ボスの弱点は背中の第三核
《構造透視》が見せてくれた情報を、俺は頭の中で整理した。
扉の向こうの生命体。
外殻は岩石質で厚さ三十センチ前後。内側に筋肉組織が走っていて、その中に三つのエネルギー反応がある。
第一核、胸部中央。直径十センチ程度。
第二核、腹部右側。やや小さい。
第三核、背面上部。
「……背中に一個」
コメントが来ていた。
『弱点が三つ?』『ボスの内部が見えるの?』『え、それチートじゃん』
「三つある」俺は続けた。「でも全部同じじゃない。エネルギーの反応が違う。第一核と第二核は強く脈動してる。第三核は……弱い。不安定です」
『どういう意味?』
「主核じゃない可能性があります。補助的な役割の核が、最も不安定なら、そっちを先に潰せばシステムが崩れるかもしれない」
俺は扉から手を離した。
「試します」
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扉が開いた。
ボスは「岩甲獣」だった。四足歩行で体高が俺の胸ほど、体長は二メートルを超える。岩石質の外殻が全身を覆っていて、普通に殴っても刃が通らない。
探索者の間では「削り殺す系」と呼ばれるタイプのモンスターだ。長期戦を強いられて、消耗で負けるパターンが多い。
コメントが増えた。
『デカ!!』『岩の牛みたいな奴だ』『ソロはきつくない?』
岩甲獣が俺に気付いて向き直った。重心が低い。突進が来る前兆だ。
来た。
俺は左に跳んだ。突進が空振りして、壁に激突する音がした。岩の破片が飛んだ。
距離を取りながら、俺は《構造透視》を起動したまま保持した。
外殻越しに、第三核の位置が見えている。背面の右上、首の付け根あたり。
「問題は、背中を見せてもらうことです」
コメントに向けて喋りながら動いた。
『解説しながら戦うのおかしい』『プロだ』『集中しろ!』
「集中してます。むしろ喋ってる方が冷静でいられる」
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岩甲獣が向き直った。
第二撃の突進。今度は予備動作を読んでいた。俺は右に跳んで、着地の勢いそのままに岩甲獣の側面へ回り込んだ。
腹部に剣を入れた。弾かれた。やはり外殻は厚い。
でも目的はそっちじゃない。
側面に回ったことで、岩甲獣は体を反転させようとした。重い体躯が、ゆっくり向き直る。
その瞬間、背面が見えた。
俺は跳んだ。
岩甲獣の背面、首の付け根あたりに剣を叩き込んだ。外殻の薄い部分を《構造透視》で確認していた。外殻の厚さが半分以下になっている個所が、ちょうど第三核の真上にある。
刃が入った。
岩石質の外殻を貫いて、何かに触れた感触がした。
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岩甲獣が止まった。
文字通り、ぴたりと動きを止めた。
一秒。二秒。
体全体がガタガタと震え始めた。第一核と第二核の脈動が、《構造透視》の視野の中で乱れていくのがわかった。第三核が止まった影響で、全体のシステムが崩れている。
「倒れる」
俺が言い終わる前に、岩甲獣が崩れた。
外殻から順番にひびが入って、内側から崩壊していった。石礫が床に散らばって、最後に静止した。
討伐完了。
コメントが爆発した。
『一撃!?』『えっえっえっ』『第三核って何』『普通ロックガーディアンに一撃は無理だろ』『意味がわからない』『神』
俺は剣を下げて、カメラに向いた。
「第三核が補助核で正解でした。補助核が壊れると、他の核の制御が乱れて自壊します」
同時接続者数を見た。
「……九万八千人」
『もうすぐ十万!!』『十万いけ!!』
カウントが上がっていく。九万九千。一秒後、表示が変わった。
「十万超えました」
俺は静かに言った。
コメント欄は完全に意味を失っていた。文字が流れ過ぎて読めない。
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ギルドの窓口は混んでいた。
Dランクダンジョンのクリア報告をして、戦利品を査定に出す。一連の手続きを済ませて、待合の椅子に座った。
配信は終了していた。
アーカイブのコメント欄はまだ伸び続けていた。チャンネル登録者数が「二十一万四千」になっていた。
「……現実感がない」
呟いた。
「榊誠二さん、ですか」
声がした。
顔を上げた。
カウンターの受付員ではなかった。制服を着た女性が、こちらを見ていた。
年齢は三十前後か。黒髪を後ろで一本に束ねていて、立ち姿が静かだった。感情が読みにくい目をしている。
ギルドの受付員の制服だった。
「はい、そうですが」
俺が答えると、女性は少しだけ表情を動かした。緩んだ、とは言えないくらいの、微妙な変化だった。
「初回から見てました」
低く、落ち着いた声だった。
「あの隠し部屋の配信、最初から最後まで」




