死神・逆位置
『前回のあらすじ』
見知らぬ者と結婚する夢を見たエックス。目が覚めれば桔梗に抱えられ、エレベーターで地下へ。
出迎えてくれた依頼主の研究員と女性。話を聞けば、東区にある国を破壊して欲しいと言う内容。
理由はディクテクターが幹部・貪欲のカーミラに東区を乗っ取られた為だと話す。
しかし対価となる報酬が無い為、エックスは隣に居る女性と写真で見た子供を要求し、受理される。
無数の電球に照らされ、混ざり合った不純物が独特の模様や多彩な色合いを見せる大理石の部屋──否。
体育館程の広さがあるフロアに置かれた、余りにも不釣り合いな拷問器具の数々。ソレらに囲まれ一人。
広いフロアには不自然な位の小さな白い浴槽に浸かる、桃色の髪を纏め上げた白い肌の女性……カーミラ。
お風呂タイムで上機嫌な時。電球が寿命なのか明滅を始め、満足げだった彼女の顔は苛立ちに変わり。
舌打ちと同時に照明が切れ、フロアが真っ暗になり何も見えない中……カーミラの右人差し指の指先に。
魔法の光を集め、蝋燭の灯火にも似た明かりを灯し、左手の人差し指と中指を左耳に当て。
「ミズキ!!電気が止まった!発電所の方はどうなってるの?!」
「どうもこうも、貴女が電気の無駄遣いをしてるだけ。燃料も無限ではないのだから……」
自身の用心棒、ナズナ・イクス・ミズキの名を呼び電気が止まったと怒鳴り散らせば、足音が鳴り響き。
カンテラの明かりを頼りに上階から階段を降り、下のフロアへ到着するは──黒いレオタードを着用し。
その上にチャックが全開に開いた灰色の上着、濃紺の長ズボンを履く用心棒ナズナ・イクス・ミズキは。
電気が止まった理由を雇い主相手に、貴女が原因だと伝える。燃料と言う辺り、火力発電所なのだろう。
そう話す彼女は酷く無関心で、呆れ果てた……もしくは諦めた様な表情をカーミラへ向けている辺り。
以前から何度も停電させているのかも知れない。浴槽の方へ近くも一定の距離を取り、近寄り過ぎない。
「それは兎も角も──破壊者達の動向は?」
「泳がせていた裏切り者と昨晩の内に接触。依頼を授与、報酬に実験体H-四十と娘を要求」
自身の責任だと図星を突かれるや否や、話題を切り替え破壊者ことエックス達の動向を尋ねる。
するとミズキは裏切り者の研究員が居ると知った上で泳がし、動向を全て監視していた様子。
エックスとの接触や依頼の件も、秘密裏に行っていたやり取りすらも看破し、上司に淡々と報告。
話を聞くカーミラは湯船から左腕を上げ、赤い液体が浴槽の中へと滴り戻って行く中、恍惚な表情。
ポツリと「また、十は軽く若返ったな」そう呟き、再び赤い液体で満たされた湯船の中へ左腕を戻す。
ミズキは手に持ったカンテラを階段の出入り口側面にある、吊り金具へ取っ手を引っ掛ける。
「まだ破壊者達はスパイに気付いていない。と見るべきかしら?」
「恐らくは」
「まあ、暫くは様子見。この国に蔓延る欲望は──破壊者の貴方がどうこうしたって意味がない」
エックス達の中でスパイとして動く者の存在を口にし、気付かれていないか?と尋ねれば。
何処かで会話のやり取りなり行動を見ていたのか、恐らくは……と曖昧な返答で返すミズキ。
結果がどちらであれ、暫くは様子見を決め込むらしい。その上で奪い取った国に蔓延る欲望に対し。
エックス達が何をしたとしても、意味がない。そう断言し、余裕の表情で人差し指に灯る魔法の光を。
天井に向けた手の平へ移し、その光量と照らす範囲をフロア全体へと拡張させて見せ、微笑む。
「ふふ……『我々』と人類は同類にして同罪。それを記したオメガファイルも今や、我々の手中」
「……(死神の逆位置。成る程、確かにその通りね。カーミラ)」
カーミラは『自身ら』と人類は同じ穴の狢であり、同じ罪を犯した者同士と語った上。
人類が犯した罪の記録を続けながら同時に隠匿し、世界にバレれば未来永劫赦される事の無い事件。
超が付く程の機密情報──オメガファイルはディクテクターの手中にあると、己の手柄の様に言う。
ミズキは機密情報・オメガファイルに興味が無いのか。沈黙したまま目を閉じ、上着のポケットから。
二十二枚のカードを取り出し、何度もシャッフル。一番上のカードを引き、出た結果と意味に納得する。
場所は代わり、エックス達の方は──依頼主の研究員が研究室で椅子に座ったまま机に突っ伏した状態。
「あぁ……どうしてこんな当たり前の事を考えなかったんだ、僕は!!」
「アレは……依頼主の研究員さん?」
頭を抱え自身の至らなさを悔やんで叫び、振り回している後ろ姿を偶然通路を歩いていた如月が。
扉の開きっぱなにしなっている部屋を覗き込み、不思議そうに眺めていると……研究員が突然仰け反り。
お互いに視線が合い、片や見悶えているところを見られた。片や相手の奇行を見てしまった。
双方の間に流れる、話し掛けるべきかどうか?と言う気不味い空気を読み合い、沈黙が場を支配する。
どちらが行動に移すのか?そんな時、偶々通り掛かった紅い馬耳の女性が二人を見付け、間に入り──
「ど、どうかした……のですか?」
「いえ、何も。ただ間の悪い時に遭遇してしまっただけですから」
「そ……そう?」
二人に話し掛け何があったのかと尋ねるのだが、研究員は答え難いと苦虫を噛み潰した様な表情を見せ。
言い出せない空気を出していたのもあり、代わりに空気を読み、察した如月が上手い事言いくるめる。
馬耳の女性は言葉に少し言い淀むも、チラッと見た研究員の表情から何となく間の悪い時を理解し。
彼女が眉をひそめた作り笑いを見せる中、研究員は小さく「ふぅ、助かった……」と呟く。
「自己紹介がまだでしたね。私の名前はH-四十。天空計画の四十番目」
「貴女個人用の名前は無いの?」
「だから言ったじゃないか、ペガ。彼らには実験体名じゃなくて、愛称とかの方が良いって」
昨晩出来なかった自己紹介を行う馬耳女性は、自らを実験体用のアルファベットと番号で言うも。
個人名は無いのか?と返せば、研究員の男が彼女をペガと呼び、迎え入れる前にでも話したのか。
実験体名ではなく、愛称の方が良い。そんなやり取りを見る如月の表情は微笑ましく見守っていた。
やれ「計画名や番号まで言う必要はない」だの「説明は何事に置いても、必要だろう?」と言い返す。
「痴話喧嘩なら、私達の居ない所でやってもらえるかしら?」
「す……すまない。後、僕の名前は武田創大」
「武田……貴方、もしかして日本人?」
「あぁ。君達が次元穴と呼ぶモノに吸い込まれて、遥か未来の此処へ飛ばされた」
他愛ない言い争いを延々と見せ付けられ、見せる表情は笑顔だが内心イラついている如月の言葉に。
研究員の男は弱腰で短いながらも謝罪し、自身の名前を伝える。その発音と響きから日本人では?
そう考え、尋ねれば肯定。更には何処で、どうやってこちら側が次元穴と呼ぶ存在の名称を知ったのか。
小さくも確かな違和感を覚えるも敢えて突っ込まず、話を最後まで聞き続ける如月に創大は語る。
自身が現在のsin世代出身では無い点や、次元穴に吸い込まれて遥か時を超え、此処で働かされていると。
「そう言えば、破壊者の姿が見当たらないけど?」
「私達の旦那様なら『他の依頼』を受けに行ってますわ。それから──」
続けて昼前の現在までエックスの姿が見えないと話題を変えれば、如月は他の依頼を遂行中と話した後。
「我々は正義の味方ではありません。勇者御一行をお望みでしたら他をどうぞ」と営業スマイル。
創大が苦悩していた内容を突き、お話はこれでお終いとばかりに、如月は二人の傍から立ち去って行く。
その背中を見送った後。創大は椅子から床へと崩れ落ち、膝を着いて俯き、床を力強く叩く。そう……
彼ら彼女ら百鬼夜行は勇者御一行ではない。正義を打ち砕き悪を喰らう、世に蔓延る悪党の一つ。
頼むべきではなかった。否、頼むにしても相応の報酬も用意しなかった自身が一番の間違いと悔やむ。
「破壊者は勇者じゃない!そんな事に気付けないだなんて!!」何度も床を叩く彼に寄り添うペガ。
「……はぁ。何?アンタもウチの馬鹿を勇者と勘違いしてた口ぃ?」
「よ、宵闇の女王?!い、いや、それは……」
「悪いけど、アタシらは世界を滅ぼす悪党。殺しもやる人類の敵」
特定のワードを口にしては力強く床を叩く音に引かれ、様子を見に来た桔梗。如月と同様二人を見付け。
片や悔やみ、片や寄り添い慰める姿を少し見て──面倒臭げに細めた目を向け、軽い溜め息を一つ。
両手を腰に当て、見下ろす形かつ乱暴な物言いで問い掛ければ、創大は驚きの余り二つ名で桔梗を呼び。
口ごもりながらも何か言おうとする中。我先にと口を開き、自身らが正義の味方ではなく悪党である点。
誰かを殺す行為だって、簡単に行う人類から見ても敵だと、割り込みや疑問すら寄せ付けずに言い放つ。
「但し、アンタの覚悟と決断は及第点。アタシの旦那みたく決める時は決めて、惚れた女を惚れ直させな」
トドメとばかりに昨晩の覚悟と決断は及第点と言い捨て、創大を更に落ち込ませた後、背を向け。
立ち去る中。エックスみたくここぞと言う時は格好悪く、泥に塗れ汚くても、為すべき事をやり切れ。
そして……隣に居る惚れた女が離れて行かない様に惚れ直させろ!右手を小さく上げ、激励を送る桔梗。
その言葉を聞きながら立ち去る背中を見送り、創大は床を叩いていた両手で自身の頬を強く叩き。
己の足で立ち上がり、俯き続けていた顔を上げ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を白衣の袖で拭う。
「ッ……そうだ。僕は甘えていたんだ」
「創大?」
「大丈夫だよ、ペガ。僕は……目の前の恐怖からはもう、逃げない!」
自身はただ甘えていた。そう理解した創大は、もう一度自分の頬を強く叩く。端からみれば変な行動。
故に、どうかしたのだろうか?不思議に思い名前を呼ぶペガに対し、向き直ると自身は大丈夫だと伝え。
目の前にある恐怖から、もう逃げないと覚悟を口にする。それから数時間後……エックスが他の依頼先から東区・地下研究室へ戻って来ると。
エレベーターが開くや否や、土下座で待っていた創大と苦笑いのペガが視界に映り、言葉を失う外出組。
無言のエックス、うわぁ……と小声が口に出るアイエフ、絶句する三人娘。反応はそれぞれな中──
「申し訳ありません!!報酬の件ですが、此処に居る妻のペガと娘の咲姫は報酬に渡せません!」
「……」
「妻と娘以外でなら、僕の人生を全て捧げます!殺しでも何でも手伝いますから……どうか。どうか!!」
頭を上げるとエックスの眼を見て謝罪の言葉から始め、報酬の変更に関して声を震わせながら。
拒否される恐れと不安の恐怖に呑まれ、涙を次々流しつつ言う。妻と娘は渡せない点の他。
代替案として、自分の人生を全て貴方に差し上げます。だからどうか妻と娘だけは……と頭を下げ懇願。
言われる側のエックスはただの一言も返答をせず、耳を傾け最後まで見届ける。それ以上の反応は無い。
「…………なら、最後まで有用だと証明し続けて見ろ。変更を受け入れるかどうかは──結果次第だ」
「あ、ありがとうございます!!」
少しの間目を瞑って眉をひそめ、目を開いてから発した言葉は……自身がペガや咲姫よりも有用だと。
依頼達成の時までに証明し続け、結果を出せと言う交換条件。それでも可能性を掴み取れたのもあり。
怯えつつも感謝の言葉を伝え、深々とひたすら頭を下げる創大。それを見るエックスの顔は……
嬉しい表情等一切なく、寧ろ目を細めて可哀相な者を見る目と嫌悪感を示す様に、口角が引いていた。
それは周りの頭を下げていない者達には、否応でも分かってしまう。これは地雷を踏んだのだと。




