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ワールドロード・sin again  作者: オメガ
序章・ Jacta alea est
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時の娘/我が君

 『前回のあらすじ』

 西の魔王・琴音は南区で起こった状況、事件等の報告を受けるべく四大魔王を定例会議に召集。

 パイモンはエックスの事を伏せつつ話すも、大半は視ていた様で、鋭く指摘を東と南の魔王へ出す。

 ディクテクターの方でも会議を行っており、任務失敗の原因たるエックスに対し、苛立ちを見せる。

 今回は珍しくカーミラ、コレクターも参加。各々エックスに興味が湧いたらしく、妨害競争に。



 四大魔王の定例会議が終わり、パイモン・ラースが帰還した翌日、復興途中の港町トワイライト。

 深海都市アトランティスの事前提案もあって、水族館を建設。オープンして数日経ってなお、大人気。

 ユイ達三人娘のお願いに加え、深海都市側のトップがエックスとの会話を求め、シークレットルームへ。

 招待状と入場チケットが六枚。茶封筒に入れて送られて来た為、保護者に桔梗と如月も参加して貰い。

 水族館・メモリアへ来場。密会の時間まで館内の水槽を見て回る子供達は、笑顔で興味津々。


「……やっぱり、良いもんだな。平和な世の中を子供が笑顔で走り回る姿ってのは」


「そうね。私達が命を蹂躙する側……と言う点を除けば」


 元気一杯にエックスの手を引き、笑顔で連れ回すユイ達を見て──人喰い妖怪の桔梗がポツリと呟き。

 右隣で同じ光景を見る切り裂きジャックの如月は肯定直後、自身らは命を蹂躙する側故に場違い。

 平和を取り戻した世に、命を脅かす者が居て良い筈が無い。後ろめたさ、後ろ暗さに表情が曇る。

 未来を切り開き、脅威を払う者と言えば耳触りは良い。が……それは戦争中等の危機的状況下での評価。

 戦争や脅威が失くなり、終われば殺人者や平穏を脅かす不安要素、癌細胞や膿の様に意味嫌われるだけ。

 現にエックスは大戦中ですらエルフから石を投げられ、国民に取引材料として敵に売られそうになった。

 だからこそ、この場に自分達が居ても良いのか?護った存在に背中を討たれる不安が、如月の心を乱す。

 するとエックスはユイ達三人娘にゴメン!とジェスチャーをし、振り返るや否や如月の背後へ駆け寄る。


「な──!?」


「アンタねぇ……あの馬鹿が『そう言うの』に敏感だって事忘れたの?」


 突然右肩を叩かれ、振り向くと。左手を如月の左肩へ回し、焦げ茶色のクロークで互いの顔を隠せば。

 簡易的カーテンの内側で彼女の唇を奪い、微笑みながら離れてユイ達の元へ駆け足で戻って行く。

 唐突な口付けに思考と理解が追い付かず、頬をほんのり赤く染めたまま棒立ちする如月の隣にて。

 呆れた様子の桔梗が恨めしげに言う。エックスは絆を紡いだ仲間の不安や恐怖を敏感に感じ取り。

 拭う為に行動するのを忘れたの?ジト目で問い掛ける桔梗は、右手で唇に触れ、隠す如月を横目に見る。

 チラッと視線を前方のエックス達へ向ければ、視線を感知したのか体を捻り、右手を小さく振る姿が。


「っ!!……如月。夜逃げ逃亡生活へ移る前に、あの馬鹿を搾るわよ」


「つまみ食いされてなお、私達が逆に喰い尽くされる未来しか見えないのだけど…」


「……私達であの馬鹿を支えるって事」


「それは勿論、お嬢様の命令抜きでもするつもり。じゃないと彼──本当の意味で破壊者になってしまう」


 その行動から見透かされていると悟り、胸元で腕を組み頬を赤らめ、そっぽを向いた桔梗だが……

 直ぐ顔を染める熱は冷め、表情も照れ隠しに怒った顔から寂しそうな表情へ変わり、如月へ話し掛け。

 面倒事が起こるよりも早く、住民達へ気付かれぬ様南区から逃げる前に、逆夜這いの共同を提案。

 対する如月は彼がつまみ食いをされても、二人じゃ絶対に勝てない。逆に喰い尽くされると返す。

 桔梗は直ぐ返答せず、目を閉じて何かを決心し……自身らでエックスを支える旨を確認含めて言えば。

 主君の命が無くとも支えると言い返す。のだが続く言葉を吐く表情は暗く、寂しさと悲しさが声に出る。


「それにこの世界……テクスチャを何重にも貼り付けてる」


「そりゃそうでしょ。滅んだ星を生き返させる為、幻想で全てを覆い隠す蘇生行為中なんだし」


「そうね。住民達や民家も大半が幻想。彼の眼に……映って無いんでしょうね。此処の入館者達の大半が」


 如月は辺りの獣人や魚類人達、ガラス越しに海に住む生物達、建物内をも見渡しながらボヤく。

 だがそれは人類対幻想種戦争で人類が使った、今や宇宙を漂う太陽光発電式衛星兵器・マスドライバー。

 地殻破壊爆弾Z・(ゾーン)三七五(さんななご)六四(ろくよん)式の影響を受け、死に瀕した母星を蘇生させる為の幻想テクスチャだと。

 知る者ぞ知る情報を桔梗が吐き、その秘密を知る如月はエックスの眼に、他者が視る存在の大半が。

 見えない・もしくは存在しないと見抜き、世界の無残な姿を現実として突き付けてくる。それは──

 全く一緒のモノを見ても、意見・感想が異なる芸術品も同然。偽物と本物を見破れるか否かの違い。

 実際エックスの眼には水族館が存在せず、ユイ達に手を引かれ、平らな空き地を歩いているに過ぎない。

 当然だろう。たった数日程度で鯨を含む大量の水中・深海生物を受け入れ、運営する等無理な話だ。


「そういやぁ、名無しの娘らに付けた名前、なんだっけ?」


「私達の旦那様を撃った藍色髪と眼を持つ娘が古賀瑠花(こがるか)。猫娘は猫紙皐月(ねこがみさつき)


「そう。まあ遅かれ早かれ、私達家族の一員になるんだけだろうけど」


 三人娘に手を引かれ、小走りで追い掛けるエックスを後ろから眺めつつ両手を後頭部に当て、歩く二人。

 ユイを除く名無し孤児の二人に、彼が名付けた名前は何だったか?隣を歩く如月に聞けば。

 覚え易い様に特徴と名前を紐付け、教えるも桔梗の返答はアッサリ気味だが、結局家族の一員になる。

 そんな確信を胸に秘めて少しだけ微笑み、自身らに娘・息子が産まれればきっと、今みたいな光景が。

 もしくは幻想の地でよくあるドタバタ展開の中で繰り広げられ、楽しくも騒がしい未来になるのだろう。

 だからこそ、ディクテクターやインベーダーの脅威を取り除く必要を再確認後、何故か表情が強張る。


(真実は時の娘……時を越えて来た三人娘も私の警戒対象。百鬼夜行追放も覚悟の上ってね)


 世界に施された謎・テクスチャは暴いた。カナズチのエックスが偶然黒竜娘ユウキに海へ落とされた時。

 溺れなかった理由、連れられて港町トワイライトへ到着時、壁にめり込んだにも関わらず。

 受けた痛み、水濡れも消えたのは『偽物』だったが故。では、エックスは最初から偽物だと気付いてた?

 と言われれば、答えはNO。ならいつ気付いたか?ワールドダブルロードへと融合変身した時から。

 現・旧の王冠所有者がワールドロードだった条件も、見抜ける様になった理由の一つである。

 だがしかし……それは孤独への片道切符でもある。同じ光景を見ても、彼に見えるのは真実の姿だけ。

 人喰い妖怪故に孤独の苦しみを知る桔梗は考える。三人娘は何処かの勢力が送り込んだスパイ(特殊工作員)かも?

 多分彼に言えば自身は三人娘の策略で引き離され、追放を受ける可能性も覚悟の上で警戒を行う。


「はぁ……嫌われ役を買って出るのも楽じゃないわ」


「それを私達の旦那様は超古代の時代以前から人類相手に続けて来た。それに──」


「私達とあの馬鹿は、お互いに嫌われ役をやってる。でしょ?分かってる。殺し合った仲だもの」


 大抵が嫌がる嫌われ役を自ら進んで行うのに思わず嫌気が差し、溜め息と愚痴が漏れ出る桔梗だが。

 いつの間にか立ち止まっており、迎えに来た如月から独り言に対する返答をされ、少し表情が和らぐ。

 続くであろう言葉を先に言い、歩き出して立ち止まった彼女を追い抜けば──左手を小さく上げ。

 理解済みの旨を伝え、自身はエックスと殺し合い殺された経験があると、遠回しな自慢をする桔梗。

 その日の夜。港町トワイライトの見回り中、パイモンは不思議な香りに出逢い、誘われ。

 歩く内に匂いの発生源に辿り着くのだが、其処は人類が大幅に減った今や存在しないリヤカー(人力で引く車)屋台。


「貴女は……パイモン・ラース。あぁ、この時代で行われた四大魔王定例会議から帰還した直後でしたか」


「そう言うアンタは──誰だ?」


 長方形の長椅子に座り、黄色い暖簾に白く長い髪の後頭部が隠れ、顔の見えない人物が振り返る。

 黒と赤を基準にした学生制服、赤い瞳のツリ目、色白の肌。茶色いブーツを履いた少女、アイエフ。

 彼女はパイモンを見てから記憶を探り、定例会議が終わり帰って来たのだと判断した内容を口に出す。

 対するパイモンもアイエフの名前を出そうとするも全く知らないし、ラルヴァ・リンクス戦でも。

 チラッとバイク形態を見ただけな為、人間形態は初見も初見。初遭遇故に誰か?と改めて訊く。


「型式番号8ΩZ-X10A。機体名einst(昔の)Future(未来)、略称アイエフ。マスター専用の忠実なる乗り物です」


「……ん?乗り物?」


 質問に対し、自身の型式番号から機体名と略称、どう言う存在で立ち位置かまで話してくれたのだが……

 如何せん。パイモンが求めていない不必要な情報量が多く、聞き流した上聞き慣れない単語があり。

 理解が遅れた為か、思わず言葉の意味を求めて聞き返す。前半の情報は無くても良いが、最後の言葉。

 マスター専用の──まあ、主人が誰かは何故か容易に大体予想がつくから別に良い。問題はその後。

 忠実なる乗り物。自己紹介で一生に一度でも、聞く方が珍しい返答がパイモンの理解を面倒臭くする。


「ヘイお待ち!」


「感謝。この体を得てから、試してみたかった。何故人類は体に悪い料理を好み、食べ続けるのかを」


「……この匂い。ラーメンか?」


 知らない男性のイケボが聞こえ、差し出されるは湯気と食欲誘う匂いを漂わす白い丼器が一つ。

 感謝を伝えたアイエフは、人類が何故体に悪いと知りつつ好み、食べ続ける食事に興味があったと話す。

 確かに一日の塩分量だのを考えて食事をすれば、体は健康になる。精神的にはストレス増加だろうが。

 漂う匂いから自身が誘われ、今正に自然と席へ着く程の匂いの正体がラーメンだと理解するパイモン。

 隣では何故か割り箸を縦半分に割らず、握って食べようとするアイエフが掬えず掴めず、悪戦苦闘中。


「ご注文は?」


「なら……この邪神麺(ジャーシンメン)の醤油味を一つ」


「あいよ。醤油ジャーメン一丁──ヘイお待ち!」


 店主は黄色いローブを着て、フードを深々と被り顔が見えない。それでも彼女へ注文を聞き、答えれば。

 ものの数秒で注文の品が目の前に出され内心早い。とツッコミを入れつつ割り箸を手に取って割り。

 食べれば予想以上に旨い。アイエフもパイモンの行動を真似、漸くラーメンを口に頬張り歓喜の表情。

 食べる箸は止まらず、気付けば完食。お代わりが欲しいが……此処は我慢だ!と苦しい顔で決意。


「理解。これが背徳感──罪の味。成る程、確かに一食にしては塩分量が過剰過ぎます」


「良薬口に苦し、然れど毒薬口に旨し。オレも余り食べ過ぎは……ん?」


 深夜に食べる背徳飯。まだ深夜ではないものの、罪の味を理解したアイエフは、一食の塩分量に注目。

 パイモンもいつの世も良薬は口に苦く、体に悪いモノは旨い。幾ら悪魔とは言え食べ過ぎは~と続く中。

 精神的疲労が抜け、気分が晴れやかになっている点に気付く。何事かと思い店主へ視線を向けると。

 追加の一杯──ではなく、薄っぺらい映像端末を彼女の前へ置き、画面をタップしてホログラムを再生。

 映し出された映像は前大戦のモノで、エックスが他の者達には見えないルシファー達と会話しており。

 大太刀使いの女剣士相手にルシファーへと姿を変えるや否や。手を変え品を変え、臨機応変に挑む姿。


「魔王パイモン・ラース。汝が再会を求める相手は既に、青い鳥の話が如く直ぐ傍に居た」


「ハハ……そうか。契約の糸が結べなかったのは既に契約が達成されて、幻影も──」


 種明かしとばかりに店主から教えられ、青い鳥の話さながら我が君(ルシファー)は近くに居たのだと言われ。

 乾いた笑いの後、不可解に思っていた謎が解ける。契約内容が既に達成済みであれば、結べる筈が無い。

 エックスと重ねて見えた幻影も、ある意味ご本人。見破れぬ、理解出来なかった己の未熟さを悔やむ。

 けど──それ以上に嬉しかった。我が君が存命で、魔神王や調律者姉妹、異形の悪夢達の計画から。

 自分達悪魔を含む大切な存在・概念を護る為、人間と悪魔契約して戦っていたと言う事実に涙を溢す。


「警告。悪魔王ルシファーを含む計七名は魔神王を倒し救う為、マスターと完全融合済み」


「それでも……構わねぇ。我が君が存命である以上、オレ達はあの方に仕えるだけ。大将、ご馳走さん!」


 アイエフはもうルシファー本人には逢えない。そう警告するも、我が君が王と認め、融合した相手なら。

 自身ら配下はあの方(エックス)に仕えるだけだと力強く断言後、丸い金貨を一枚テーブルに置き。

 ご馳走さんと言って席を立ち、その場を立ち去って行く後ろ姿を見送る二人。すると──

 アイエフも席を立ち、店主へ深々とお辞儀をする。その光景は店と客の関係で行うモノではない。

 美味しい拉麺を提供してくれた敬意も当然あれど、そうじゃない。それこそ上司と部下の様にも見える。


「此度は急な申請に迅速な対応をして頂けた事、誠に感謝致します。黄衣の王、ハスター様」


「これ位構わん。それに──我が好敵手に恩を売れば、再戦の機会も恵まれよう」


 当日の急な頼みだったのだろう。謝罪の言葉には感謝も込められており、店主をクトゥルフ神話の神性。

 黄衣(おうい)の王・ハスターと呼ぶ。ハスターは星間を飛び交う風の神々の首領で、ヨグ=ソトースの子。

 急な申し出にも即対応してみせたのは、自身が気に入った好敵手との再戦、その切っ掛けが欲しいが為。

 好敵手とハスター自身の勝負が記された原本・無限郷は歴史の闇に葬られ、他に記録が無く写本も不能。

 それ故、闇に葬られた血湧き肉躍るあの記録・死合いをもう一度楽しみ、歴史に刻むが為の恩売り。


「疑問。ハスター様、何故他の皆さんはマスターを名前で呼ばれないのでしょうか?」


「至極当然かつ単純な話。アイエフ、汝は『何億もの魂が混ざった』人間の名を呼べるか?」


「……納得。呼べません。成る程、故に終焉と再生の意味を込め──オメガゼロと呼ぶのですね」


 立ち去る前に一つ、素朴な疑問を尋ねる。エックスが再び此方へ来てから極一部を除き。

 何故彼の名前を呼ばないのかと。それに対しハスターは理由は単純だと言い、一つの例を出す。

 人間とは一個人に対し、名付け親から名前を与えられる。だが……オメガゼロはそれに該当しない。

 個人名ではなく総称。人類で言えばオメガゼロがチーム名、続くエックスはジャンル名となる。

 更に言えば、エックスは自身の個人名を覚えていない。紅貴紀も何億の魂が持っていた名前から。

 糸を縫う様に作った名前。敢えてオメガゼロに共通の名前を付けるなら……ラピエサージュ(継ぎ接ぎ)

 納得したアイエフは再び礼儀正しくお辞儀をし、エックス達と合流すべく足早に立ち去る。


「さあ行くが良い、我が好敵手の下へ。悪夢・地獄・魔境を越え、再び相見えようぞ!!ハハハハハッ!」


 歴史は罪と罰を引き連れ何度も繰り返す。人が人を赦さない様に、命が命を喰らって生き長らえる様に。

 求めるは過去の再現では無い。数多くの苦難を乗り越え、更に成長し強くなったエックスとの再戦。

 その為ならば幾らでも塩を送り、触手も出そう。現代人風に言えば、過去にやり尽くしたソフトより。

 新たな要素を抱え、好奇心くすぐる新作ソフトを求めるもの。ただ神作か凡作、クソゲーかは現状不明。

 でも待つ時間こそ一番の楽しみ。笑うハスターの周囲では風が舞い、電灯や廃墟さえ容易に切り裂く。



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