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構造透視、第二段階

「限界まで、ですか」


九条凛花はそう繰り返し、俺の顔をまっすぐに見た。


「あなたのスキル《構造透視》が実際にどこまで使えるのか、まだ誰も検証していない。あなた自身でさえ」


的確な指摘だった。蹴り出されてからの数週間、俺は感覚に任せてスキルを使ってきた。亀裂を見て、罠を見て、隠し扉を見て、それだけだ。体系的に試したことは一度もない。


「トレーニング施設を使いましょう。私が観察します」


凛花が案内してくれたのは、冒険者ギルドの地下三階にある個人訓練エリアだった。ダンジョン素材で作られた壁、測定用の魔法陣、隅に置かれた計測機器。A・Bランク冒険者が自主訓練に使う場所で、俺みたいなDランクが踏み込む空気ではない。


「いいんですか、ここ」


「私の権限で借りました。一時間、誰も来ません」


彼女は壁際に立ち、腕を組んだ。左腕がわずかに曲がりにくそうに見えたが、俺は何も言わなかった。


まず基礎から始めた。


正面の壁に《構造透視》を向ける。石積みの内部、モルタルの充填状態、鉄筋の配置。ここまではいつも通りだ。次に距離を伸ばす。奥の壁、さらにその先の廊下。視野の端がぼやけ始めたところで一度止める。


「今のはどこまで見えましたか」


「廊下の突き当たりまで。だいたい二十メートル」


凛花がメモを取る。


次は深さを変えた。壁の一点に集中し、厚みを全て見通すように意識する。石の向こう、地盤、その先の空洞。ジワリと視界が広がる感覚があった。


「……面白い」


思わず口に出た。


「何か変わりましたか」


「集中の仕方次第で、広く薄くも、狭く深くも切り替えられるみたいだ」


「続けてください」


凛花の声は静かだが、目に力があった。元A-ランクと聞いていたが、観察眼がただのギルド受付の水準じゃない。


三十分ほど続けた。広角、精密、深度、移動しながらの同時展開。一つひとつを試し、限界を確かめ、また押し広げる。


額に汗が浮いてきた頃、何かが弾けた。


視界が、広がった。


一気に、三次元的に。


これまでは「壁を見通す」感覚だった。今は、この施設全体の構造が立体的な地図として頭の中に流れ込んでくる。天井、床、隣の部屋、換気ダクト、魔法陣の配線。全部が一つの図面として。


「凛花さん」


「はい」


「スキルが変わった」


ゆっくりと深呼吸する。頭が熱い。でも視界は鮮明だった。《構造透視》が、もっと大きな何かになっている。


「どう変わったんですか」


「ダンジョン一フロア全体を、立体マップとして見られる。平面じゃない。全部が一度に入ってくる」


凛花が眉を上げた。わずかに、だが確実に。


「それは……段階進化ですね。スキルの質的変容です」


「ランク上がるより珍しいらしい」


「珍しいどころか、私は文献でしか読んだことがありません」


俺は目を閉じ、《構造透視》を最大まで広げた。この施設の下、地盤、さらに深く。地下水脈、岩盤、そして。


止まった。


「……何かがある」


「何が」


「この真下、深いところに。巨大な空間だ。ダンジョンの構造マップに沿っていない。公式の設計とも違う」


頭の中の立体図で、それははっきり見えた。


広大な空洞。人工的な形。何十メートルも先に、ダンジョンとは断絶された独立した空間が存在している。


「この空間……ダンジョンの設計図にない。誰も知らない階層がある」


凛花は答えなかった。


静寂の中で、彼女の目だけが、鋭く光っていた。

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