極めて近く限りなく遠い世界
『前回のあらすじ』
東区の中心・都市部へ続く大橋に辿り着いたエックス達だが、橋を渡らせまいと立ち塞がる二人。
武蔵坊弁慶と牛若丸を思わせる二人組と戦う中、血の伯爵婦人・カーミラが現れ瑠花を連れ去るも。
増援にベーゼレブルが駆け付け、これを阻止。更に注意を自身に引き付け、エックスの攻撃を通す。
用心棒・ミズキと謎の鎧武者、幹部カーミラを撃退すれど戦闘でかなり疲弊した為、小休止を挟む。
襲撃を退けた後。通行人の亜人達が増えて来た為、大橋の端っこへ移り休憩を挟む一行……なのだが。
エックスは体力の消耗が激しく、少々の休憩では満足に動けず、座り込むと微かな寝息をたて熟睡。
それは少しでも多く睡眠を取り、回復に努め様とする最善の行動。アイエフと瑠花も彼を左右から挟み。
肩を借りて眠る彼女らや橋にも自身と同じ様に、指輪から伸びる蜘蛛の糸が無数に巻き付いている。
しかし此処は既に敵地。普通に考えて、無防備に寝るなど自殺行為。然れど今、彼の傍には──
最も信頼する親友で戦友、ベーゼレブルが居る。そして自身らに眼も向けぬ亜人達の行方を視る中。
「紅心、其処に居るんだろ?」
「勿論。にしても……『まだ気付ける』んだね。王冠を無くした世界の王様」
ポツリと呟いた言葉に反応し、ベーゼレブルの左隣に突然姿を現す白装束に青い袴、足には草履。
紅い長髪をポニーテールにし、真紅の眼を宿す顔は優しげで体格も平均的。そんな紅心が返事をすると。
続けて、まだ自身を見付けれる点や王冠を無くした等、引っ掛かりのある言い方をする。それに対し……
「次期王に託しただけで無くしては無い」と言うも「本人の了承無しだろ?」と返されると、沈黙。
紅心の姿は極一部を除き見えない為、お互い顔は見ない。ただ流れ行く人混みを見、独り言の様に呟く。
「息子が君を倒し、消滅したと思ったが、戻された先は生まれ故郷なんかじゃなかったよ」
「……やはりそうか」
「彼だけを世界中が知らない、極めて近く限りなく遠い世界に飛ばされていたんだ」
前大戦で世界を救い、オメガゼロの力を使い続けた代償を支払い、消滅したエックスは何故か。
自身の生まれ故郷へ戻された……のだが、其処は彼だけを世界中の誰もが知らぬ非常に良く似た別世界。
何か知っているのか、ベーゼレブルは小さく意味深に呟く。紅心が言葉を続け、話した後──
「当然だな。我が友の生まれ故郷はインベーダーに侵略され、苗床と化していた」そう言い、目を瞑る。
曰く、副王から依頼を受けた時点で侵略は完了済み。だからこそエックスの安否確認も含め探していた。
仮にインベーダーを殲滅しても、彼の生まれ故郷は二度と元通りにならず、帰る場所や元の肉体も無い。
「だからと言って──俺が奴に対し手を抜くと言う道理は無い!!」
何処から聞こえる成人男性の声が言い切るや否や、突然エックスとアイエフ達が眠る箇所の橋が。
真下からの強烈な衝撃を受け、破砕された木材や上にいた彼ら彼女らまでもが、宙に飛ばされ湖へ落下。
高く水飛沫を上げた後、無数の気泡が水面に浮かんではその数を減らし、水面は静かになる。
窒息死、又は溺死した証。エックスがカナヅチなのに加え、蜘蛛の糸で女性二人と繋がった状態。
仮に泳げたとしても、水中では地上の様に蜘蛛の糸は使えない上、女を二人抱えたままでは泳げない。
仲間を見捨て自分だけ助かるか、自身を犠牲に仲間を救うか。そんな中、橋の下から手が伸び。
割れ目を掴むと声の主と思われる男性が新体操選手の競技同然の動きで橋の上へ。その姿は──
赤く短い髪、整った顔立ちに紅い瞳。白いジャケットの内側に見える藍色のシャツ、白い長ズボンの男。
「馬鹿な奴だ。カナヅチの癖に水場へ近寄るとはな」
「全くだ。体がゴムになるとかそう言った実を食べてもないのに、カナヅチとは」
「……敵の俺が言う事じゃないとは思うが、そう言うボケは止めておけ。色々とな」
簡単に水没したエックスの行動を貶すも、それに対してボケで返すベーゼレブルに少し間を空け。
自身の立場的に前置きをしつつ、控えめなツッコミをする男。たった一つのボケに場の空気を乱され。
一触即発の空気が引き起こす、日焼けにも似た肌への痛みや戦う意気込み、緊張感も何処へやら。
但し周りの大橋を渡る亜人達だけは突然起きた轟音、破壊活動にパニックながらも二人の周囲は避け。
大橋の先にある城門へ向かって走り、先に居る亜人達が執拗に鉄の門を叩き、開くと雪崩込んで行く。
肩を落とし深い溜め息も吐く。付き合ってられん。と言わんばかりに首を横に振り、両手で頬を叩き。
気合いを入れ直せば顔を上げ、握り拳を作り構え直して踏み込むと、丈夫な橋に轟音と足型の跡が残る。
「チッ。報告には聞いていたが、掴みどころの無い野郎だ」
「ふむ……港町トワイライトで女海賊共がインベーダーに寄生された海賊と戦ってた時、監視してた奴か」
「ご明察。唯一無二の友が死んだにも関わらず、随分とドライな反応だな」
「アレで死んだのなら、所詮はその程度の男だった。と言うだけだ」
一歩で五メートルの距離を一気に詰め、右拳を真っ直ぐ打ち込むも左手で掴まれるや否や。
簡単に左側へと引き払われると、男は勢いを殺すべく踏み止まり、頭狙いで左足の鋭い蹴りを繰り出す。
しかし引き払った際の手を前へ払う時……運良くか狙ってか。男の左足に触れ、前方へ払い除ける。
除けられた勢いのまま、身を捻り半回転。右足の連続蹴りを何度も繰り返し放つもベーゼレブルは──
左手だけで受け流し、一発も当たらない。蹴りを止め、舌打ち序でに事前報告通り掴みどころが無い。
そう呟けば、港町で他の誰も知らない出来事を口にすると、それは自身だと認めつつ、仲間の死に対し。
感情の起伏を見せない点を指摘するも、ゆっくりと口角を少しだけ上げ、ある種の信頼を口にする中。
紅心は微笑むと幽霊さながら姿を消して、二人の戦いの邪魔にならないように上空へと昇る。
「その余裕、テメェを倒した邪魔者故に丁度良いってヤツか?」
「安っぽい挑発だな。それは城門の中に居る神格──まあ……結末は容易に見えるがな」
男は大きく距離を空け、身構えながら先の返答に対する返しへ見え透いた挑発をするも、全く通じない。
双方距離を保ったまま時計回りにゆっくりと動きつつ、互いに次の一手を警戒する中……
ベーゼレブルは挑発が安っぽいと言い、理由は城門内に居る神格と見るが、結末は火を見るより明らか。
故に、余裕の表情は解けない。寧ろ、相手に対し哀れみすら覚える程の……可哀想な目で相手を見る中。
老若男女の悲鳴や開門を求め叫ぶ声が城門の内部から響き、静かになると……目に見えぬ異変が起こる。
空気が淀み、鼻腔の奥に纏わり付く臭いは本能的な嫌悪感を引き起こすが、誰もが必ずは通る道であり。
命が迎える概念──死。それを想起さす死臭が辺り一面に広がると同時に、固く閉じた門が徐々に開く。
「綺麗な……女?」
「おっと……コイツは色々と骨が折れそうな化け物が来たか」
其処に居た存在は一人の貴婦人。漫画で見る魔女が被るとんがり帽子や、素材の薄い洋服に日傘を差す。
上下合わせて黒を基調とした服装選び。敵である男もその貴婦人を見た途端、思わず綺麗と口ずさむ程。
世間で言う美形の顔立ちに、厨二病患者なら格好良いと言うやも知れぬ紅い瞳を持つ女性に対し。
ベーゼレブルは目を閉じ、何度か首を短く横へと振る。続けて貴婦人を化け物と呼び身構え直す。
その理由も明白。遠目で見え辛いものの……女の口周りや衣服には赤い液体が付着している。
刹那──女が消える。何が起こったのか?現状を把握すべく、辺りを見渡す男とは対照的に。
焦らず動かず、ただ静かに目を閉じて身構えたまま立ち尽くすベーゼレブル。次の瞬間……
「な──」
「あらあら。褒める口だけの男って言うのは……女性からは嫌われますわよ?」
女が男の前に現れた途端。男は突然城門側へと吹っ飛び、開いた片方の門を背中から激しく衝突。
門を閉める役割を果たした後、衝突の反動と重力に引っ張られる自然現象もあり、俯けに地面へ落下。
再びまばたきをするよりも早く消え、ベーゼレブルの背後に現れるや否や目に見えぬ速度で何かを行う。
それに反応して見せ、振り向くと同時に迫る青い結晶の右腕に対し左手を絡ませ、反時計回りに回す。
自身の速度に反応され、受け流され、触れて無事な相手に対し疑問から目を丸くして『何かを』見た後。
貴婦人は口角を大きく吊り上げ、微笑む姿は……漸く好奇心を満たす玩具を見付けた子供を思わせる。
「今日は『食事』だけか?もしくは『狩り』をしに来たのか?」
「前者。けれどワタクシ、同胞を退けたあの方に興味がありますの。だから……」
より一層深く警戒心に精神力を集中させ、一寸たりとも目を離さず、ただただ目の前の存在を見つつ。
今日此処に現れた理由を尋ねる。すると女は食事だと答えるが、同胞を退けし者に興味があると続け。
綺麗に削り整えたであろう、青い結晶の右腕を静かに振り上げ……湖に向けて軽く振り下ろせば。
水深十五メートルはある湖を五つに裂き、水の断面には気泡に包まれ無事なエックス達三人の姿が。
女はベーゼレブルへ顔を向け、視線に気付き顔を向ければ、相手は好奇心に満ちた笑顔を見せ。
敢えて声を出さず口パクで「最高の玩具、見ぃ~付ぅ~けた」と伝えるや否や合わせていた顔を背け。
三人へ向ける。その意味を瞬時に理解した時、ベーゼレブルの顔に初めて焦り・不安・恐怖で青ざめる。
(マズイマズイマズイ!猟犬もヤバかったけど、アレは更にヤバい!)
「鬼ごっこ?別に良いけれど、ワタクシ──誰かを見付けるのは得意なの」
エックスも命の危機を覚え、猟犬も滅茶苦茶危険だったが、今此方へ視線を向ける存在も危険過ぎる。
本能が非常事態宣言を発令。一刻も速く逃げろ!!そう急かす中、敵味方問わず使用者を危機的状況から。
又は撤退する際に使い、追っ手すら許さない瞬間移動で離れた場所へアイエフと瑠花を避難させよう。
即座に使い、転移空間に姿を消したのだが……移動中に女が侵入、ハイヒールを履いた足で右肩を蹴り。
瞬間移動を破られ、跳躍の失敗により元々の座標・大橋を渡る一番手前から大幅にズレ。
空中に放り出された時。咄嗟に信頼する友へアイエフを投げ渡し、残った瑠花を守る様に抱き締め。
大橋のド真ん中へ右肩から落下。叫びたい痛みを飲み込み、瑠花を離れたアイエフの所へ避難させる。
「我が友よ。大丈夫か?」
「ッ……多分、な。にしても何だ、あの人間の姿をした異次元人は」
「アレは何度も甦る怨念の集合体では無い。異次元の殺人者だ」
受け取ったアイエフと瑠花が幾らか離れたのを確認後、エックスの下へ駆け寄り、気遣う親友。
右肩に集中する痛みに歯を噛み締め、右目だけを瞑り多分平気だと返答。続けて女の姿をした存在を。
異次元人と言えば、ベーゼレブルが訂正混じりのツッコミを入れ、異次元『人』ではなく殺人者と返す。
そのワードを聞き、目の前の存在が何かを理解し、身震いするも両手で頬を叩き覚悟を決め正面を向き。
何も武器を持っていない状態ですら身構える。それは逃げられる、逃げても意味がない事の証明。
ワールドロードの二人が再び、力を合わせ乗り越えるべき相手。対する女は不敵な笑みを浮かべるだけ。
「勝利条件は全員生存した上で──ティンダロスの混血種の撃破、又は撃退だ。行くぞ!!」




