壁の向こう側
壁を叩いた。
コン、と軽い音がした。
「空洞だ」
《構造透視》の映像では、壁の厚みは三十センチ程度だった。向こう側の空間との間には、ほぼ石一枚しかない。
どこかに入口があるはずだ。
壁沿いに手で探っていくと——ほんの少し、石の継ぎ目に出っ張りを感じた。押す。
音もなく、石が内側に動いた。
隠し扉だ。
「……本当にあったのか」
通路の向こうは、暗かった。ライトを向けると、埃一つない石畳が続いていた。Eランクのダンジョンじゃない。作り込みが違う。壁面の彫刻、天井のアーチ、床の紋様——上位ランクのダンジョンで見る様式だ。
踏み込む。
奥に進むと、広間に出た。
そこには棚が並んでいた。木製の、古い棚。上に置かれているのは、装備品だ。
ナイフ、剣、ブーツ、マント、指輪。どれも光を帯びている。素材の質が、明らかに違う。
「……なぜここに」
一つ手に取る。短剣だ。《構造透視》で解析すると、金属の成分がすぐに出た。
《素材解析:深層鉱石「ヴォルケナイト」——Aランク相当》
Aランク。
Eランクダンジョンの隠し部屋に、Aランク素材の武器が眠っている。意味がわからない。誰かが隠したのか。管理された場所なのか。それともダンジョンの生成バグか。
考えても答えは出ない。
「……とりあえず、回収するか」
淡々とバッグに詰めた。短剣、指輪二つ、小さな魔導石の塊、布製のマント。全部で七点。重量は問題ない。
最後に棚の奥を確認すると、折り畳まれた羊皮紙が一枚あった。文字が書いてあるが、現代語じゃない。後で調べればいい。バッグに入れる。
帰還ゲートを使って地上に戻った。
渋谷の深夜。人通りはほとんどない。ビルの谷間に立って、バッグの重さを確かめる。
スマホを取り出す。充電が半分残っていた。時刻は午前二時過ぎだ。
通知が来ていた。
一件じゃない。
「……なんだ」
画面をスクロールする。SNSの通知。フォロワーからのリプライ。見知らぬアカウントからのメンション。チャンネルの登録通知。
数が増えていく。見ている間にも増えていく。
俺のチャンネル? 俺はチャンネルなんて持っていない。
いや、待て。
頭にカメラをつけたまま、ダンジョンに潜った。
あのカメラ、配信機能がついていたか?
スマホの通知が鳴り止まない。なぜだ?




