Episode of Sin・Ⅱ ~時の娘第二幕・無常の罪編~
『前回のあらすじ』
夜中に出航準備として依頼を受けたタコ商人は、魚人作業者達に積み荷を船に運ばせる。
積み終え、作業者が撤退した頃を見計らいアンとメアリーは裏で自身らを裏切ったタコ商人を処刑。
一方住民にバレず南区を出て、依頼主の居る東区へと馬車で向かう一行の前に立ち塞がるオーガ達。
エックスや三人娘は眠っており、迎撃に出た桔梗と如月を侮るオーガ達は瞬く間に全滅。
晴れ渡り白い雲浮かぶ青い空に響き渡る、結婚式場となった教会に流れる結婚行進曲。式場では──
短い黒髪の新郎が純白のタキシードを着て、祭壇の前で同じく短髪黒髪の神父と新婦の入場を待つ。
純白のウェディングドレスを着、今日と言う日の幸せを、一歩ずつ噛み締めながら祭壇の前へ進む新婦。
横に立ち並ぶ新郎新婦の身長差は約十二センチ程。後ろの長椅子に座る男性陣は全員黒のスーツ。
女性陣も白と黒以外のドレスを着用し、主役たる新婦よりも目立たない様にと服装や色を選んでいる。
のだが……参加者は全員。何故か黒い布で顔全体を隠し、パッと見では誰が誰だか判別が難しい状態。
「──さん。あなたは──と生涯を共にし、分かち合い、愛し敬い慰め合い、共に歩む事を誓いますか?」
「はい。誓います」
結婚式は順調に進み、誓いの言葉も済む。しかし新郎新婦の名前だけ切り取られた様に聞こえない。
指輪交換時。新郎が捻れた虹色の指輪を、新婦は深緑の蔦に紅いドリアンを模した指輪を差し出す。
普通は新郎、新婦と順番に指輪を交換するが。何故か双方同時に行い始めた時、世界が真っ白に染まる。
目が覚めると白いエレベーターの中で、桔梗に抱えられるエックス。何がなんだか分からず困惑する中。
階層を示すデジタル数字がB2で止まり、卓上ベルを鳴らした音が響くとエレベーターの扉が開き──
薄暗い部屋へ到着。機械が有り、動くのに明かりは蝋燭。部屋には白衣を着た男女一組だけが居た。
「改めて、先行案内ご苦労様。お陰でオーガの襲撃後、迷わずに来れたわ。アイエフ」
「任務完了。確認、マスターに依頼を出した依頼主はあなた方ですか?」
如月は自身の左隣に立つアイエフに向け、目的地たる現在地へ先行して貰えたお陰でトラブル解消後。
道案内を受け迷わず到着出来たと微笑み、感謝を伝える。のだが……アイエフは機械的反応しか返さず。
目の前に立つ一組の男女に向け、依頼主かどうかの有無を尋ねる。普通なら愛想の無い奴、と思うが。
如月は微笑みを崩さず、欠片程の怒りも見せず同じ様に前を向く。すると男が頷き、依頼主と認める。
「えぇ。そして依頼内容に関してですが、この国を──破壊して欲しいのです」
「国の破壊ぃ?アンタ、ウチの馬鹿を便利屋か何かだと思ってない?」
「お、思っておりません!!せめて詳細を……お話だけでも聞いて下さい!」
緊張しているらしく。先の肯定を意味する頷きから少し遅れて声を出し、挨拶も無く依頼内容を語る。
苛立ったのか、腕を胸元で組む桔梗の眉が少し動く。続けて話すこの国の破壊要望を話す内に。
桔梗の表情は苛立ち、右人差し指で何度も左腕を叩き話終えたところで、苛立ちを孕んだ声にて。
自身らを便利屋扱い、もしくはそう言った集団か何かだと思っているのか?と睨み付けて問い掛ければ。
表情と声から怒りを察した瞬間、その場で即座に行われる土下座と謝罪。ただ話だけは聞いて欲しい。
その要望に「どうする?」とエックスに尋ねれば、目を閉じて少し考え……「話だけは聞こう」と返す。
エックスがチラッと女性の方へ視線を向けると、何やら苦し気に咳き込んでいる様子。
何はともあれ。四角形の机を前に双方は向かい合う形で席に着き、暫しの沈黙が場を支配する。
「それで──依頼内容の詳細と言うのは、どんな内容かしら?」
「うっ……これが破壊者の両翼、切り裂きジャックと宵闇の女王が揃った重圧とは」
時は金なり。沈黙の支配を破って如月が口を開き、詳細を尋ねるのだが研究員は三人が揃った存在感。
重圧に気持ちが負けた結果伝えるべき言葉が喉から出ず、代わりに依頼とは全く関係の無い言葉が出る。
破壊者と切り裂きジャックは、他の誰かに呼ばれている二人が自身だと理解するも、宵闇の女王に両翼?
と首を傾げる一行。研究員曰く、闇を操り他の妖怪・妖精を自ら跪かせる人喰い妖怪だと言われ。
全員の視線が桔梗に集まる。更に現在座っている位置──中央がエックス、左側に如月で右側は桔梗。
この位置こそ両翼だと席を立ち、握り拳を作ってまで力説し始めた研究員は我を取り戻し、座り直す。
アイエフは如月の左隣、三人娘は両翼に挟まれた破壊者の座るソファーの裏側で、覗き見ている。
「改めて……皆さんはこの国の事はどれ程知っていらっしゃいますか?」
「貪欲の幹部に奪われた国」
「肯定。現在、我々は鎖国されたこの国に関する最新情報を持っていません」
咳払いを一つし、研究員は一行にこの国の理解度を尋ねる。しかし当然ながら東区へ来たのは今回が初。
如月だけは調査で赴いていたが、その頃から鎖国状態で潜入すら出来ぬ為、奪われる前の情報が限界。
答えても、東区の魔王が貪欲の幹部に負けて国を奪われた位が精々。アイエフも桔梗の言葉に肯定。
すると研究者は「部外者からすればそうですよねぇ」と俯き首を横に振りながら呟き、顔を上げる。
「この国は貪欲の幹部、血の伯爵婦人・カーミラが裏で支配している」
「該当有り。血の伯爵婦人・カーミラは副王ヨグ=ソトースが選んだコーカソイドのヘマトフィリアです」
「こ、こーかそいど?」
「肌の色が薄く、白に近い人種の事だ。全く……白だの黒やら黄色と差別して優劣をつける阿呆共め」
ディクテクターの幹部・カーミラに国を奪われた。ソレは知っていた為、研究員の言葉に驚きは無い。
が──アイエフの補足に驚きを隠せない一同。カーミラの異名が一部漢字の違いを除き、全く同じ。
血の伯爵婦人。副王ヨグ=ソトースがエックスを呼び戻す前に選別し、世界救済へ送り込んだ人物。
白色人種で元々かテラー化を克服した故か、ヘマトフィリアを患ったのだろう。
普段全然聞かぬ、言い慣れぬ言葉に疑問を抱いた桔梗が聞き返せば、エックスが目を閉じたまま答え。
薄く目を開けば、続けて肌の色だけで人種差別する人類に向けて愚痴をこぼし、阿呆共と言い切った。
「確認。カーミラは裏で……と言いましたね?では、表は誰が支配しているのですか?」
「カーミラが気に入り、国王に就かせたホームレスの男だ」
直後。確認とばかりに裏の支配者は理解したが、ならば表の支配者は誰なのか?アイエフが尋ねれば。
カーミラがカーマから国を奪った後に見付け、国王に就かせる程気に入ったホームレスだと話す。
それを聞き、一行はお互いの顔を見合う。理由は勿論、国に関する知識や交易等も知らぬであろう。
そんな輩を国王に?と言う、至極真っ当な疑問と不安。研究員と女性はそう言う反応しますよね……
そう言いたげな不安から力無く俯き、深い溜め息すら聞こえる程。どうやら、苦労している様子。
「それだけじゃないんです。この国は今や、試作X獣無法地帯」
「X獣……イェソドみたいなのがウジャウジャいるって事?」
「マジかよ。てか、よくアンタらは生活出来てるわよね。機械とかも動いてるし」
「……えぇ。今や数が少なくて、希少な──人類なので」
表・裏の支配のみならず、試作型とは言えX獣が国を闊歩する、南区程の安全すらない無法地帯。
イェソドとしかX獣と戦っていない如月、桔梗はそんなレベルのが何体も居るのだと認識するも。
桔梗が現状一番の疑問に気付く。そんな危ない奴らが歩き回る中、よく生活が出来ているな……と。
序でに言えば技術提供なりがあったとしても、一度は戦争で滅びた機械がある上に動くし~と繋げる。
研究員は少しの間沈黙した後。人類は現状数が少なく希少な為、殺されないと顔に汗を浮かべて話す。
「……それで、報酬は?俺達は慈善団体じゃない。報酬次第では帰らせて貰う」
「そ、そうですよね……。とは言え、僕達には破壊者様に出せる報酬が無いんです」
「っ~……アンタねぇ~」
自身らが敵対し倒すべきディクテクターの存在、放置すればテラー粒子とのコンボで増えるだろう恐獣。
それを東区内で数を増やし、外へ解き放てば被害は拡大し最悪、東大陸壊滅の可能性も否定出来ない。
可能なら被害は最小限に。そう考え、依頼を受けた報酬は何か?危険度に見合ったモノなのか。
自身らは慈善団体では無く、依頼には対価となる報酬が無いなら帰らせて貰うと、第三者からすれば。
無慈悲だ!引き受けてやれば良いだろ!と批難したくなる態度・口調で告げる。研究員の顔は青ざめ。
助けを求める依頼を出したは良いが、危険度に釣り合う報酬が無い発言に流石の桔梗も頭を痛め愚痴る。
現在に置き換えれば──我々隣国の代わりに無償で戦争に行って必ず勝ってね!も同然の依頼。
「あの……私が報酬では駄目、ですか?!」
双方空気の悪い中。勇気を振り絞り提案を出すは──研究員の隣でフードを深々と被り顔を隠した女性。
まさかの身売り発言に隣に座っている研究員まで驚き、唖然とする始末。逆に桔梗や如月は呆れ果て。
首を左右に振る。自暴自棄と言えばそこまでだが、逆に言えば人命一つで奪われ魔境と化した国が滅び。
再起の可能性を掴めるとするならば、安過ぎる程。神話や伝承にある人柱と何ら変わらぬと言えばそう。
研究員が「思い直してくれ!」と女性を説得する中、エックスは席を立ち女性の隣へ向かうと……
フードを右手で捲れば、彼女の頭には人外の耳が。猫・犬・狐と言った獣人系列ではない──馬耳。
「……成る程。人類は禁忌を犯し、人である事を棄ててでも生き残りたい訳か」
「はぁ?!どう言う事よ!?」
「説明。人類は動物や幻想種に己の遺伝子を移す手術を施し、新人類へと成る計画を実行中と断定」
女性の馬耳を見て、エックスは人類が禁忌を犯したのだと見抜く。その言葉の意味を理解しても。
頭が理解を拒む桔梗と如月、三人娘は何やら考え込んでいる様子。アイエフから適切な説明を受ける。
人類が幻想種との戦争に負け、人口は大幅に低下。戦争前から少子化問題を『解決せぬ国の政治家』と。
『選り好みが激しく優遇され過ぎた』女性陣だと、現状のままでは衰退の末に絶滅する未来しかない。
どうすればこの人外が闊歩する世界で身体的能力に負けず、人口を増やせるか?と聞かれれば……
身近な動物や虫等の遺伝子と人類の遺伝子を掛け合わせて、強靭で力強い新人類にするしかない。
アイエフの長い説明を聞き、溜め息を吐く両翼。それは人類が隠すオメガファイルにも関わる故に。
「まあ、良いだろう。但し──お前らの子供も報酬に上乗せしろ。それが最低条件だ」
「ッ……分かった。それで……この国が救われるのなら」
席に戻り、己が身を売った女性だけでは釣り合わないから、お前達の子供も報酬に乗せろと言う。
流石にそんな発言をすると思わなかった両翼達は、一斉にエックスへ視線を向けるが……本人は真剣。
嘘ではない、脅しでもない。本気で研究員から女と子供を報酬として自ら差し出させ、受け取る気だと。
彼の虹色の輪を描く眼を見て、本気だと察した研究員は苦しみ、悩み抜いた末──国の救済を選ぶ。
するとエックスは再び席を立ち、研究室らしき現フロアを見て回り始め、三人娘とアイエフも同行。
両翼の二人も女性に慰められる研究員を憐れに思うも、釣り合う報酬も無く依頼を出した愚行を哀れむ。




