魔王と貪欲
『前回のあらすじ』
エックスを救う為、ダメージの軽いベーゼレブルが飛び込む時──陸海空、六つの反応に気付く。
海中から助け一週間後。漸く目を覚ますエックスは、ベーゼレブルから昏睡中の出来事を聞き。
無理の弊害で声が出ない。タブレット端末が自動的に点き、ミニサクヤとヨグ=ソトースが現れ。
届いた依頼書を目安に三人娘を現状唯一頼れる親友に託し、次は東区へ向かうと心に決める。
数日後。東西南北にある各国から大体中心地に存在し、四つの国が建国されるより前からある終始町へ。
各地の魔王が各々の状況と解決案を話し合う場、四大魔王定例会議を開催すべく会場へと集う魔王達。
但し魔王が集う会議場とは言え、その外見は和風一軒家そのもの。内装も和式で、材質は木製かつ。
各部屋には畳が敷かれ、扉は全て障子を張った襖。先に到着した西の魔王・琴音は赤い座布団に座り。
他の面々を正座で待つ、長い紫の髪を後頭部で括り、白い布包みで団子に纏め赤色の着物を着ている。
遅れて銀髪セミロングで耳が横に長く、靴は焦げ茶色のアンクルブーツ、下は黒い袴ズボンの右脚に。
黄色い狐、左脚へ緑の蛇。白装束の右腕袖に青い狼、左腕袖に赤い龍を描いた巫女風衣装の北の魔王。
「それで……本当なの?例の話」
「えぇ。アタシ──ん?あぁ、到着したか」
続けて黒と薄紫の、股さえ隠さない程に短いミニスカから飛び出す、細長く先端がスペード型の尻尾。
露出度の高いボンテージ衣装、薄桃色の髪はサイドポニー、上向きに捻れた淫魔の象徴たる双角。
幼女体型に宿る緋色の瞳は妖艶さを孕み、紫のハイヒールを履くは色欲を司る東の魔王カーマ・ラスト。
短い金髪碧眼に濃紺のデニムジャケット、右脚側だけが長く破けたダメージ版ローライズデニム。
開いたジャケットの内には白いノースリーブシャツが見える、南区の支配者たる魔王パイモン・ラース。
四大魔王が各々席に着くも、衣装も然る事ながら座り方も各人各様。琴音は相変わらず正座。
北の魔王が正座から足を一方に崩した横座り、カーマは両足を広げて机の下へ伸ばした座り方。
パイモンだけは片方の膝を立て、もう片方の後ろ足を横に倒して開いて座り、いつでも立てる姿勢に。
「早速本題に入る。パイモン・ラース、今回起きた南区港町トワイライトの被害は何?」
「……ディクテクターの連中が恐獣やらウチを潰す爆弾を使いやがったンだよ」
「成る程。確かに以前以降の定例会議で奴らの件は聞いてる」
四人が座る位置は東西南北。各々が受け持つ方角どあり、襖は部屋が隅の為、南と東側の二ヶ所にある。
腹を探り合うのが嫌いなのか。琴音は単刀直入に切り出し、パイモンに対し今回の被害理由を訊く。
何をどう伝えるか、少し黙り考えるも当然起きた出来事を伝えるしかないが……敢えてあの名を伏せる。
人身売買の阻止、ディクテクターの配下やイェソドを撃破に貢献したエックス、ベーゼレブルの名を。
その上で恐獣の出現や南区全てを巻き込む爆弾の爆発を、ディクテクターの仕業と話し伝えれば。
ずっと前から被害報告を出していた為、琴音は特に疑う様子も無く話を進め、ホッとするパイモン。
「ただ報告は簡潔的かつ具体的に。アタシが何も知らないとでも思った?」
「──!!」
「カーマ含め、地獄での一件と報告不足は見逃した。けど、今回は見逃さない」
(うっげぇ~……噂に聞く西の魔王が持つ千里眼ってヤツぅ?何処までバレてんだか)
しかし──琴音は正論と事実で詰め寄る。普段は見せぬ怒りを孕む物言いに、パイモンは思わず後退る。
更には地獄での抗争は見逃したが今回は見逃さないと目を見据えて言い、不足した説明内容を求め。
気付けばパイモンを縛る、青白く光る光輪に身動きを封じられ、力で強引に引き千切ろうとすれば。
西遊記の孫悟空が頭に付ける緊箍児とは部位こそ違えど、強く締め付けて彼女を苦しめる。
琴音の発言と行動に自身も同じ目になるかも~……とドン引き、風の噂に聞く能力を宿した魔眼が一つ。
千里を見通す眼なのか?そんな疑問が浮かぶも同時に、何処まで知ってて答え合わせをしているのか?
カーマは苦痛の余り横に倒れ、苦しむパイモンを見下ろしながら思考を巡らす。全てを言うべきかと。
「ハ~イ、ちょっちシッツモ~ン!西の魔王は南区とか地獄での事は何処まで把握してるのかな~って」
「……全部とは言わない。それでも、大体は知ってる。貴女が放置している問題の数々と国民の苦情も」
(コレ結構ガチじゃん。カーマ達が放置してる問題や苦情までとか!)
座ったまま右手を真っ直ぐ挙手。質問を投げ掛けるも、南区や地獄での出来事は当然ながら。
自身が受け持つ東区の問題や苦情まで知っている辺り、カーマは自身とパイモンが目をつけられており。
下手に嘘でも吐けば、目下で痛みに苦しむ彼女と同じ。もしくはよりキツイ罰を受けると理解し。
此処は正直に、然れど曖昧で通せる部分は押し通そうと考え、自身に取っての最適解を出そう身構える。
その時。突然南側の襖が勢い良く開いた先で黒い修道服を着、身の丈以上もある棺桶を担ぐ女性の姿が。
「ぐぇっ!?」
「どうも。砂利ン・子知恵、ホルモン焼きの出前に来ました」
定例会議中だと言うのに全く悪びれず、オマケに倒れていたとは言え魔王パイモンの右脇腹を。
知ってか知らずか右足で踏み、出前を渡しに来たと発言しながら東側の襖前へ移動するや否や。
棺桶を寝かせて蓋を開けば、中からは温かな湯気を立ち上らせ、会議場にそぐわぬ臭いを撒き散らす。
誰が出前を注文した?カーマと体を起こしたパイモンがお互いや残る二人へ疑いの視線を向けると。
琴音達二人は各々臭いが衣服につかぬ様、障壁や結界で外部と遮断済みで知らぬ存ぜぬ我関せずの姿勢。
「全く──魔王とは名ばかりの無能が二人も混じってるみたいね」
「……お久しゅうございます。元オラシオンのメイド長・アイ」
琴音達は障壁や結界を張ったまま後退し、二人横一列に並べば深々と頭を垂れ、愚痴る修道女へ土下座。
続けて再会の挨拶、相手が誰かを残る二人にも分かる様言葉にして話す。一番最初に反応したのは……
弱肉強食を担当区域に導入したパイモン、少し遅れてカーマもオラシオンの名と役職に気付き土下座。
特に無能発言に心当たりのあるパイモン、カーマの二人は与えられるであろう罰に震えて動けない。
琴音はオラシオンで働いてた頃、否が応でも力関係が身に染みているのもあり、震えた様子はない。
「す、すすスミマセン!!東区は現在、X獣巣窟が出来てまして……」
「それを潰すなり対象し、残り少ない人類を保護するのが貴女達の仕事でしょ?」
「そ、れはそうですがぁ……『ディクテクター製』じゃなくてぇ……」
カーマは土下座の体勢を維持した状態で後退。頭を下げたまま、東区がX獣達が自身らの巣を作ったと。
担当地区の問題を話す。のだが……それを対象したり、残り少ない人類の維持が魔王の仕事だと突き放す。
それはそうと出された指摘を呑むも、不穏なワードを吐くカーマに思わず顔を上げ、視線を向ける三人。
恐獣やX獣はディクテクターが、知的生命体の恐怖から生み出す。にも関わらず、奴ら製ではない発言。
カーマの目は泳ぎ、徐々に。然れど確実に迫る圧倒的恐怖と威圧感で言葉は言い淀み、正直に吐けない。
同時刻、ディクテクター側も会議をしていた。話の内容は勿論、南区の制圧・恐怖に落とす行為の失敗。
「クソクソクソクソクソクソ──クッ……ソォォォ!!何がワールドダブルロードだ!チートだチートォォ!!!」
相も変わらず貪欲の面々は集まりが悪く、今回出席しているのは総帥のゼノ・クライム。
貪欲からは作戦実行者のテラー、珍しく出席したカーミラの二名。用心棒組は今回の会議を欠席。
作戦失敗に終わらず、仕向けた恐獣・X獣の全滅。人類で言えば不具合報告の放置から来る巨額の罰金。
更には理不尽な領域にまで届き、格の違いとばかりに見せられたワールドダブルロードの力と姿。
だからこそズル・イカサマ・不正行為と罵倒する能力に、クソッタレが!と何度も叫び罵るテラー。
「だよね~。あんな次元が違う力の差を見せ付けられたら、そうも言いたくなる気持ちは分かるよ」
「あら、久し振り。此処へ来るのは十何年振りじゃない?」
「そうだっけ?まあ、此処は生理的に無理だからさ。あんまり来たくないんだよなぁ~」
罵り吠える中。暗闇から肯定する声が聞こえ、振り向いた先には──全身が黒い鱗に隙間無く覆われ。
手足の指先が鋭利に尖り、黒く真っ直ぐ伸びた髪を円卓にある自身の席へと歩み寄る度に靡かせ。
席に着くや否や、竜の顔に似せた頭を覆う仮面は主の意思に従い、顔の部分が見える様に左右へ移動。
ツリ目に宿る瑠璃色の瞳、まだ幼さが残る顔。それに反比例して大きく逞しい翼、肉厚な尻尾を持つ。
事前連絡無し故不参加と思われていた相手が遅れて到着し、席に着く姿を見て口角がやや上がるゼノ。
桃色の雫と浴槽を描いたモノリスが横一回転すると──赤い肩紐ワンピを着こなし、椅子の背凭れに身を預け細長い足を組む女性が。
遅刻者に対し久し振りに逢った、会議室へ来て参加するのも十何年振りだと、余り来ないのを言うも。
当人は時間感覚が他と違うのか聞き返し、本拠地が生理的に無理と余り戻って来ない理由を吐露。
「けどまあ。次は君の方へ行くんじゃない?カーミラ」
「チチチッ。その時は……東の魔王から奪い、底知れぬ貪欲に狂ったアタクシの国が歓迎致しますわ」
「君が作り替えた国、ボク個人としては好きじゃないなぁ。自由とは名ばかりの身勝手な終わり方だし」
「でしょうね。だって奪ったあの国はもう、アタクシを楽しませる為だけ玩具ですもの」
次はカーミラの担当地区じゃないか?と聞けば、薄暗い闇に隠れる上半身を起こし──独特な笑い方。
続けて東の魔王カーマから奪い、作り替えた国で歓迎すると発言。二人の会話を左頬杖をつき。
黙って聞くテラーは右人差し指で机を小突き、苛立ちを示すのだが……誰も気にせず反応もしない。
遅刻者がカーミラの奪い、作り替えた国を個人的には嫌いだと遠回しに言い、終わり方にも言及。
しかしそれは全て、自身を楽しませる為だけの決められた物語。だからそれで良いのだと微笑む。
「ククッ。アレは俺の獲物だ。テメェらにはくれてやらねぇ!」
「あらあら。任務失敗した貴方が執着する程の御方だなんて……どんな血で味なのか、気になるじゃない」
「駄目だよ?彼は黒龍族の生き残りたるこのボク、ユウキがコレクターとして手に入れるお宝なんだから」
右手で顔を覆い、二人を馬鹿な奴等だと罵る不気味な笑みを浮かべ、エックスは自身の獲物だと断言。
しかし彼が任務失敗した事実を突き付け、その上で恐怖が執着する相手とはどんな血と味を持つのか?
興味を引かれ、左手中指で机の下に隠れた自身の陰部をなぞり、右手で豊満な胸を揉みしだくカーミラ。
互いに主張を行う二人に対し、エックスは貪欲のコレクターたる、自身が手に入れるお宝だから。
君達は彼に手を出すな!遠回しに言うも、彼ら彼女らは貪欲。満足しない欲望に静止を促そうと。
止まる筈がない。故に理解している。これは──貪欲内で始まった、早い者勝ち勝負。
当然用心棒組が彼を狙っているのも知っている。だからこそ燃える、飢えて歯止めを失った渇望が。
互いの妨害を乗り越え、異常な量の達成感を心に得る為の香辛料、障害物競走なのだと。




