血の伯爵婦人
『前回のあらすじ』
地下フロアで風呂を満喫する幹部・カーミラだったが突然電気が切れ、用心棒のミズキを呼ぶ。
エックス達の動向を聞けば、スパイが居るらしく動きは筒抜け。一応は様子見をする方針に決まる。
一方、依頼主の研究員は妻と娘を報酬に出し後悔する姿を、切り裂きジャックこと如月に見付かる。
如月からは現実を突き付けられ、桔梗には激励を貰い行動するも……エックスへ与える印象は悪い。
東区での翌朝。迷彩機能で巧妙に隠されたエレベーターのある森から離れ、創大に貰った地図を開き。
辺りを見渡すエックスは同行者に古賀瑠花とアイエフを連れ、中心の都市部を目指し歩いて進む。
桔梗と如月によるオーガ虐殺の一件があった為か、森の魔物や動物達は滅多に姿を見せない。
そのお陰もあり、魔物や動物との遭遇も無く安全に進む中、アイエフは曲げた右人差し指を唇に当て。
目を瞑る姿は何か疑問でもあるのか。もしくはどう伝えるべきか悩んでいるとも取れる様子を見せると。
「疑問。何故北区、それも離れ孤島から依頼が届いたのでしょう?」
「それに、ディクテクターの抱えている計画に関しても、色々知ってたのが気になる」
「確かにな。仮に内通者が居るとしても、相当の手練れだろうよ」
率直に北区での疑問を同行者達へ投げ掛ける。先ず最初に口を開いたのは、共に行った三人娘が一人。
藍色の長髪と瞳を持ち、黒いつば付き帽子を被る古賀瑠花。別の依頼主はディクテクターが抱える。
極めて危険度の高そうな計画に関する情報すら、色々としっていたのが逆に気になると付け足す。
二人が考える謎に対し、自身も同じく警戒している点の他、内通者がいるならば相当強いだろうと返す。
話しながら進んでいると三人は森を抜け、大きな湖に根を張る桜の木が左右に咲く大橋前へ到着した。
刹那──自身の首を突かれ、血を噴き出しながら倒れるイメージが危険信号さながら脳裏に流れ込む。
「どうしたんだ?」
「……了解。下がりますよ、瑠花。今我々がマスターの傍にいては、邪魔になるだけです」
前方に居る人物を見るや否や、エックスはアイエフと瑠花に自身の後ろへ下がる様、手の動きで伝える。
顔を適度に隠す小麦色の三度笠、体を包む藍色の羽織、紅い袴の下から覗く黒いタイツと小麦色の草履。
腰には刀を二本帯刀しており、隣に居る上下合わせて瓢箪を思わす深緑色の鎧を着込んだ人物も居る。
その人物が背負う鎚や薙刀、槍にさすまたと言った中距離に届く多種多様な武器の数々。
この場所と相手の持つ武器が多い事から、牛若丸と武蔵坊弁慶のコンビをエックスに連想させる。
羽織袴の人物が二本ある刀の内一本を掴み──自身は一歩も動かず、エックスの出方を見ている。
故に分かる。コイツらは強い。左手を頭上に掲げれば、蒼白と紅黒い雷が集いて長い柊仕立ての鞘へ。
鞘を掴み、左足を一歩だけ後ろへ下げると抜刀術の姿勢で身構え、青白い勾玉が描かれた柄を握る。
「「……」」
「両者共、動かないぞ?」
「否定。動かないのではなく、動けないのです。恐らく、お互いにイメージの中で殺し合ってはいるかと」
双方身構え、向き合ったまま一向に動かない姿を見た瑠花が見たままを口に出せば、アイエフが否定。
正確には動いてはいる。お互いに隙を探っては飛び出そう、又は飛び込んで来たところを切り捨てんと。
膝が深く曲がり、踵が上がっては下がる。それの繰り返し故、見ている側からすれば変化が無く退屈。
然れど当人らには一つのミスが死を招く恐怖と、強者と相対して血湧き肉躍る興奮が互いを高め合う。
散り行く桜の花弁が突然の突風に押し出され、双方の間を通り過ぎた直後──両者一斉に飛び出す。
「刺突ッ!!」
(コイツ──喉骨の隙間を狙って!?)
飛び出す先を予測していた。としか言い様がない程、相手剣士の突きは的確にエックスの喉へと迫る。
刹那。ズボンへ勝手に装着された鎖付き懐中時計の青い螺部分が光り輝けば、不思議な事が起きる。
彼の眼に未来が映る。左右に避ければ、先の跳躍力と瞬発力による横一閃で首を跳ねられ即死。
上下なら返し刀で縦の一閃。頭か股の違いこそあれ、裂かれてお仕舞い。故に彼が取った行動は……
大きく一歩後退。一足飛びではギリギリ届かない位置に引くも、それすら見切られており。
刀を持つ右手を戻し。間髪入れず着地後、確実に首を取る為即座に次の跳躍から横凪ぎへ移行。
討ち取った!!そう相手が思う程完璧なタイミング。正に……運命の三女神がエックスを討てと微笑んだ瞬間。
「残念でした。運命は既に決まっている。故に──我ら三姉妹はこの者に力を貸している」
「今のを避け……ッ!?」
「ミズキ殿!!」
見知らぬ成人した女性の声が何処かから聞こえ、過去形の物言いが特徴的。しかし刃は止まらない。
切り裂き、宙に舞うは──彼が着るクロークのフード部分。それもその筈。偶然と必然が折り重なり。
エックスが後退し着地した瞬間、橋に使われている木材を線に沿って踏んだ為……盛大に滑った。
ただそれだけで、首を切り落とす筈だった刃は頭を隠すフードだけを切り裂き、飛び込み過ぎた自身は。
顎に右足の蹴りを貰い、脳に激しい衝撃を受け一瞬意識が飛んで尻餅を着き、頭を短く横へ振る。
滑り転んだ彼は身を転がして距離を開け。相手の付き人は相方の名を叫びながら薙刀を頭上で振り回し。
エックスと後方の二人すら巻き込む勢いで横に振るう。普通なら防御に徹する中、彼の眼が……変わる。
「馬鹿な!!ワシの剛力と遠心力で威力を底上げした……渾身の一撃を──」
円を描く虹の眼になった途端。エックスは自ら鎧武者の方へ飛び込み、天高く召喚した刀を放り投げ。
凪ぎ払わんと迫る薙刀の棒部分を受け止める……のではなく。掴むと同時に自身も足を主軸に身を捻り。
火事場の馬鹿力と相手の力を全て逆に利用すると振り回し、橋の上へ一本背負い投げの要領で。
木材を叩き割る豪快な破壊音と共に叩き付ける。遠心力と重厚な鎧を着込んだ自重の威力は凄まじく。
木製の橋に叩き付けた部分が盛大に割れ、相手の鎧武者がめり込む程。投げた当人は膝に両手を置き。
小休止を入れつつ左手を頭上へ向ければ、放り投げた刀が舞い戻り、手に取ると杖代わりに立ち上がる。
「──ッ!!」
「流石にやる。テラーが唯一無二の障害と認めただけはあるか!」
次の瞬間。右足を上げた途端剣士が振るう刀の切っ先が橋に突き刺さり、振り向き様に刀を抜き。
横へ凪ぎ払い、姿勢が低くなった剣士の頭を三度笠越しに捉えた……のだが、刃は切り裂く事叶わず。
耳障りな鈍い金属音を鳴らし、火花を散らせ通り過ぎるだけ。咄嗟の的確な判断にテラーの名を出し。
今度はお返しにと素早い連続突きが迫る。流石に対処し切れず、青白く丸い結界を張るも多少貫通され。
腕や肩、脚や上半身に無数の切り傷が出来る中、突然結界が粉々に砕け、背中に痛烈な痛みが走る。
右手と右膝を着き、背後を見れば先程倒れた筈の鎧武者。既に起き上がっており、その手には鎚が二つ。
「ッ……応援を呼ばなければ!」
「おやおや。様子見の筈が──南区の商人に依頼しつつも、他の客に先越されたガキの一人やんかぁ」
「血の伯爵婦人・カーミラ……ッ!!」
「あぁ。油臭いガラクタには用無いんや──壊したるからジャンク品になっとき!」
X獣・恐獣にも劣らぬ強敵かつ、武術の達人たる領域を越えた二人相手に分が悪いと見た瑠花は。
隣で勝利を信じて見守るアイエフへ振り向き、話す中──背後には紅と黒を基調にした脇出し着物。
白い手に紅く塗られた爪、蝙蝠の仮面を被った長身の女が突然現れるや否や、瑠花の首を掴み上げ。
南区・港町でベーゼレブルが阻止した人身売買の買い手側……血の伯爵婦人カーミラも三人娘を狙うが。
他の客に先越され『購入』を諦めたら、エックスが商品を連れてやって来ただけではなく。
用心棒との戦いで動けず、更には狙いの瑠花と距離を開け直ぐには駆け付けられない好条件に遭遇。
まさしく鴨が葱を背負って来る、又は棚から牡丹餅状態。アイエフが瑠花を助けようと振り向いた瞬間。
空いた左手の甲で左頬を殴り飛ばす。侮辱しながら振り上げた手を振り下ろせば、五本の紅い刃が迫る。
「瑠花、アイエフ!」
「貴殿の相手は我々だ、破壊者──ッ!?」
仲間達に迫る危機を前に叫ぶ中、眼に宿る虹の輪が紅一色に染まれば鞘から真紅の刃を持つ黒姫を抜き。
目の前へ立ち塞がったミズキに向け繰り出す、切り上げる縦一閃。当然の様に反応して見せ、刀で防ぐ。
が……小太刀故に刃が届かぬ袴、受け止めんとした刀身。羽織の内側に着た白装束、刃を弾いた三度笠。
体以外を一直線に斬られ、意識を失い前方へと倒れ込む。エックスは右腕で受け流し勢いを殺し。
足元への激突を防ぐも背後から鎧武者に羽交い締めされ、右足で相手の脚を蹴り姿勢を崩し背負い投げ。
二人の足止めを乗り越えるも、アイエフ救出には間に合わない。それでもと駆け寄る中、命中し爆発。
「用件も済んだし、これでサヨナラ──!!」
「ふむ。圧倒的に運動量が足りてないと判断するのだが……どうかな?血の伯爵婦人」
灰色の混じった黒煙が昇るのを見て、エックスが煙の中へ入った後も出て来ないのを処分完了判断し。
左手で瑠花の後ろ首を掴んだまま身を翻すカーミラ。……の左腕を上空からの降下で切り落とし。
同時に橋の木材が割れてめくれ上がらせる重厚なそれは──エックスの身長程はある戦斧・ジャッジを。
軽々しく操り、右肩に柄を乗せる神父姿のベーゼレブルは運動不足故に、左腕を切断した。
今の一撃が避けられなかったのではないか?と遠回しに煽り、カーミラの意識を自身へと釘付けにする。
「アンタ、魔神王?!破壊者にやられたんとちゃうん!?」
「情報が誤ってる上に古い。それに戦場での余所見は……死に至るぞ」
「何を言うて──!?!?」
倒された魔神王が目の前に居る。古臭い情報しか持っていないカーミラには、ベーゼレブルの存在は。
信じれず驚愕する中。情報の鮮度が無い事や内容の誤り、自身だけを見る点から背後を指差し教える。
指摘に従い振り返ると──エックスが左手に真紅、右手に蒼白の刃長・二尺の小太刀。
麒麟・白姫を自身に振り下ろす瞬間を目の当たりにし、思わず身を後ろに引くのだが……
顔の左側に縦一閃が決まり、続けて逆手持ちにした黒姫の横一閃、二振りの連続斬りへ。
最後に黒姫を顎、白姫を左胸へと突き刺し──引き抜くと同時に黒煙から出て来たアイエフの前へ引く。
「ひゅー……ひゅー……流石はアタクシ達、人類の敵。せやけど……『我々』を倒すには足らんなぁ!!」
「我が友でも倒せんとは」
「毎日毎日違う男共を取っ替え引っ替えしとるんや!!この星を支配するんは時間の問題やで!」
「断定。年齢容姿の若い女性が一定時期に迎え、年老いて捨てられる穴モテ女子の自慢です」
切り傷刺し傷切断面から止めどなく流れ出る黄緑色の液体。弱々しい呼吸の後、エックスの力を褒め。
人類の敵と認識を確固たるモノにするも、これでは我々を倒すには足りないと声高に笑って言い放つ。
このダメージでも倒せない事に。敵が持つ生命力の高さ、続く何の意味があるのか?と思う言葉に……
アイエフがエックスの隣へと並ぶや否や、カーミラに残酷な事実を突き付け、場の空気が完全に凍る。
「チ……チチチ」独特な笑い方をした直後、右手を開き、鋭く伸びた爪で切り裂かんと迫る中。
何故かミズキや鎧武者、カーミラの三名が転移したかの如く消え、警戒するも襲撃奇襲は一切無かった。
『フラグ?』
大橋での襲撃が終わり、通行人の亜人達が増えて来たので端っこへ寄り休憩を挟む一行。
「アイエフを助けてくれてありがとう、ドゥーム」
「何。命中する直前に瞬間移動で話って入っただけだ。にしても、随分と横幅の広い橋だな」
「大体二十か三十メートルはあるか?」
「つまり、それだけ馬鹿デカイ何かを通す為の設計と言う事……ん?コレはフラグか?」
「止めろよ。洒落にならんぞ」




