私たちの意見
次はディスカッションに入った。
「ではビックブラザーの政策は、そのまま続けても良いと思う。または否定的な人は、自由に話し合ってください」
私たちは机を移動させて5人ずつでディスカッションをした。
「では、話し合いの結果は?」
担任の南先生は質問した。
「私たちは、このままだと20世紀に存在したソ連という国と同じ結果になります。最後には経済混乱を起こすと思います」
別のグループは違った意見を言った。
「私たちの世代では高度なテクノロジーを持っているので、ソ連と同じ結果に陥らないと思います。現状でも大丈夫だと思います」
南先生は別の意見を聞いた。
「他のグループの意見は?」
「予測以上に悪化すると思います。今の生活水準は10年は持たないと思います。だから自由競争は必要です」
南先生はリモコンのスイッチを押し、机の上にあるパソコンと教室のスクリーンのスイッチを入れた。教室は照明で明るくなった。
「みなさん、それぞれの意見ありがとうございます。自分の意見に自信を持ってください。それでは現代史のビデオを観ます」
教室のスクリーンには21世紀の歴史が表示された。世界共産主義革命の全貌がわかる。30分くらいのドキュメンタリーのビデオを鑑賞した。
「では1時限目の授業はこれで終わります。休憩時間15分。次の授業は英会話です」
南先生は教室から出て行った。
休憩時間になった。私たちは雑談をした。
「私たちは政治活動に利用されているの?」
「わからないわ。私は自分の夢を実現するために、この学校に入学したわ。政治的にはノンポリだから・・・」
「そうなの。現代の政治は強権的だと思うわ。取り返しが付かなくなる前に、私たちが多くの人に夢を与えなければ」
「そうね。私たちには参政権も選挙権もないけど、夢を与えることで社会が活気付くわ」
21世紀初期、あるアイドルグループが絶大な人気を誇った。彼女たちをモデルにしたテレビアニメシリーズが世界的ベストセラーとなり、その結果、パソコン業界から宇宙開発まで手がけてしまった。全世界の経済は秋葉原に統括され共産主義経済へと変わった。
現在、英国ロンドンを中心としたアイドルグループが全世界の支配している。
◎ ◎
私は英国アイドルのビデオを教室の中で観ている。壁は全てスクリーンになっている。スクリーンに英国アイドルの映像が映し出されている。
「ポップ音楽の本場はレベルが高いわ」
共産主義に対して猜疑的な佐伯美沙が、とても古い本を手にとって見せた。
紙が古くなって茶色くなっている。
「そうね。英国の音楽はレベルが高いわ。ねえ小説『1984年』を知らない?」
「なんなの?」
「20世紀後半、ジョージ・オーウェルという人が書いた小説。現代社会を予言した人」
「で、私たちと何の関係があるの?」
私と同じ名前の佐伯美沙は、とても古い本を手にしてページをめくった。
「この本は、私のおじいさんが田舎の古本屋でみつけたの。いまから50年以上前だけど」
「いまどき紙メディアがあるなんて・・・。電子ペーパーで好きなだけ昔の小説は読めるでしょう」
佐伯美沙は茶色く変色した本を読み上げた。
「この小説にでてくるほど酷い社会ではないが、いずれ近い将来は、この小説と同じ社会に変わるかも知れないわ」
「ねえ、そんなの昔の人の戯言だわ」
大沢多恵は少し強めの声で答えた。
私は政治的にノンポリである。だから、どうでもいいと考えている。
私は、こんな古い本があるなんて知らなかった。
驚きながら佐伯美沙に言う。
「でも、いまどき紙メディアが存在しているのは珍しいわ。図書館に寄付したら」
体制派支持の大沢多惠は反論した。
「私たちの未来は明るいわ。高いテクノロジーをもっているし、昔の人が書いた小説のような社会にはならないわ。ミー(佐伯美沙のこと)は、考えすぎじゃないの」
美沙は反論した。
「20世紀後半の日本も未来を楽観したわ。その結果が長期不況に陥ったじゃないの」
「その長期不況を克服したのがアキバでしょう。あたしビックブラザーを尊敬しているわ」
「ねえ、ミー、それに多惠、議論してもしかたないわ。勉強を初めましょう」
私たちは女学院の授業でならったことを復習した。
この世界では、空き缶拾いから宇宙開発まで、一つの巨大企業に独占されている。
「音楽の本場、英国UKBのライブを見てみたい。参考になるわ」
体制派の多惠は、美沙に告げた。
「バカらしい。みんな同じような顔しているだけじゃないの」
佐伯美沙は社会主義経済だと画一的で個性が無いと考えている。
「音楽業界も世界共産主義革命でレベルが爆発的に良くなったわ」
「でも個性がないわ」
私と多惠、そして私と同じ名前の佐伯美沙の3人は教室の中で話し合った。
担任の南先生の授業が始まる。現代史と政治経済の授業を担当する。
21世紀の歴史から始まる。世界共産主義革命の切っ掛けは、21世紀初頭に放送された一つのテレビアニメから始まる。ブルーレィディスクが予想を超え1話300万枚売れた。ブルーレィ発売日の午前0時に数千人もの人たちが集まった。Windows95が発売されたときのような興奮だった。そこから世界共産主義革命が始まった。
そのテレビアニメシリーズは20年間続き、西暦2062年に放映50周年イベントが盛大に行われた。一人のアイドルのために10億円も使う人も多くいる。そして、パソコンOSとテレビアニメの独占、その結果、初代ビックブラザーの資産は10京円となる。そして空き缶拾いから宇宙旅行事業まで手がけ、数十年の歳月をかけて全長10万キロメートルの宇宙エレベーターを建設した。
「南先生、現代の日本人の平均年収はいくらですか?」
「西暦2000年当時は約400万円でしたが、現在では1億円です」
「物価は?」
「永久デフレのため2000年から変わっていません」
「と言うことは、世界のほとんどの人は大金もちなのですか?」
「でもアフリカ内陸部や中東全域、そしてインドや中央アジアなどは、まだ貧困で苦しんでいます」
「それでは一人が毎月100万円を外国に援助すれば世界の貧困はなくなるのですか?」
「それがなくならないのです。義援金や慈善団体の寄付金の大部分がマフィアやテロリストに持って行かれるし、そのあまったお金は、一部の政治家や官僚が巻き上げるのです。生活に困っている人には1円も渡らないのです」
「現代のビックブラザーの権力でも、どうにもならないのですか?」
「そうです。どんな強力な最先端兵器でもゲリラ戦にはかなわないです」
「だから世界の70パーセントが一つの連邦国家になったのですね」
「その通りです。世界の首都は秋葉原です」
たしかに私たちの生活は、とても裕福。みんな豪華な家に住み、何台も高級車を所有している。でも、どこかおかしい。私たちが着ている制服も1着30万円もする高級品である。1万円くらいのブレザーでも良いのでは無いかと思う。
私は校庭から都心にある超高層ビルを見上げる。高さ8万メートルもある。最上階に行けば、地球が丸いのが実感できるかも知れない。




