Dランク、ソロ突入
チャンネル登録者七万超えの翌日、俺はギルドに来ていた。
受付の列に並びながら、ダンジョン申請書に記入する。ランク欄に「D」と書いた。
「……ちょっと待ってください、榊さん」
カウンターの受付員が眉をひそめた。三十代くらいの男性で、俺の顔を見てから書類を二度見した。
「E級からの申請でしたよね。Dへのランクアップには審査が」
「ランクアップじゃないです。Dランクダンジョンへのソロ入場申請です」
「……ソロ、ですか」
「はい」
沈黙があった。
Dランクのソロ攻略は違法じゃない。ただし申請者が過去にDランク以上のダンジョンに入った記録がない場合、ギルドの窓口で口頭の確認が入る。要するに「本当にわかってるの?」という確認だ。
「榊さんの記録を確認すると、直近はEランクのソロ攻略ですね。あの……正直に聞きますが」
受付員が声を落とした。
「もしかして、昨日話題になってた配信者の方ですか?」
俺は一瞬止まって、「そうです」と答えた。
受付員は複雑な顔をした。止めたいが止める理由がない、という顔だった。
書類にスタンプが押された。
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Dランクダンジョン、第三新宿開口部。
地下鉄の廃線跡を改装した施設で、都内では中規模の攻略対象として知られている。モンスターの平均レベルは十五から二十五。ソロでクリアする探索者は少数だが、存在はする。
俺はダンジョン入口の前でヘッドカムを装着した。
スマホのアプリを開いて、配信を立ち上げる。
「今日からちゃんと配信します。榊誠二です。Dランクダンジョンにソロで入ります」
コメントが流れ始めた。
『え、いきなりD?』『正気か』『草』『待ってた!!』
「正気かどうかはわかりません。でも入れます。理由はスキルの性質上、一人の方がやりやすいから」
コメントがまた増えた。『スキル詳しく教えて』『構造透視ってどんなスキルなの』
「説明は中でします。行きますよ」
入口をくぐった。
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地下十メートル。
石造りの壁が続く通路は、照明が等間隔に設置されていて視界は悪くない。ただし廊下の幅が狭い。二人並んで歩けるかどうかというくらいの幅だ。
俺は壁に手を当てた。
《構造透視》が発動する。
「見えました」
俺はカメラに向けて説明した。
「この壁の中に、空洞が一個。横幅二十センチ、縦十センチくらい。正面から三メートル先の床に、圧力感知式のトリガーがあります。つまり、ここに罠があります」
コメントが止まった。
一拍の沈黙のあと、爆発した。
『えっ』『マジで?』『それ見えてるの?』『壁の中が???』
「見えてます。スキルを使えばダンジョンの構造が透視できます。壁の中の空間、埋まってる金属、内部の圧力変化。全部わかります」
俺は三メートル手前で立ち止まって、床の右端を踏んだ。
「罠は床の中央部分に仕掛けてあります。端を踏めば作動しない」
一歩。もう一歩。
パスした。
後ろで何かが動く音がした。振り返ると、天井から石の棒が降りてきていた。中央に踏んでいたら、後頭部に直撃していた。
『回避した!!』『え怖すぎ』『普通に死んでたじゃん』『解説付きで見ると余計やばい』
「Dランクの罠はこういうやつが多いです。別に難しくない。見えさえすれば」
俺は前に進んだ。
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三十分で七つの罠を無力化した。
モンスターとも三回交戦した。どれも《構造透視》で内部構造を把握してから攻撃した。スケルトン系は骨格の接合部分が弱い。スライム系は核の位置が見える。全部一撃ではないが、無駄な動きがない。
コメントの流速は、入った時の倍以上になっていた。
同時接続者数を確認する。
「四千二百人」
俺は呟いた。E級の配信より全然多い。
「もうすぐボス部屋です」
廊下の奥に、重い扉が見えた。
Dランクのボスモンスター。こいつを倒せばダンジョンクリアになる。
俺は立ち止まって、扉に手を当てた。
《構造透視》を扉に向けた。
「……」
扉の向こうに、大きな質量の塊が見えた。サイズが想定より大きい。二メートルはある。
でも問題はそこじゃなかった。
俺がまず驚いたのは、見えたものの複雑さだった。
外殻の下に、エネルギーの反応が三か所。三つの点が、それぞれ違うリズムで脈動している。
「初めて見た」
俺は思わず声に出した。
コメントが来た。『何?』『何が見えてるの?』
「ボスの内部構造が、全部見えています」
扉に手を当てたまま、俺はカメラに向けた。
「こいつ、弱点が三つある」




