二面性
『前回のあらすじ』
針が壊れたのか、回り続ける時計と捲れ続くカレンダー。其処へ駆け付け、現れる魔王パイモン。
イェソドと戦う二人の前に、エックスの帰還を狙い幻想の地へ仕掛けて来たリンクスが現れる。
リンクスの正体は前大戦で魔神王の精神を乗っ取り、融合による世界統一平和計画を狙った黒幕。
桔梗と如月はエックスへ信号を送るも、反転したイェソド改めアィーアツブスの前に倒れ伏す。
桔梗と如月が発した閃光改め信号は、基軸世界を越えただ一人の為だけに発信されていた。
時に強く、時に弱々しい。心音の波形にも似つつ、暗闇の中で此方だと伝え光る灯台の役割を果たす。
その意味を察したリンクスとアィーアツブスにより、発信者の二人は猛攻を受け、意識を失い地に伏す。
南の魔王や破壊者の協力者二名も倒した。残るはある事情から本気を出せない元宿主のみ。
浮かんでいた空中から地に降り、無様な姿を晒す一行に思わず笑みが浮かぶ。一番の邪魔者は幽閉した。
「ククッ。女共は凌辱の限りを尽くして心をへし折り、視認し易い様に切断してやろう」
(コイツ……ッ!!)
仮に破壊者が帰還するとしても、大切な家族や仲間を見るも無惨な姿になった姿を見せれば戦意を失う。
ならばどうすれば戦意を失う程、絶望させる事が出来るか?心が壊れるまで、徹底的に性を叩き込む。
敵から受ける屈辱は肉体的・精神的苦痛が他とはベクトルが違う。故に、愛する者を穢し切り刻む。
それがラルヴァ・リンクスの、破壊者に対する復讐でもあった。最強級の肉体・魔神王から剥がされ。
此方側への帰還直後。取り戻した力が馴染む前の襲撃を計画するも、逆転されまた肉体を失う始末。
破壊者からすれば、降り掛かる火の粉を払ってるに過ぎない。あくまで『自身にだけ』……ならば。
親友たるベーゼレブルは敢えて何度もその過ちを犯し、魔神王としての自身を彼に倒させる様。
成長させて続けたからこそ理解する。それこそ『逆鱗』に触れ、不思議な現象を引き起こす引き金。
「先ずはこの金髪から──ッ!?」
倒れ伏す桔梗に歩み寄り、右手で長い金髪を掴もうとした瞬間……左頬に右脚の跳び回し蹴りが炸裂。
もう破壊者が戻って来たのか?!と疑うも、蹴りの威力が想定より低くとも、踏み止まれど押し込まれる。
蹴られた顔を相手に向け、確認すれば口と腹から血を流すパイモンが跳び回し蹴りを繰り出した姿。
勝てる。まだ破壊者は幽閉されたままだ。今の内に出来うる限りの惨状を、絶望を作り出せる……と。
ラルヴァ・リンクスが思考し、今度は右手の五指をパイモンへ向け、黒い弾を撃ち出そうとした直後──
右手に重力落下と重量が襲い、引っ張られる形で右手が地に着くとリンクスの両膝も地に着く。
「……」
『装着者の殺意、オーバーフロー。赤い靴システム──起動』
「……マジか──!?!?」
膝を着いたリンクスの右手に乗るは……テラーの仮面を被った破壊者。七つの眼は四方八方を見渡し。
内四つの眼は腹部を負傷し、出血が止まらないパイモン。親友たるベーゼレブル、愛する桔梗と如月を。
残る三つの眼はエックスを右手から退かす為、殴り引っ張るリンクスや棒立ちするアィーアツブスへ。
傷付き、倒れ、膝を着く者達を眺め、現状を把握。燃える七眼から一斉に視線を向けられる二名。
余りにも速い帰還に言葉を失う程驚き、漸く言葉を口にした途端──腹部に鋭い痛みが走り更に驚く。
前回同様全身フル装甲。顔も口も全く見えないのに、エックスはリンクスの手から退くと同時に。
顎へと右足を叩き込み仰け反った時……装甲で見えず腹部にある鋭く尖った牙が並ぶ口目掛けて正確に。
右手刀を打ち込めば牙を貫き舌を掴めば、力任せに無理矢理引き千切り、後ろへ投げ捨てる。
(何故だ!!乗用車に踏まれても耐える世界最強の昆虫装甲なのに……コイツ!)
「仮面で素顔は見えないが……あぁ。容赦無しのマジギレ状態か、我が友よ」
続けて左手に六つの緋色に光る光球を作ると、腹部にある大きく裂けた口へ無理矢理突っ込めば。
両手で口の上下を掴み、強引に閉ざす。するとリンクスの口内で連鎖爆発が起き、灰色の煙が上る。
ただ無表情に、緑色の返り血を顔に浴びようと何も言わず、撲殺と言う作業を実行し続けるエックス。
文字通り舌を抜かれ、マトモに喋る事すら赦されず、今回装甲にと選んだ世界最強の外骨格を持つ昆虫。
コブゴミムシダマシ──接合部の断面がパズルのピースのように二対の凹凸構造でかみ合った特殊構造。
だが……『弱点』はある。ベーゼレブルはその弱点を無口・無表情で突く親友が本気で怒っていると悟る。
(舌を抜けば指示は出来ない?残念、思念波で可能だ!不安定の権能を使え、アィーアツブス!!)
「キィアァァァッ!!!」
「ンだよ……これ。意識が、揺れてッ…」
顔面に拳を繰り出そうと引き絞るエックスを前に、思念波で反転したイェソド改めアィーアツブスへ。
基礎の反転、不安定の権能を使えと指示を出せば、アィーアツブスの口から発する悲鳴の金切り声。
耳にした者は実体・概念問わず安定したモノが不安定化。身体・異能もランクダウンし不安定と化す。
本来なら距離感や視界も歪み、繰り出す拳の命中率は低い。にも関わらず緋色に輝く右拳は頭部を捉え。
民家に向け殴り飛ばされ、リビングで仰向けに倒れるリンクス。世界最強と宣う装甲に亀裂が入り。
殴られた頭部は破壊──ではなく装甲が自ら崩れ落ち、粘度の高い泥の同然の液体と化して行く。
(マジ……かよ!!コイツ──復帰直後を狙った時と強さも覚悟も、別次元過ぎんだろ)
不安定化のデバフを受け、全能力が不均一でも一切関係無く力一杯殴り、両手から血を流すエックス。
しかし苦痛に怯む様子は無く、復帰直後の戦闘時より別次元に強く、情け容赦なしの戦闘スタイル。
一見エックスの勝ちは揺るぎ無いと思われガチだが──ベーゼレブルの表情は眉をひそめ、心配気味。
故に、パイモンに向けて右人差し指で此方に来いとジェスチャーを行い、腹を左手で抑え渋々合流。
「このままだと我が友は負け、全てが終わってしまう」
「ハァ?!どう見ても圧倒してンだろ」
「この戦闘だけを見ればな。問題は──底知れぬ殺意に心が呑まれ、ただの破壊者に成り果てる」
時間が無い為か。単刀直入に結論だけを話せど、視線を向けた先では撲殺真っ最中の圧倒しか見えない。
そう指摘され、今のエックスを改めて見てみる。民草や子供を大切に思い、我が君の面影を宿す発言。
宿屋で見た漫才紛いに料理をする姿、その時に話したお互いしか知らない、ありふれた秘密の会話。
寄り添う優しさと自己犠牲。自身が持ちえぬ魅力を持つ変な人間。だが今は……殺戮者、または殺す者。
表に出さぬだけで、二面性等誰にもあり得る。然れどここまで両極端なのも珍しい──否。
彼が『誰に』戦闘技能を教わったのか?と言う点を考えれば、至極当然にして全うな結果やも知れない。
「我々のどちらかが赤い靴システムに取り込まれた我が友へ組み付き、呼び掛けて正気を取り戻す」
「簡単に言いやがるッ!!」
ベーゼレブルとパイモン。双方の片割れがエックスをバックルの機能・赤い靴から正気を取り戻す。
言葉では簡単に思えるが、辿り着くには此方に背を向けているアィーアツブスを突破、もしくは──
不安定化した空間の中で、横を通り抜ける必要がある。会話以外の全行動、能力が安定しない為。
ただ走るだけの行為も左右にブレる他、判断力や視界も普段通りではない。ゲームで例えるならば……
入力ボタンが常時総入れ替えと言う、壊れたコントローラーでゲームを楽しむと言う玄人向け難易度。
だからこそ、パイモンは愚痴りつつ、先を走るベーゼレブルの後ろで六体の分身を作り並走する。
「イイィィィッタァァァァイィッ!!」
「チッ」
「ちょっ、嘘だろ?!」
突然痛みを訴える程に大きな金切り声で叫ぶと、ウィンプルが逆立つ髪の様に捲れ上がり。
後二メートル近くまで近付く二人に向け、後頭部に存在する般若の顔が露となり、開いた口から。
燃え滾る炎と濃い黄色の混じった息を吐き出す。ベーゼレブルは急遽地面を強く踏み締め、高く跳躍。
パイモン達も左右へ散り、直後を避けたのだが……分身二体が回避に失敗。赤い炎に呑まれた分身は──
全身火達磨と成り焼失。濃い黄色の粉に足が触れた分身は全身に麻痺が回り、呼吸機能も停止し消滅。
上下上半身に加えて前後にも顔があり、後頭部に至っては属性ブレスを吐くと言う常識外れな存在故。
ベーゼレブルは軽い舌打ちだけで済ませるも、初見のパイモンは悪魔界でも見ぬ出鱈目さに大層驚く。
「一々驚くな。我が友は長き旅路にこの程度の奴が幾度も現れ、倒したものだ」
「マジかよ!?……フッ。そりゃあ、寧ろ好都合ってな話だ──魔閃衝!!」
背中から蝙蝠を連想させる翼を生やし、滞空中に注意した後、無意識の親友自慢を嬉しげに吐く言葉に。
思わず視線が向くも、即座に真正面へ戻せば口角が少し上がり、満足げな様子でルシファーが使う技。
魔閃衝を分身体と共に拳を突き出して紫色の魔力を繰り出すも……相手との位置・距離・威力にさえ。
不安定が働き、全く当たらず煙幕を作るのが精一杯。しかし──白い歯が見える程笑みを浮かべる。
煙幕すら不安定化で歪めてしまう為、煙の中では自身の居場所を逆に教えてしまうと見抜いた戦術。
「コイツはオレが引き受ける。テメェが我が君の方に迎え!!」
(門前の小僧、習わぬ経を読むか。それとも直に学んだか。だがこれは……『我々には』嬉しい誤算)
位置さえ分かれば此方のもの。と言わんばかりに地面へ弱めの魔閃衝を叩き込み、粉塵を巻き上げ。
大きな声で自身の居場所を敢えて的に知らせ、ヘイト操作をしつつ揺れる煙の位置から攻撃先の予測。
及び大小交えたステップによる回避、煙幕の追加行為を繰り返し、攻撃せず時間を稼ぐパイモン。
予想外のルシファーと弟子たるエックス以外に、魔閃衝を修得している彼女へ嬉しい誤算と評価しつつ。
右手でリンクスの首を持ち上げ、指に力を込める親友の左側面へ飛び込み──そのまま海へ着水。
数秒して海面に気泡が上がり、素では泳げないエックスを脇に抱え、堤防の昇降梯子を使い上陸。
「き……貴様ッ!!ぼく達へ情けでも掛けたつもりか?!」
「情け?残念ながらお前達人類史上最悪の欲望にくれてやる餞別は──そんな生易しいモノではない」
「ど、ドゥー……ム?」
「あぁ。ほら立て。この星の──いや、この宇宙に君臨するロードが誰か……教えてやるぞ」
頭部右側装甲が崩壊。熱を加えたチーズの如く溶けた頭部に、相手を覗き込む形で残された右眼が。
自身らに情けを掛けた気か!と怨み辛みを込め、腹の底から叫ぶも対するベーゼレブルの返答は冷静。
相手を罵倒しつつ、遠回しにこれから死ぬお前達への手土産は別のモノだと、真顔で発言。
海水に落ち、漸く正気を取り戻したエックスは自身が親友の脇に抱えられ、ボロボロの相手に向け。
死刑宣告を突き付けている場面と錯覚。何が起きているか理解が及ばず、恐る恐る名前を呼べば。
自分の足で立つ様促して降ろし、自身の隣に親友が並び立てば、この宇宙に君臨せし。
王者は誰か?目の前の傲岸不遜な輩に教えると言えば彼は頷き、バックルに左手を読み込ます。
『グレードアァァップ!!』
「喜べ──人類欲。お前達の前に立つは、奇しくも同じにして異なる意味の二つ名を持つ者だ」
「……!?!?」
何かしらの条件が満たされた途端、バックルから力強い音声が流れ、中央の核が虹色に輝く。
バックルの破損率が高く、内部まで故障したのか。暫しの沈黙が続く中、ベーゼレブルは口を開き。
今から見せる姿を拝める事、奇しくも同じワールドロードの二つ名を持つも、異なる意味の二人。
その言葉に込められた意味を察したリンクスが、時間制限ギリギリに今直ぐ閉まる門へ駆け込む様に。
これから起きる展開を阻止せんと駆け出すのが……海に面した左側からパイモンが右頬へと殴り込まれ。
踏ん張り、吹っ飛びこそせず逆に彼女の右腕を掴み、邪魔とばかりに右側へと投げ捨てる。
『被害者と加害者』
丁度情け云々とリンクスが勘違いして叫び吠えている頃。エックスとは幾らか遅れ。
現場エリアの一つ前に駆け付け、戦闘の邪魔に成らぬ様、遠くから見るトリック、ジャッジ。
そしてアイエフの三名。其処で目の当たりにし、耳にするは……自身らの最推しが推しに対し。
融合変身をやるぞ!と言うベーゼレブルからエックスへの、合図にも似た言葉。
「おぉ……我らが王と最愛なる友のッ──融・合・変・身ッ!!その記念すべき場に立ち会えるとは!」
「確かに我らからすれば感動の場面だ。だがなぁ……」
水を得た魚のように。又は己の趣味に関して、怒涛の勢いたる早口言葉で喋るオタクの如く。
大興奮なトリックはハイテンション化。時に身を捻り、リアクションを現すに身体言語で。
あれやこれやと身振り手振りをし、同僚に喜びを伝えれど、ジャッジは嬉しさ半分。
複雑な気持ち半分と言った様子で、言葉のトーンも気乗りせず下がってしまう。
「だが──何だ?珍しく歯切れが悪いぞ、ジャッジ」
「ふむ。これは我らの王にも言い難い話なのだが……あの並び、事情を知る者からすれば」
「…………あ。被害者と加害者…」
ハキハキ言う普段とは全く異なり、自己責任や誰かの責任を追及し苦しむ様に歯切れが悪い。
トリックに言われ、改めて自覚し、言い難い言葉を直接的ではなく、少し迂回した表現で言う。
それは戦友であり、親友でもあるエックスとベーゼレブル。字面や戦果だけで見れば。
間違いなくベストパートナー・ベスト2か3に入るだろう。が……実は根底から見れば。
巻き込まれた側と巻き込んだ側と言う、被害者加害者コンビとなる事を、トリックも察する。




