ラルヴァ・リンクス
『前回のあらすじ』
sin歴161年。仮拠点の教会から邪悪の樹が天に伸び、九番目の球体から顕現したイェソド。
その力と権能、守護天使の前に苦戦する三人。桔梗と如月は礎の権能で同士討ちの殺し合いに発展。
海へ落とした筈の狐者異まで復活。権能の力を受けなかったベーゼレブルは一人善戦するのだが。
子供を避難させた教会が被害を受け、救出直後を攻撃されるも、パイモンの参戦で事なきを得る。
半壊した教会の客室に落ちるは面は割れ、針が高速回転するシンプルな円形の時計と、紙のカレンダー。
午前十時三十六分。午後十三時・十九時・二十三時……針は止まる事無く足早に延々と回り続け。
カレンダーも爆風を受け、四月二十二日から五月四日まで次々捲れては千切れ、宙を舞い熱気で焼ける。
教会の前に降り立った魔王・パイモンは、東大陸を暗雲で覆い尽くしたであろう元凶のイェソドを見る。
シスターを思わせる風貌、鼻から上が見えないものの。彼女は目を細め、顔を見れば分かる程苛立つ。
その間にベーゼレブルは目にも留まらぬ速度で教会の裏庭へ回り込むと、抱えるタカトを地面に寝かせ。
左手で優しく額を撫でて微笑み、薄紫色のバリアを張れば先程と同じ様に高速移動でパイモンの隣へ。
「チッ……守護天使を連れながら悪魔同然の外道行為をしやがる」
「流石は魔王。一目で見抜くとは。だが……」
反吐が出る、虫唾が走る。憎々しい形相でイェソドを睨み付け、天使を従える者が、悪魔同然の──
あるいは、それ以上外道行為を行う事に腹立たしく思う。以前の彼女なら、これ程の怒りは無かった。
我が君の面影を纏い、古い記憶に残る言葉を一言一句違えず、言い放つ者が……彼女の歪んだ心を正す。
パイモンの眼力を認め、褒めるベーゼレブル。だが──と続く言葉は小さく、常人では聞こえない程。
然れど、悪魔であるパイモンの耳はその小さき呟き「命を弄する愚者の幻想でなければな」…
それを聞き、己に対する身勝手さ・怒り・後悔から歯を噛み締め、両手で作った拳を強く握り締める。
「……本気を出せばアンタだけで倒せるだろ?何手ぇ抜いてんだよ」
「我々にも事情があってな。それより、あの黒竜はどうした?」
「あんな放浪収集者を当てにする方が頭おかしい──ッ?!」
睨む相手を隣のベーゼレブルに変え反論するも。ある事情故に本気を出せず、話をすり替える形で。
エックスに同行してた黒竜・ユウキはどうした?と聞けど、彼女が自由奔放で放浪癖のある収集家。
そんな性格を知るパイモンだからこそ、当てにする方が間違い。と指摘する中……胸の奥がザワつく。
右手で胸元の衣服を鷲掴み、目を見開く。心臓が跳ねる度、血液が全身に巡る度不安・恐怖・絶望感が。
まるで暗闇の背後から自身の恐れる存在がコツコツと足音を鳴らし、肩を掴んで耳元で囁く様に訪れる。
流れる冷や汗、動かぬ体、張り巡る異常なまでの、順番に一人ずつ殺される列に並んだも同然の緊張感。
「計画通り厄介な破壊者を並行世界に幽閉。その間にこの基軸世界を支配するとしよう」
イェソドの正面にある空間が突然歪み、薄暗い紫が渦巻く中から現れた存在が二人の前に歩いて来る。
その姿は黒く丸みを帯びた甲虫類の甲殻を纏った、人型昆虫とも呼ぶべき存在。足音は重々しく──
歩く度にコンクリートの地面を浅くも窪ませ、奴が放つ違和感に思わず片手で鼻や口を覆う二人。
淡々と話す言葉には邪魔者ことエックスの幽閉、破壊者の居ぬ間に支配を~と身振り手振り言い放つ。
そんな姿と声を見聞きし、睨み付けるベーゼレブルは歯を強く噛み締め握り拳を作る中。
互いを攻撃し合う桔梗と如月は、漆黒の大剣と銀のナイフで鍔迫り合い拮抗している様子。
「この感覚、否でも覚えがある。貴様ら……まだ知恵を持たぬ頃、私の人格を支配した人類の根源欲か」
「流石は元魔神王。ぼく達の存在を一番強く感知出来るのは、一心同体だった頃の名残りかな?」
「気色悪い事を。貴様らは我が友が破壊した筈!」
それは──魔神王としての肉体より自ら切り離し、再び取り戻したベーゼレブルだからこそ感知出来。
苛立たしく、憎悪が腹の底から沸き立つ感覚に襲われるも、冷静さを保つべく相手の情報を開示する。
前大戦と言う物語の黒幕が無月闇納だとすれば、今目の前に居るコイツこそ……物語全ての根幹であり。
自身の正体を見破ったベーゼレブルに、皮肉混じりの言葉を返せば気色悪いとバッサリ切り捨てられ。
破壊者が前大戦で倒した筈の、魔神王に取り憑いた人類の願望が何故今此処に?と問いつつ。
真っ直ぐ右人差し指を向け、黒紫色の細い魔力針弾を連続して五発、額・喉・心臓・鳩尾・股間へ撃つ。
「そうそう。あぁ~んな落ちこぼれの人間なんかにさ。このぼく達が二度も倒されて──」
しかし相手は歩を止めど防御体勢は一切取らず、魔力針弾は宙に亀裂を五つ入れた所で停止。
やれやれ……とでも言いたげなジェスチャーを行い、エックスを落ちこぼれの人間と貶す言動に。
ベーゼレブルは顔こそ冷静さを保てど、込み上げる怒りが握り拳に力を込めさせ、震えさせる。
のだが、二度も倒されて~と言う言葉に疑問が浮かぶ。一度目は前大戦の最終戦。では二度目は?
そう考えた時、ハッと思い出す。「もしや我が友が此方へ帰還した時か!」点と点が線で繋がり納得。
「今やLarva・Linkだよ」
「はぁ?何だよ、その名前。頭でも狂ってんの──ッ?!」
ラルヴァ・リンクス。自身をそう呼ぶ相手に対し、名前の意味を理解した上で頭がおかしいのか?
そう聞き返した途端、パイモンは腹部に高速で撃ち込まれた何かの加速・威力を受け、燃え盛る教会へ。
ベーゼレブルが教会内部から敵へ視線を向ければ、ラルヴァ・リンクスは先程自身が行った魔力針弾を。
敵へ発射した時と同じく、右人差し指をパイモンに向けていた為、一度でやり方を学び、自己流へ。
アレンジに螺旋回転を加え、威力の底上げと障壁・結界対策に突破力も施してあるのだが……
一番の問題は『撃ち出した物』である。先程は見ていなかったが、弾次第では威力は跳ね上がる。
「ぼく達ばかりに注意を向けて良いのかい?ほら……彼女達、そろそろ死んじゃうよぉ~ん?」
『後は任せた』
「チッ……」
倒すべきこの物語の黒幕、人類の願望にして根源欲。エックスが二度も倒し、弱体化も相当大きい。
倒すなら今、絶好の機会。逃がす訳には行かないのだが……此方に腰を曲げ、両手を斜め下へ構えると。
ベーゼレブルの背後へ右手を向け、注意を促した直後。左手で如月の首を掴む桔梗が通り抜ける中。
エックスから託された言葉を思い出し、彼が歩む茨の道──その苦労と障害、困難の一部を改めて知る。
寄り添い・守り・手を差し伸べ、最前線に立てば盾となり矛となる。繰り返す心の自傷、自殺。
それを理解し、殺し合う二人を止めるべく飛び出せば。待ってたとばかりに相手は右人差し指を向け。
黒い何かを飛ばす。当然予測済みのベーゼレブルも面倒だと舌打ちしつつ、同じ様に魔力弾を撃つ。
(成る程。我が友が急激に力を、技術を身に付けれた理由はコレか……)
(ほう──腐っても鯛。いや、これは脱皮と言うべきかな?)
右人差し指でリンクスの撃つ何かを迎撃すれど、魔力弾は全て打ち負け、黒い弾が迫り全身に直撃──
する直前。腰に巻いた服を左手で外し、両袖を引っ張れば相手の黒弾は回転を維持したまま加速を静止。
更に両手で袖を持ったまま素早く左右を交差させ、再び交差。されど勢い良く広げれば。
服で受け止めた弾をそっくりそのまま撃ち返し、リンクスは驚く様子も無く両拳で弾を打ち砕く。
そんな中、エックスが急激に成長して強敵を撃破出来た理由は、死中に活を求め続けたからと認識し。
リンクスは突発的な、又は本能的な返し技を編み出したベーゼレブルの成長を、脱皮と内心褒め称える。
「くっ!!……ハッ、こんなモンかよ。もっと本気を出せってんだ!」
「ッ……その言葉、そっくりそのままお返ししますわ!!」
ベーゼレブルとリンクスが戦う傍ら、激突して黒の魔力と青い霊力が閃光を放ち、弾かれる桔梗と如月。
魔力と霊力は油と水も同然の反発し合う性質。第三者からすれば、二人の左右後方が真っ暗闇な中。
馬鹿の一つ覚えを繰り返すだけに見える。それでも相手を呼び掛ける様に挑発し、武器・拳・蹴り。
果てには頭突きをしては勢い良く弾かれ、背中から仰向けに滑り込む様に転倒。そしてぶつかり合う度。
落雷にも似た音が鳴り響き、眩い閃光を幾度も繰り返す。それをチラッと見たリンクスは──
「貴様ら!!」
「クソッ、バレたか!」
「これで最後」
突然焦った様子を見せ、激突する二人を乱暴に呼んだ時。桔梗は自身らの企みが早々にバレたと愚痴り。
如月の呼び掛けに応じ、二人は素早く両手を突き出す。先程から行う行動の意味を察したリンクスは。
冷静さを欠けた余り跳び出し、身を丸めて自身を砲弾にして迫るも。桔梗と如月の両手の平が接触。
同時に魔力と霊力が触れ合い、反発しお互いを後方へと弾いた結果。閃光は放たれ、体当たりも回避。
避けられた先は、何も見えない闇の中。然れど助走をつけて跳んだ事もあり、直ぐに闇を突き抜けた。
が……突き抜けた先は海上で浮遊するイェソドの真横。体当たりを左側面に命中させ、同士討ち。
更に突然の展開に驚き、痛みの余りイェソドは浮力を失い、海の中へと沈んで行く敵二名。
「ふぅ……即バレやしないかと無駄にヒヤヒヤしたわぁ…」
「一体何をしていた?」
「私達だけが使える特殊な信号を発信していた。とだけ言わせて貰います──わ」
右腕の袖で冷や汗を拭い、企みが即座に見破られないか?と不安だった桔梗。
何かを行っていた二人に問い掛けるも、詳しい内容は話してくれず、話が終わる……矢先。
海中から撃ち出される黒い弾。狙いは自身と桔梗、ベーゼレブルの三名、それも頭部を狙い撃ち。
しかし黒い弾は突然軌道を変え、飛び出して来た海中へと全弾全く異なる速度で帰って行く。
すると海面を突き破り、浮上し現れるイェソド。その右側には宙ぶらりんなリンクスの姿が。
「イェソド──反転」
放送アナウンスの様に。又は機械が次の行動へ移るのを説明する様に、自身の反転を宣言後。
イェソド自身が半回転した……までは宣言通り。当然頭が下に、足が上を向く都合上、女性用修道服。
トゥニカと呼ばれるワンピース、もしくはロングドレスが盛大に捲れた時……三人はその姿に驚愕する。
反転すれば下半身が見えると普通は思うものだが、二つの上半身が上下に組み合わさっていた事や。
イェソド時は深々と被ったフードに隠れ、見えなかった顔。反転した為、新たな服装と顔が見えるも──
「アィーアツブス、反転起動。イェソド時の封印機能・天使の羽解除」
その姿は藍色の女性用修女服を着た、上半身の右半分が白骨化した状態で祈る腐敗済みの女性。
背中から生えている様に見えた天使の羽が分離し、羽に擬態していた六本の人間の腕が現れる。
それぞれが杖・剣・槌・銃・素手だけ二本と言う、何の共通点があるのかも分からない武器を持つ。
アィーアツブス時はフードではなくベールの為、視覚と嗅覚で相手の戦意を確実に削ぎ。
天使の羽と勘違いしていた六本の腕から繰り出される、遠・中・近に加え自前バフ・デバフの連携攻撃。
怒涛の猛攻に倒れる如月、続けて桔梗も倒れ伏す。残ったベーゼレブルが相手に駆け出すも。
杖を向けられた途端走る速度が落ち、二本の素手が音楽家の指揮者さながら何かを操作後──
歩を進める先に赤い魔方陣が現れ思わず踏めば、五回分の大爆発に呑まれ……右膝を地に着ける。
『人+夢』
暗雲に覆われた港町トワイライトの中央倉庫エリア。爆風被害も全然残っており、誰も居ない──筈が。
天井の壊れた四番倉庫内へ逃げ込む子供二人。片や朱色の短髪っ子、片や茶色いセミロングの子。
二人の両親は腐り落ち、もうこの世には居ない。其処へベーゼレブルが吹っ飛ばした狐者異が──
背中で地面を滑るも、衣服が引っ掛かり二度三度と後転。引っくり返った狐者異の眼に……二人が映る。
「──ッ!!」
ゆっくりと立ち上がるや否や、四番倉庫内へ侵入し、子供と言う儚い命へ迫る恐怖の名を冠した異形。
口から漂う死臭、動く屍同然なボロボロの皮膚。眼は子供達を餌としか捉えず、恐怖が込み上げる。
茶髪セミロングの子は神様仏様と呟き、必死に助けをも止めるも神仏が助ける様子は微塵もない。
朱色短髪っ子が茶髪っ子の前に飛び出し、両手を左右に大きく広げて「お……お前なんか怖かねぇぞ!!」
そう意気込めど、自身らの命が助けられる武器は何もない。それでも……勇気を胸に一歩も引かない。
狐者異が伸ばした右手が朱色っ子の首に触れる位近付く。その時──子供達の前に楕円形の光が降下。
「……」
地面に着くと眩い光を暫く放ち、浴びた狐者異を消し去ってしまう。代わりに子供達の前に立つのは……
藍色の長ズボンに白いTシャツ、捻れた虹色の指輪を左薬指に嵌める黒い短髪男性の背中。
彼はゆっくり振り返ると屈み、朱色っ子と視線を合わせて小さな左肩に手を置き……『頑張ったね』と。
そう言った後。その場で立ち上がり、港側へ軽快に駆け出して行く背中を見送るしか出来ない子供達。
「かっけぇ~……」




