表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/36

最初のファン

「初回から?」


俺は思わず聞き返した。


「はい」


女性は答えた。短く、はっきりと。


「あのとき同時接続者が何人かご存知ですか。最初の十分間は三十人以下でした。その中の一人が私です」


「……なんで」


「夜中にたまたま開いた配信一覧に、ライブマークが出てたので」


理由が偶然すぎる。でもこの人は嘘をつく顔をしていなかった。感情の振れ幅が少ない顔で、ただ事実を述べているだけという印象だった。


「九条凛花、といいます。このギルドの受付です」


「榊誠二です。……もう知ってますよね」


「はい」


九条さんは頷いた。わずかに目が動いた。これが、この人の笑顔に相当するのかもしれない。


「少しお話しできますか。邪魔をするつもりはありませんが、聞いてほしいことがあって」


━━━━━━━━━━━━━━━━


ギルドの一角、来訪者用の小さな個室に通された。


向かいに九条さんが座った。テーブルを挟んで向き合うと、改めて静かな人だという印象が強くなった。背筋が伸びていて、無駄な動きがない。探索者崩れではないか、と一瞬思ったが、制服が受付員のものだから今は違うのだろう。


「《構造透視》について、少し理解できることがあります」


九条さんが言った。


「私は以前、Aランクの探索者をしていました」


「Aランク」


俺は繰り返した。


Aランクは探索者の中でも上位数パーセントに入る階級だ。引退して受付員になる人間が一定数いることは知っていたが、実際に目の前にいると妙な現実感がある。


「今は受付の仕事をしています。諸事情で」


諸事情、という言葉に少しだけ重さがあった。俺はそれ以上聞かなかった。


「《構造透視》を持つ探索者に会ったことがあります。一人だけ」


九条さんは続けた。


「《構造透視》は、使い方次第でどんなスキルにも勝ります。情報という観点から言えば、ですが。今日のボス戦の動画を見ました。第三核を背中から狙ったのは正解でしたが、もっと早い段階で判断できたはずです」


「……どういうことですか」


「ロックガーディアンは特定の足の動きをしたとき、必ず右に体を向けようとします。習性です。知っていれば、第一撃の突進をかわした時点で背中を取れた」


俺は頭の中で映像を再生した。


確かに。あのとき左に跳んで、岩甲獣が向き直るのを待った。でも最初から右に跳んでいれば、突進の勢いで岩甲獣が壁に激突した直後、自然と背面が見えていた。


「知識と《構造透視》を組み合わせれば、ほぼ全てのボスに初見対応できます」


「それを教えてくれるということですか」


「押しつけるつもりはありません。ただ、あなたのスキルがもったいないと思いました」


九条さんはそこで少し止まった。


「あなたのスキルを見ていると、私は」


また止まった。今度は少し長かった。


「変な感覚になります。気になる、という意味です」


━━━━━━━━━━━━━━━━


それから三十分ほど話した。


九条さんはモンスターの習性や、ダンジョンごとの罠のパターンについて、驚くほど詳細な知識を持っていた。Aランクの経験があれば当然かもしれないが、それでも話の精度が違う。


単純に経験量だけじゃない。分析の仕方が、探索者というより研究者に近かった。


「一つ聞いていいですか」


俺は言った。


「《構造透視》を見ていると変な感覚になる、というのは?」


九条さんは一瞬だけ固まった。


「……正直に言うと、左腕が反応します」


「左腕?」


「特定のスキルを目視したとき、腕が勝手に動こうとします。条件反射のようなものです。引退してからも消えなくて、少し困っています」


俺は九条さんの左手を見た。


テーブルの上に置かれた左手が、わずかに震えていた。


本人も気付いていないのか、あるいは気付いていて言わないのか。震えはすぐに止まった。


「どんなスキルでも反応しますか」


「いいえ。《構造透視》系のスキルに限って、反応します」


「系、とは」


「《構造透視》が上位に持つ派生スキルが存在します。ギルドの公式データにはありません。でも、確かに存在する」


九条さんは俺を見た。


静かな目だった。燃えているわけじゃない。でも、消えてもいない何かがある。


「あなたのスキルは、まだ覚醒していません」


低い声が、部屋に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ