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深夜のEランクダンジョン

追放された翌日。


昼過ぎまで布団の中にいた。行く場所がなかった。


クランの寮を出る必要があった。違約金はない。退職金もない。ただ、ここにいる理由もない。荷物は昨夜のうちに宅配便で実家に送った。実家といっても埼玉の空き家同然の一軒家で、誰もいない。


午後十一時。俺は渋谷にいた。


特に理由はなかった。電車に乗って、気づいたら降りていた。繁華街を歩いて、路地を一本入ったところで立ち止まる。


「渋谷第七、か」


鉄扉に囲まれたゲートが目の前にあった。深夜帯の入場受付窓口には、眠そうな担当者が一人いるだけだ。


Eランクダンジョン。初心者向けの、業界では「練習場」と呼ばれる場所だ。最大深度五層。出現モンスターは最弱クラス。ベテランはまず来ない。


「ちょうどいい」


装備ポーチを開ける。クランを出る時に回収してきた個人装備が一式入っている。軽量フィールドジャケット、サブナイフ二本、ライト。あとはヘッドカメラ——昔、記録用に買ったやつだ。


電源を確認する。バッテリーはフルだった。


装着して、ゲートをくぐった。


「……静かだな」


深夜の第七は、本当に誰もいなかった。一層の通路は狭く、照明も薄暗い。ダンジョン特有の湿った空気が鼻をつく。


五分も歩かないうちに、最初のモンスターが現れた。


スライム系の変異体——《アシッドパップ》。Eランクの雑魚だ。


ナイフを抜く。


接近、一閃。


終わりだ。


こいつらを相手にしていると、頭が空になる。考えなくていい。判断しなくていい。ただ体を動かせばいい。


それが今の俺には、少しだけ助かった。


三層まで降りたところで、異変が起きた。


右手の壁を何気なく見た時——《構造透視》が起動した。


このスキルは、対象物の内部構造を視覚化する。金属の成分、岩盤の層構造、モンスターの骨格。「エラー」と判定されているが、俺には普通に見えていた。ずっとそうだった。


だから今回も、壁の石組みが半透明に変わって、内部の岩盤が見えるはずだった。


見えたのは。


「……なんだ、これ」


壁の向こうに、空間があった。


石じゃない。空洞だ。しかも広い。縦四メートル、横八メートルはある。Eランクのダンジョンにそんな構造はない。設計図を見たことがある。こんな空間、存在しないはずだ。


俺は壁に手を当てた。


冷たい石の感触。でも《構造透視》は嘘をつかない。このスキルが機能していないなら、今見えているものは何だ。


ダンジョンの壁の奥に、あるはずのない空間が見えた。

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