが…」
首を傾げる菖蒲は、スタっと立ち上がり、今度は響に正面を向けながら座り直した。
「私と響さんが最初に会ったのって、高校の入学式でしたよね」
「なんでこの流れでその話になるんだ?」
「私も分からないのですが、急にそのことを思い出してしまって」
障子から刺す月明かりと小さく聞こえる虫の声が、どこが懐かしさを運んでくる。
「あの頃はまさか、こんな間柄になるなんて思ってもませんでしたよっ」
「あの頃の俺に『よくやった』と褒めてやりたいぐらいだ」
『私もですっ』とクスクスと笑いながら、カレンダーをめくるかのように振り返っていく。
「初めは響さんとおしゃべりできるだけで、とっても楽しくて…体育祭を皮切りに友達もたくさんできてっ」
「俺も高校上がるまでは想像もしてなかったなぁ」
お互い別々の問題を抱えながら進学したが、互いのピースを埋めあっていくうちに、次第に信頼できる友達も増えていった。
「みんなとのお出かけ、ほんとにあっという間な時間でしたが、色濃く記憶に残っていますっ」
響も写真フォルダを定期的に見返すぐらいには、良き思い出として残っている。
「大変だったテスト期間を超えての旅行…ちょっとしたハプニングもありましたが、今ではそれも笑い話にできますよね」
「柔らかさは今と同じだったなぁ」
「っ変な感慨深さを感じないでください!」
感触を思い出していると、菖蒲からの優しめのチョップを食らった。
「その後は夏祭りに行ったよな、今もあのぬいぐるみは大事にしてくれてるか?」
「安心してください、毎晩抱いて寝てますよっ」
菖蒲は枕元に置かれたビーバーのぬいぐるみの写真を響に見せ、くすぐったそうに笑ってみせる。
「そういえば林間学校の時、一華さんがスッキリした顔で部屋に戻ってきたのが謎でしたね。ん?響さん、どうしました?」
「いや、なんでもない」
一華の気持ちに答えた林間学校。このことはまだ内緒のままにしておこう。
「文化祭のことは、頻繁に酔ったお母さんから振り返られるんですよね。『あの子は逃しちゃダメよ』とお母さんから念押しされるぐらいにはっ」
文化祭。今思うと踏み込みすぎたとは思うが、やって良かったと思う。
「言い出すとキリがありませんが、どの思い出にも隣に響さんがいましたね」
「俺の隣にも菖蒲がいたな」
菖蒲の真ん丸な瞳に吸い込まれそうになり、逃れるように目を逸らしてしまう。
しかし、すぐに菖蒲の柔らかな手に捕まってしまう。
「そろそろ夜も暮れですね…どうしますか?」
覚悟を決める時間が近づいてきたようだ。




