仲間
『前回のあらすじ』
四大魔王定例会議を終え、帰還したパイモン。エックス達は深海都市側の要望で新築水族館へ。
護衛兼保護者として参加した桔梗と如月は、世界を覆うテクスチャの理由と星が危機だと話す。
夜の町を歩くパイモンは食欲そそる匂いに誘われリヤカー屋台へ。其処では先客にアイエフの姿が。
パイモンは我が君が傍に居た事、存命であるとしり大満足。アイエフもハスターから話を聞く。
水族館へ訪れた翌日の真夜中、午前十二時。治安の悪い西側港に停泊する大型海賊船が一隻。
様々な魚人達が木箱や樽を船内へと運び込み、商人と思わしきタコが吸盤の付いた脚を巧みに使い。
羽根ペンと書類を持ち、積み荷の点検中。干した肉や果物系、多種多様な武具、綺麗な飲料水、日用品。
地上では入手が比較的容易いモノも、海上だと貴重な生命線。更に言えば、停泊している船は木造船。
下手にを火を使えば船が燃える危険性が高い為、火を使った料理等頻繁に出来ないのが事実。
「積み荷の確認は済みましたわね?」
「烏賊にも。アン・ムピテ様のご指示通り、必要な航海物資は積み込み終えてあり鱒」
「一時間後に出港ですから、貴方達も此処の住民達に見付からない内に撤退しなさいな」
集められた航海物資を積み込みを終え、確認で船上から西側港へ降りては尋ねるアンは樽の前に立つ。
言葉使い、作業自体は丁寧なのにイカだのマス等と、何故かネタを仕込みたがるタコ商人。
だが……ボケる相手がお笑いを知らないお嬢様故、ツッコミも回収もされぬツッコミ不在で進む会話。
出港時間を告げると、それまでに間に撤退作業を終え、住民達に見付からぬ内にずらかる様話す。
するとタコ商人は静かに頷き、魚人作業者達へ撤退準備だと、右手を反時計回りに回し急がす。
「それで……我らが英雄様は?」
「救った国民に殺されない為、既に旅立ちましたわ」
憧れや興味ある有名人に逢える。そんな期待を抱いているのか、タコ商人は笑みを浮かべ。
手──ならぬ触手を揉み合わせ、目の前の海賊・アンに尋ねる。すると彼女は一度目を閉じて薄く開き。
旅立った旨と理由を話す。護り、救った側に殺されたくないと。続けて海賊と言う悪者側たる彼女は。
商人へ背を向け、腰に届くウェーブの長い金髪を見せると……背後からでも見える様に人差し指を立て。
「護り救われ、利益だけを貰う事が当然の権利だと威張り腐る市民や国王を、誰が信用しますか?」
と図星を突けば、商人は眉をひそめると今直ぐ噛み付きたい衝動を抑えるべく、触手を螺旋状に丸める。
「悪故、真に世界を救える。お母様が心より惚れた初恋の方は──そう言う御方ですわ」
刹那。商人の視界は左右に裂け、今度は四分割、八分割。更に体は地に根を張る支えを失ったかの如く。
アンが語る中……気付く。自身の体と触手が一瞬の激痛を感じた後、適当に切断されたのだと。
地に落ちた後、死ぬ前に一矢報いる。そう考えるも触手が動かない。残る意識の中、焦りと謎が湧く。
何故だ?!蛸の神経細胞は約三分の二が足に集中し、脳から独立して動く末梢神経系があるのに!……と。
すると商人の落ちた右目を踏み潰し、振り向くアンの隣へ歩く右手に刀剣の柄を持った白髪少女が一人。
「バイバイ。ボク達や悪党さんを影で裏切っていた──敵さん」
「うふふっ。海月の種類次第ですけれど、刺された患部を真水やお酢で洗うのは逆効果だ……って」
小柄な白髪少女。メアリー・リートは相方のアンが両手で掴み、商人の真上目掛けて放り投げた樽を。
全く距離が届く筈もない、刃も無い刀剣の柄を縦に振ると──樽は空中で真っ二つに裂け、黒い液体が商人の遺体へと降り掛かるソレは。
辺り一面に対し鼻にツンとした刺激臭を広げ、バラバラに裂かれた商人の遺体が痙攣を引き起こす。
苦しむ姿を見て、自身らマリンブルー海賊団の壊滅や裏取引の妨害がバレた理由、その原因こそ。
商人故に警戒が薄い点を利用し、自身らを裏切っていた敵だと言うメアリーの隣で微笑み。
海月に刺された際の応急処置と注意点を、何故か今話す。疑問こそ浮かべど、その謎は直ぐに理解する。
電気の流れる痛みが全身を襲い、暴れたくても体はバラバラ。オマケに触手も痙攣だけでしか動けない。
死神が大鎌を振り上げ、意識を刈る時──柄には海月の毒針を仕込んだ透明な刀身があるのだと知る。
「蛸の酢の物……と言っても、地面に落ちたんじゃ誰も食べないよね」
「お酢塗れでは動物や亜人も食べれませんから、丁度良い私刑方法ですわね」
出来上がった死体を酢の物と呼ぶも、毎日誰かしらが訪れる港に落ちたモノ等汚くて食べれない。
野良犬やカラス等が~と思うが、お酢独特の刺激臭を動物は本能的に好まない為、口を付けない上。
お酢には防腐剤としての効果もある為、他の誰かが気付き処理するまでは腐敗すら許されない。
鼻の良い亜人は寄り付かず、ただただ放置されるだけ。ディクテクターは見捨てた、又は用済みだろう。
軽い気持ちで行った金儲けかも知れないが……死して屍拾う者なし、因果応報当然の報いと結果である。
「あ~ぁ。悪党さん達の見送り、出来なかったなぁ~」
「正義に立ち向かう悪党を英雄と呼ぶ子供達。ふふっ、本当に──『もう一度』逢えて良かったですわね」
「うん。ボク達の逢いたいって願い……届いたね。ねぇ、アン?」
「えぇ、此処からが本番。四年後の聖夜にあの方が死ぬ原因、時の娘・第ニ幕が開けますわ」
透明な刀身の背を肩に乗せ、雲の無い夜空を見上げボヤくメアリー。その顔は不服で納得行ってない。
今回の異変解決の実績と他国メディアによる正体バレ等もあり、子供達は彼を悪党と呼び始めた。
アンの左側積み荷には、翻訳版・ワールドロードと書かれた木箱があり著者は魔皇アザトースではなく。
全く知らない別の誰か。絵柄や表紙も全て違い、写生・著作の一人がロバート・ブレイクとなっている。
それを無視し、もう一度逢えて良かったと言うアンに短く肯定後、相棒の名前を呼び掛けると。
同じ様に肯定。目付きが鋭くなるとエックスが四年後に死ぬ原因、異変がこれから起こると発言。
一方、そんな会話やこれから起きる出来事等知らないエックス達は……馬車の中で座り、揺られていた。
「夜逃げ成功!──にしても、相変わらず厄介なモンね。メディアってのは」
「日銭を稼ぐ為としても、普通プライバシーは犯さないものよ」
大抵の住民が寝付いた頃を見計らい、魔王パイモンの計らいで港町トワイライトから逃げ出した一行。
用意してくれていた馬車に乗り、東区を目指して大きく曲線を描く形で移動中。と言うのも……
本来は東西南北の各国から大体中央にある終始町を経由するか、冒険者等の護衛を複数人連れ。
各国から各々好きに移動するのだが──依頼主より届いた手紙には、現在進行中の謎ルートを経由し。
東区へ来て欲しいと記載されており、よく分からないままその通りに進んでいるのだが……
メディアの愚痴を吐きつつ、一つの毛布に包まれ眠るエックスと三人娘達が起きぬ様、周囲を警戒する。
「これから向かうのは、どんな所なんだ?」
「東区・遊楽帝国。その名の通り多様な民族を受け入れ、遊んでいた国よ」
「アンタが含みのある言い方をし、過去形って事は……」
「えぇ。ディクテクターの幹部・貪欲が一人、カーミラに奪われたわ」
東区へ向かう。それだけは理解しているものの、どう言った場所かは全く知らない桔梗が如月に聞くと。
種別問わず受け入れる国、遊楽帝国だった……と言った時点で桔梗の目は期待を裏切られたかの如く細め。
淡々と言う如月の発言から警戒して尋ねれば、貴女の予想は正解よ。と言わないが、今回の旅で戦う敵。
ディクテクターの幹部・カーミラに国を奪われ、侵入も不可能で国民の安否が確認出来ないと付け足す。
それだけ内外の出入りを厳重に拒む国へどう入国するのか?この道がそうなのか?と頭を悩ます桔梗。
そんな時。急に馬車が止まり、御者の情けない悲鳴が遠ざかり……断末魔へと変わる。
「さて……旦那様達を起こさない様、生ゴミの掃除をしないと」
「この鼻を突く血生臭い──人食い鬼の群れか。面倒な所に来たわね」
盗賊ならば、馬車に乗った利用者を従順でない限りは易々と殺さないだろうと考える如月だが。
人喰い妖怪たる桔梗の鼻が血の臭いが近付くのを察知し、馬車を襲撃したのが人食い鬼の群れと言う。
依頼自体が罠だったのか、又は密入国する為に通らなければ駄目な道だった?そんな疑問が浮かぶも。
現状、此処を切り抜けるしか助かる道はない。腰を上げ、馬車の外へと自ら出て行く二人。
其処に居たのは身長二メートルは優に越す筋肉質の巨体。パッと見、十五体は居るであろう鬼の群れ。
「やはり居たか……女。だがまだ馬車の中にションベン臭いガキが三人居るな?」
オーガ達の狙いは女だった様で、桔梗と如月の全身を舐め回す様に見る辺り、繁殖目的だと察する二人。
匂いを嗅ぎ分け、三人娘の存在すら見抜き言葉にするや否や、周りのオーガ達は歓喜の雄叫びを上げ。
今宵は五人もの雌が手に入ると大喜び。ボス以外のオーガ達が確保せんと馬車へ向かい手を触れる時。
彼らの手が指先から手首まで綺麗にスライスされ、赤い鮮血を噴き出し、歓喜の雄叫びは苦痛の叫びへ。
桔梗はボスオーガの前に立ち、鋭い眼差しで睨み付けるが……ボスオーガは逆に不敵な笑みを浮かべ。
「我々の最たる強みは重鎧と盾を持つヒトを容易く潰す怪力でも、魔法を使う知能でもなく──再生力だ!!」
「あら。スライスしたオーガの手が生えるだなんて」
「はぁ……ッたくよぉ……」
人間・妖怪が鬼たる自身に敵う筈もない。絶対的な確信を胸に、己の最たる強みを力強く吠える。
言葉の通り、苦痛の叫びを上げるオーガ達も不敵に笑った途端、切断面から手が生え大きな馬鹿笑いへ。
馬車の中で眠るエックス達が起きる。深い溜め息の後、面倒クセェ……と言いたげな不服の顔で。
桔梗は横へ伸ばした右手に闇が集い凝縮され、背丈と同じ一本の大剣となれば、右肩へ柄を乗せる。
それが彼女なりの──最後の威嚇であり、警告。それすらもボスオーガは鼻で笑い、一歩前へ踏み出す。
刹那……ボスオーガの視界は三日月の雲一つない月夜を見ていた。しかし、普段見る視界より高さが低い。
「さっさと死んどけ。でないと……アタシら程度の恐怖体験じゃ済まなくなんぞ?」
自身の右隣で屈み、覗き見ては物騒な言葉を吐く桔梗に頭を掴まれ、否応なく周囲を見せられるボス。
視界に映るは──全身をナイフで斬られ、逆さで木に吊るされた挙げ句、首に刺さったナイフから。
地面に置かれたヤギ皮の皮袋に向け、貯水とばかりに行われる血抜き。幾ら再生力が高かろうとも。
所詮は生物、更に言えば『傷を速く治せる程度』。吊るされたオーガ達五体は血相を変えて苦しみ始め。
血を抜かれたまま出血多量で息絶えた。引き抜かれたナイフは刀身の中央に穴があり、血抜き専用。
残る九体はそんな準備・過程・時間がいつあったのか?そう訊きたくなる程鋭く尖った平均的な木へ。
肛門から口へと刺し込まれ、肛門から大量の血を流し、ゆっくりと時間を掛けて殺されて行く同胞達。
圧倒的な絶望を前に、鬼の目にも涙。如月が何処からか拾って来た円形鏡で自身を見たボスオーガは……
「うわぁぁあぁぁ!!──あっ……」
頭と抜き取られた脊髄しか残っておらず、胴体は大剣で地面へ縫い付けられ、ボスの風格等微塵も無い。
断末魔の絶叫を叫んだ後、ショック死と出血多量で事切れた。頭を掴んでいた桔梗は手に闇を集結させ。
文字通りの消滅。処刑されたオーガ達の遺体も全て桔梗の操る闇が消し去り、惨劇の証拠は血痕だけ。
そう……これが破壊者の仲間。人殺しや殺害に心を痛める事もなく、病みすらしない心強い味方。
オーガに食われた御者の代わりを桔梗が務め、如月は馬車の中で外への警戒を続け、交代し繰り返す。




